第16話『最強の村人』


「こんな事が……」


 自分の目が信じられなかった。俺のスキルは亜空間収納スキル、「ストレージ収納」だけのはずだ。だが、現に俺が発動したスキルは『偽装スキル』でしかありえない。自分が持っているスキル以外は使えない。そんな当たり前が崩れていった瞬間だった。


「なるほど。ストレージ収納ってそういうことね。いやぁ。これはなるほど……」


 父さんはもう何かを分かったかのような顔でうなずいていた。いや、当の本人が分かってないんですけど?

 それを察した父さんが苦笑してこちらを向いた。


「つまりね」


 父さんは口を開いた。


「ユナの『ストレージ収納』は、物だけじゃなくてスキル効果も収納出来るんだ」


「……えーと? もう一回言ってもらっていい?スキル効果の収納ってどゆこと?」


 スキル効果を、収納?俺の中の常識がどんどん崩れていく。


「ユナ、ステータスを見てごらん」


「ああ、いいけど……」



【ユリーナ=メロリング】

〈クラス〉

 村人Lv1(レベルアップまで残り経験値46)



〈スキル〉

 Eランク

 ・ストレージ収納Lv1(熟練73)




「さっきのスキルが消えてる!?」


 さっきまであった偽装スキルはそこにはなかった。ただストレージ収納のスキル熟練度が上がっているだけで、さっきまでのもとの画面と同じだった。


「収納したものを取り出せば消える。当たり前だろう? ユナは、僕の『偽装』したボタンを収納したから、僕の偽装スキルを手に入れた。で、今それを使った。だから今はユナのストレージには何もない。簡単だね」


 父さんはなんでもないことのように言った。今まさに世界の常識がひっくり返されているとは、つゆほども感じさせぬような微笑を浮かべながら語った。

 でも、父さんの話が本当なら、俺は今スキルが何でも使えるということになる。

 それって……


「――――最強の村人なんじゃねえの?」


 俺は右手を強く握りしめた。


「ま、ものは試しだ。ユナも色々試してみたいだろう?僕と母さんで試して見るといい。きっと面白いことになるよ」


 父さんは少年のように目を輝かせながら言った。我が子のことを思う気持ちの他に、学術的好奇心も含まれているような気がした。


「ま、いいけど」


 こうして、俺と父さん、そしてまだ寝ている母さんは俺の可能性を模索し始めた。俺は期待に胸を膨らませ、一日を過ごしていた


 だが、俺は知らなかった。その影で、俺の他に、二人。二人が深く俺の人生、そして世界のこれからに関わっていることを。

 俺はまだ、知らなかった。

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