第5話:暗殺2

 ライラ一座の掟の一つ、お世話になった町や村の掃除をする、色んな意味で。


「上出来だ、だったら気を抜くなよ」


「はい、先輩」


 サリーと先輩の強さは、人の枠を超えた鬼神の強さだった!

 一陣の風となって山賊団の間を駆け抜け、その度に複数の山賊を殺す。

 どれほどの悪党であろうと、嬲る事なく、一刀で首を掻き切り即死させる。

 その技の冴えはライラ暗殺団でも飛び抜けたモノだった。

 それもそうだろう、先輩は暗殺団の団長だったのだから。


「ふむ、ここまで腕があるのなら、あの仕事をやらせても大丈夫だな」


 団長は二十一の遺体を前にして意味ありげに呟いた。

 サリーは不思議に思った。

 暗殺団の事は色々と聞いていたから、新人に聞こえよがしに言葉を漏らすのは、明らかに何かおかしいのだ。

 それでも、自分から何か聞くわけにはいかないので、黙って言葉を待った。


「実はな、ある悪王妃の暗殺依頼が数多く集まっているのだ。

 その悪業はあまりに酷く多いため、そんなことになっているのだが、流石に相手が王妃だから警備が厳重で、決行できないでいたのだ。

 だが、お前が加わるのなら、暗殺を成功させる事ができるだろう」


 話を聞いたサリーは身が引き締まる思いだったが、実際には叩き込まれた教えと技によって、身体を緊張させる事も心が動揺する事もなく、平常心で黙って話の続きを聞いていた。


「ふむ、この話を聞いても平気でいれるとは、いい度胸だ。

 だがこの話を聞いても平気でいられるかな?

 相手の王妃はお前をライラ一座に売った張本人だ。

 いや、それだけではなく、お前の実の母親を殺させた相手だ」


 団長の話を聞いたサリーは、内心大きな衝撃を受けていたが、それを表情に現す事も、身体に無用な力を入れる事もなく、何時でも動ける状態にいた。

 だからこそ、団長が何の予備動作もなしに、心臓めがけて一直線に突き出してきた剣を避けることができた。


「くっくっくっくっ、これも避けるとはな、本気で驚いたぞ。

 それだけの才能と能力があれば、歴史に名を遺す暗殺者になれる。

 もっとも、残るのは世間が決める通り名だがな。

 よかろう、母親の仇を討たせてやるから、今から城に忍び込む特訓だ。

 もう一座に戻らなくていい、お前は暗殺専属だ」


 サリーは売春婦にならなくてすむ安堵と、母親の仇を討ちたい気持ちで一杯だったが、それでも身体に無駄な力を入れる事はなかった。

 サリーには分かっていたのだ、まだ団長の試練が続いている事が。

 全てを話して試練が終わったかのように見せかけて、安心してしまうのか確かめていると、分かっていたのだ。

 そんなサリーの姿を、団長はうれしそうに見ていた。

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