第11話『絶望』
今日の朝、俺は足取り軽く教会へ向かっていた。ギフトの授与を前にして、浮足立っていたのだ。良いギフトが貰えればそれで良し。そうでなくても、ゴリ爺の言うように、村人の楽しみを味わえるギフトが貰えればそれはそれで満足だった。
でもなぁ…やっぱり強いギフトが欲しい気持ちは変わらないなぁ……
結局強いギフトを得ればいい暮らしが出来る。使えないギフトなら生きていくことすら怪しい。今日はそんな大切な日なんだと、俺は緖を締め直した。
教会の前に着いた。深呼吸をして重い扉を開いた。中に入ると良い香りが漂い、俺の事を祝福しているかのようだった。
「ユナか」
神父様の声。
時々来ている教会のはずだけど、今日はいつもと違う気がする。
「はい。神父様」
返事をした。見知った仲ではあるが、今日ばかりは緊張が混じっていた。
「―――――始めよう。腕を掲げなさい」
心臓がバクバク鳴っている。ここで得るギフトで人生のほとんどが決まると言っても過言ではない。ああ、出来るなら良いギフトを……!!
「ステータスオープン」
俺の腕から青い光が飛び出した。儀式が始まったのだ。神父様が俺のステータスを開いている。まだ何も書かれていない、白紙のウィンドウだ。俺は目を閉じた。これから書かれるものを見るのが怖かった。
「ラフィー様、この者に栄光を」
瞬間、まぶたを貫通するほどまばゆい青い光がきらめいた。神父様が大声で言った。
「宣告する! 汝の得たスキルは――――――
一つ!」
一つ……? 俺は少し怖くなった。スキルが一つだけの人はなかなかいない。少なくとも俺は見たことがない。最悪の場合、最低ランクのDランクスキル一つなんてことにも……
いや、そういえば村人の高位スキル持ちは、スキル数が少ない傾向にあるって聞いた気がする。一つってことは、それかも……?
俺は少しだけ期待を抱いた。
「内容は……………なっ!?」
神父様が突然素っ頓狂な声を上げた。何かあったのだろうか。もしかしたら、俺のスキルが強すぎたなんてことも……? あまりに眩しくて薄目を開けることしか出来ないが、俺は自分のステータス画面を見た。
そこに書かれているスキルは一つだけであった。しかし、かなり長いスキルであった。俺は胸が高鳴るのを感じた。
伝え聞いた話であるが、低位スキルの「付与」が上位互換の高位スキルになると「エンチャント」というふうに、高位スキルほど長くなるらしい。もしかしたら本当にもしかするかもしれない………!!
「ごほん。失礼した。初めて見る内容であったのでな。少しばかり驚いてしまった」
神父様がそう言った。神父様が初めて見る内容!? この道70年と噂の熟練神父様が!? 俺は胸の高鳴りを抑えきれなかった。しかし、なぜだろう。神父様の声が、少し憐れみがこもった声だった、ような気がした。
「改めて、内容は――――――」
俺は目を固く閉じ、宣告を待った。神父様は少しばかりためらった後、覚悟を決めたようにして言った。
「―――――Eランクスキル!『ストレージ収納』!! この一つだ!」
………………………は?
俺は、言われている意味が分からなかった。脳が情報をシャットアウトしていた。
「まあ、その、Eランクスキルなんてこれまで前例のないスキルだ。ストレージ収納なんてのも見たことない。旅する語り手にでもなればお前の話を聞きたがる奴がいるかもしれん……かもしれん」
神父様が何か慰めているような気がしたが、俺は何も聞こえなかった。膝から崩れ落ちた。ストレージ収納……??? そんなのでどうやって生きていけばいいんだ?俺はこれからの人生が潰れてゆく音が聞こえた。
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