第9話 『村人だからできること』
そうして、なんとかラストオーダーにたどり着くころには、俺がは疲労で倒れそうになっていたのであった。
「またねユナちゃん♪イケメンさんに会えて嬉しかったわよ。店長さんによろしく」
カランカランと扉を閉じる音がした。閉じきるやいなや、俺は直ぐに椅子に座り込んだ。
ついさっきまで賑やかだった店内は、もう既に耳鳴りがしそうなほどの静けさに包まれていた。
「ふぃぃぃぃ……。やぁっと終わったあ……」
俺の声が店内に大きく響きわたる。
本当は直ぐに看板を下ろさないといけないがどうせ客なんて来ないだろう。ちょっと休憩することにした。
机に突っ伏して、なんとなく今日の事に思考を巡らせる。
大変だった準備。ふざけまくる常連客たち。いつもにまして賑やかな店内。てんてこ舞いな一日。笑顔が絶えない世界。ひどく疲れる世界だったが。
「……楽しかったな」
いつも奥でゴロゴロしていて気づかなかった、ゴリ爺の見る世界。村人がいつも見ている、他人の笑う顔。
「………それ目指して………生きていっても良いかもしれない」
俺は気づいた。他人が笑う顔を見るのが好きだ。喜んで貰うのが好きだ。
「明日は、料理とかのスキルが貰えればいいなぁ…」
ぽつりと口にして、自分の口にした言葉に気づき、驚く。村人として生きていくのを許容するその言葉は、しかし、とても心地よかった。
頬杖を付き、窓の外を眺める。
自分のやりたいことはまだ分からない。だが、どんなギフトを授かったとて、己の生き方を見つけていけるようになりたい。
「――――なんてね」
俺は立ち上がり、スタッフルームへモップを取りに向かった。
その夜は、気負うことなくよく眠れた。いい夢を見た。勇者になって、魔王を倒す夢だった。
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