②(イセカイって何だ?)
「さて、だ」
神は急に威厳に満ちた声で語りだした。スグルは何か大事なことを話しそうな雰囲気を感じ、思わず背筋を伸ばした。
「お前さんは儂のミスで死んでしまった。それは間違いない」
「はい」スグルは軽く頷く。その反応を見て、神は言葉をじっくり選んで続ける。
「だがな。申し訳ない。お前さんを元の世界に戻すわけにはいかんのじゃよ。残念じゃが、それがルールなんじゃ。納得してくれ」
「へえ。そうなんすね」だが、スグルは何だそんなことか、と言わんばかりの軽い反応を返した。
「…いや、儂が言うのもなんじゃが、もっと泣くか喚くかしたほうが良いぞ?もう元の世界には帰れないって言ってるようなものじゃぞ?状況分かってるかい?」
「別に、ギャンブルが出来なくなったこと以外は特に未練は無いっすね。親以外と話すことないんで。その親も愛想尽かしてましたし」彼は何でもないことかのように、本当に何でもないのだろう、そう言った。
「お、おう…そうか…」
スグルのあまりにもひどい現世に、神は苦笑いを隠せなかった。降り注ぐ柔らかな日の光が、彼らの体を優しく撫でた。神は咳払いをした。
「まあ、とは言うものの、儂のミスで死んでしまった人間をそのまま冥府に送るわけにもいかん。儂の神様査定ポイントにも関わってくる」
そして、神はどこからか一冊の分厚い旅行雑誌のような冊子を取り出し、スグルに手渡した。
「そこで、だ。今流行りの、異世界でウハウハチート生活を送ろうキャンペーンを実行しようと思う」
神は、冊子を見るように促した。スグルは適当なページを開いた。
『世界番号А−17−n。神話の剣を手に入れて無双しよう!』
『世界番号G−22−e。全属性魔法と無限魔力を手に入れよう!』
『世界番号T−91−e。願うだけで殺せる能力で世界征服しちゃおう!』
「……なんすか、これ」
「よくぞ聞いてくれた!これはな、『これ一冊で丸わかり!EN異世界移住カタログin日本語』だ」神は、神らしからぬドヤ顔で言った。おそらく、スグルに驚きを求めていたのだろう。ラノベ的展開に胸踊らぬ日本人はいないと確信していたのだ。
だが、スグルは首を傾げ言った。「イセカイ?伊勢海老の仲間ですか?」
瞬間、予想を裏切られた神に、雷でも落ちたかのような衝撃が走った。
「ななななななんと‼異世界を知らんのか⁉昨今の流行りであり、世界を巻き込む一大ムーブメントである異世界を⁉お前さん本当に生きてたかい?異世界を知らずしてなぜ日本で生きて行けたんじゃ⁉このカタログは一般庶民なら垂涎して洪水が起きそうなほど価値あるものじゃというのに‼」
神は早口でまくしたてた。泡が出るほどの熱弁ぶりに、彼も少し引き気味であった
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