第14話 『本当の力』

「じゃあこれはどう?」


 そう言って父さんは何かを机に置いた。


「……ボタン?」


 それは、服を留めるボタンだった。木でできていて、とても軽そうだ。


「多分、行ける」


 俺はもう一度ステータス画面を開いた。これくらいはいけてくれないと、詐欺としか言いようがない。マジで頼むぞ……!

 俺は祈るようにスキルを発動した。目を閉じて、手を組んだ。


「『ストレージ収納』」


 俺は、ゆっくり目を開けた。

 果たして、そこにボタンは無かった。机の上にあったはずのボタンは影も形もなくなっていた。成功、したのか。


「ふぅ……」


 人生初めてのスキル使用。どこか緊張するところもあったものの、やはり達成感は大きいものがある。こんなゴミみたいなスキルでなければ、もっと感動に身を震えさせていたんだろうなと悲しくなった。


「じゃあ連続で悪いが、もう一個行けるか?」


 父さんはまたボタンを机に置いた。試すような視線を俺に向けた。

 いやいや、バカにするな。いくらなんでもそのボタンくらいいくらでも収納出来る。


「『ストレージ収納』」


 俺はステータス画面を開かずにスキルを発動した。もう既に体が感覚を覚えていた。失敗をする訳がなかった。


「は!!?」


 だが、ボタンは変わりなくそこにあった。これは、つまり……


「スキル発動は出来てたよ。これは―――」


 父さんがボタンをポケットにしまった。俺は自分の可能性に絶望した。まさかここまでとは、思ってもいなかった。


「――――ユナの収納スキルはボタン一個分ってことだね」


 父さんはためらいなく言った。


 分かっていた。昨日から知っていた。Eランクスキルなんだから、そりゃあそうだろう。でも、現実を直に突きつけられると、思うものがあった。


 父さんは俺の姿など気にしていないかのように、手を出した。何故か、とてもご機嫌な表情だった。


「ボタンは返してね」


「ああ、はい」


 父さんの手の上に自分の手を出した。


「『ストレージ収納』解除」


 父さんの手にボタンがのった。俺はもうステータス画面を開かなくても使いこなせる自信があった。多分、無詠唱でも使えるだろう。しかし、こんなスキルではそんな才能は意味がない。

 手を引いて、ふと、父さんの顔を見た。


「?」


 なんで、笑っているんだろうか。嘲笑している訳でも、苦笑いしている訳でもない。ただひたすらに面白いことでもあったかのような、子供のような笑いを浮かべていた。


 俺は、父さんの手の中のボタンを見た。


 そして、はっと息を呑んだ。


 父さんを見た。悠々と笑っていた。これは、父さんの仕業なのか?いや、でも……


「気づいた?」


 父さんは俺の肩に手を置いた。ボタンが床に落ちた。金属質の、カラカラとした音が鳴った。


「これがユナの本当の力だよ」


 父さんは話の続きを始めた。

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