第19話 『ゴリ喫茶にて』

 店の扉を開けると、カランカランと小気味よい音で鈴が鳴った。ゴリ喫茶の扉の鈴は、店主に似ず風流な音を奏でる。


 いつもどおり客の少ない店内にため息をつき、俺は足を進めて店内に入った。よくもまあ、この客数で運営できるよなぁ。店の中にはやはりいつもの顔ぶれしかいなかった。


 ふと、正面から店に入ったのはいつぶりだろうかと思った。この視点からだと見慣れた場所でも新鮮だ。俺はキョロキョロと店を見回した。


「ここに来るのも久しぶりだね、アメリア」


「久しぶりってほどじゃないけど……15年ぶりくらいかな。ユナも大きくなるわけね」


「15年は十分久しぶりだと思うよ」


 俺の横では、父さんと母さんが笑顔でうなずき合っている。結婚してもう長いはずなのだが、未だに仲良さげにいちゃつくのは流石にちょっと息子の俺でも引いてしまう。


 父さんも母さんも、行動だけでなく見た目も大概若く、母さんに至っては俺の姉に見られる程だ。正直、俺も二人の正確な年齢を知らない。二人の顔をちらりと見た。息子が言うのも何だが、二人とも一般的に見てとてもきれいな顔立ちをしている。父さんは異国っぽい顔立ちで、母さんは貴族の令嬢のような顔立ちだ。


 まあ、二人とも性格に難ありって感じなんだけど。


 父さんと母さんはとりあえずいちゃつき終わったのか、店を見回して、ゴリ爺の姿を探していた。


「ゴリ爺いる〜?」


「出てこないと切っちゃうわよ〜」


 そうそう、こういうとこだ。


 ゴリ爺と二人は古い仲で、しかも、聞くところによると父さんとゴリ爺の間には昔色々あったらしい。まあ今はかなり仲がいいのだが。俺は一つあくびをした。


 すると、店の奥からドスドスと床板を踏み抜いてしまいそうな足音が聞こえた。


「おお!よく来たな!」


 厨房から歩いてきたゴリ爺は、両手を広げ、破顔して俺たちを迎え入れた。


「まあ座れ」ゴリ爺が空いた席を指して促す。奇しくもその席は、俺が一昨日泣いた席と同じだった。

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