第12話 『父さんの考え』

 その後どうやって家に帰ったのか覚えていない。気づいたら家にいたのだ。何度夢だったらと思ったろうか。そんな幻想はステータス画面を見る度に打ち砕かれる。俺は膝をついたまま、その日一日を終えた。遺書すら書く気力が失せた。


 俺はベッドに横たわった。狭い部屋の灯を消した。暖かく俺を包んでいた光が消えて、薄ら寒い闇に放り出された。何も考えたくなかった。いつの間にか目を閉じ、いつの間にか死んだように寝ていた。


 そして、翌日。


「ユナ、ユナ!」


 耳障りな声が俺の眠りを覚ました。おそらく父さんがリビングから叫んでいるのだろう。壁が薄いから簡単に声が通る。俺は苛ついて叫び返した。父さんはなんでいつも人の思いを考えられないんだ―――!


「なんだよ父さん。今の俺の気持ちくらい察せねえのかよ! ほっといてくれ!」


 俺はまた睡眠の体制をとった。しかし、次の一言で俺の目は一気に冴えた。


「それについてなんだけど、もしかしたら――――いや、今はいい。とにかく、話があるんだ。今すぐリビングに来なさい」


「……なんだよ」


「ユナのためになる話だ」


 父さんはそう言い切った。父さんはふざけた男だが、こういうときはしっかりしている。俺は首を傾げながらリビングに向かった。昨日来ていた服のまま、廊下に出て、リビングのドアを開けた。


「来たね」


 父さんがそこで待っていた。

 狭い家の半分の面積を占めるリビングは、大きなテーブルや棚が置かれて自由なスペースがほとんどない。その狭いスペースの一部、ドアのすぐそばに父さんが立っている。母さんはいない。まだ寝ているのかもしれない。


「おはよう」


 父さんが挨拶をしたが、俺は無視した。父さんは似合わない祭祀服を着てそこに立っていた。普段何をしているのか全く分からないが、少なくともそれを着ているのは見たことがない。父さんのスキルが何だか知らないが、あまり小綺麗な仕事ではあるまい。ともあれ、この状況で何を言われるのか想像も出来なかった。


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