第20話 『却下だ』

 ゴリ喫茶の椅子は大きい。店主の好みらしいが、詳しいことは知らない。


 ゴリ爺は、その大きな椅子に俺たちを座らせ、自分も隣のテーブルから椅子を持ってきた。小さなテーブルではないが、4人で座るには若干狭い。特にメンバーがゴリ爺のような巨体では。


「で、何だ?まさかただ朝飯を食いに来たわけじゃないだろう?注文位は聞くぞ?」


ゴリ爺はいたずらっぽく笑い、肩をすくめて首を傾げた。


するといきなり何かがぶつかる音がした。


「うおっ!何だ?!」


俺は焦って辺りを見回す。特に怪しい者はないが……


「ふふふ、ゴリ爺かわいい〜」


母さんがゴリ爺の方を見て笑っている。見ると、ゴリ爺の顔が赤くなっていた。


「脚をテーブルの足にぶつけたくらいで赤くなることないじゃない♪」


ゴリ爺は少しばかりの硬直の後、何事もなかったかのように目をそらした。


 とてつもなく似合っていないその子供っぽい仕草に、俺はちょっと吹き出してしまった。


 父さんと母さんはそれにつられ、ふっと微笑んだ。


 父さんはゴリ爺の方を向いた。


「さて。それもあるんだけどね。今日はちょっとユナの話をしに来たんだ」


 そう。今日はその話をしにきたのだ。俺は背筋が伸びるのを感じた。ここで働くかどうか。ここで断られてしまっては、俺の今後はどうしようもなくなってしまう。


 いくら可能性を秘めていようとも、Eランクスキルしか持っていないような人間は、どこでも書類の段階で雇って貰えないのだ。


 つまるところ、ゴリ爺が唯一の拠り所である。


 頼むぜ、ゴリ爺……!


「ユナの話?ああ、そういうことか」


 ゴリ爺はウンウンと頷く。感触は良さそうだ。流石に半月のバイトの甲斐はあったようだ。


「そうそう。どうかな」


 父さんはいつものニコニコ顔を崩さず、ゴリ爺に押していく。父さんのこの顔に押されなかった人間を、俺は未だかつて見たことがない。


 ゴリ爺は顔を上げた。そして、口を開き、言った。


「却下だ。ユナは雇わない」


あ、いた。他人事のようにそう思った。

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