第4話:暗殺1

 サリーの初仕事の相手は、男爵家の跡継ぎだった。

 依頼者はその跡継ぎに弄ばれた騎士家令嬢の父親だ。

 本来なら正々堂々と決闘を挑めばいいのだが、その男爵家の係累に騎士団長がいるため、圧力をかけられてしまったのだ。

 騎士家当主は闇討ちも考えたのだが、警戒している男爵家の跡継ぎが領地から一歩も出てこないので、殺すに殺せなかったのだ。


「時間がかかっても自分の手で復讐すべきではありませんか?」


 サリーは指導役のベテラン暗殺者に聞いてみた。


「卑怯な騎士団長が、騎士を辺境の警備隊に追いやったのだ。

 表向きは警備隊の隊長に出世させてな。

 もっとも警備隊とは名ばかりで、騎士以外には士族も徒士もいない。

 二年徴兵の現地の若者が十人いるだけだそうだ」


 娘を弄ばれた上にそんな眼にあわされたら、騎士が激怒して暗殺を依頼するのも当然だとサリーも思った。

 ライラ一座の矜持として、正当な恨み以外の暗殺は受けないのだ。

 だから依頼の裏はしっかりと調べて、犯罪に利用されないようにしていた。

 今回の暗殺も入念に事前調査がされていて、男爵家の跡継ぎが悪人で間違いない。


「騎士が大人しく任地に行ったとたん、また悪行三昧かよ!」


 男爵家の跡継ぎは本当に卑劣外道な男だった。

 一度領地の民を嬲って父親の男爵にこっぴどく叱られたので、今では領外の女を襲って嬲っていた。

 しかも自分だと気づかれないように、悪仲間を募って山賊団を結成し、守りのない辺境の村を襲い、女を犯し男を殺し村を焼き払っていた。


「このまま暗殺に拘ると、村が襲われてしまいます。

 強襲して皆殺しにしてはいけませんか?」


 サリーは村が襲われ人が殺されるのを指をくわえて見ている事ができなかった。

 こんな提案をしたら、暗殺者失格の烙印を押されるかもしれない。

 その為に売春婦にさせられるかもしれない。

 その事は十分理解していたが、それを理由に人が殺されるのを見て見ぬ振りをするなんて、絶対に嫌だと思ってしまった。


「自分独りで山賊団三十一人を皆殺しにすると言うのか?」


「いえ、先輩と二人でです」


 サリーの考えはあまりにも身勝手な話しだった。

 指導役の先輩は暗殺のベテランで、どのような状況になろうと、ターゲットを殺す事を優先するのだ。

 それを、危険を承知で攻撃するから手を貸せと言っている。

 だがサリーには、ライラの育てた人間に卑怯者はいないという確証があった。

 

「面白い事を言ってくれるじゃないか、暗殺の仕事を放り出して、殺人鬼にでもなるつもりかい?」


「いえ、ライラ一座の誇りにかけて、いつか来ることになる村を護るだけです」

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