第1話 西神中央駅→妙法寺駅

 ...そういうわけで、かなり久しぶりに西神中央駅にやってきた。

 西神中央駅は神戸市営地下鉄 西神・山手線の終点であり、西神ニュータウンの中心として栄えている。駅前には「そごう西神店」(2020年8月閉店)やプレンティなど、地元の人でにぎわう商業施設が建ち並び、西神中央駅にあるバスターミナルを起点として、各地へ路線バスが走っている。バスターミナルには神戸市バスのほか、鮮やかな橙色の神姫バスも頻繁に出入りする。

 きょうのおともは、大人1,040円で神戸市営地下鉄・市バスの全路線が1日乗降フリーになる乗り放題きっぷである。さて、市バスに乗る前に、まずは神戸市バスを運行している「神戸市交通局」の歴史を簡単に追ってみたい。


 神戸市のバスは、戦前から長い歴史があり、山麓部の住宅街と市街地の接続、および市内中心部を走る路面電車の速達版として登場した経緯がある。そもそも神戸市が行う交通事業は、かつて市内で配送電をおこなっていた「神戸市電気局」が、路面電車の事業も経営していたことから始まる。市電は1917年、市バスは1930年に最初の路線が開業した。神戸市電気局は文字どおり、発送電事業と交通事業(市電・市バス)の二足のわらじを履いていたわけだが、1942年に発送電事業を関西配電に譲渡させられた。神戸市電気局は家庭への送配電がドル箱事業だったのに、突如として経営の柱がなくなり、「電気局」の名に不相応な状態になってしまった。

 配電事業の譲渡後すぐに、神戸市電気局は「神戸市交通局」に名前を変え、交通事業専門として再出発した。それ以降長らく、神戸市電と神戸市バスは、役割が異なったことから共存関係にあり、市電と市バスの乗継割引が好評を博したが、モータリゼーションの波にのまれた市電は1960年代から本格的に廃止が進み、1971年3月に運行を終了した。(ちなみに1957年には、須磨区に市立須磨水族館が開業し、約10年間は交通局が管理していた)

 市電廃止から6年後、神戸市営地下鉄が一部開業し、現在では市営地下鉄5路線(北神線・山手線・西神線・西神延伸線・海岸線)と市バス約80路線を運営する事業者として名を馳せている。現在、市バスの営業所は、西神・垂水・落合・松原・中央・中央南・石屋川・魚崎の8つがあり、約500台のバスが在籍している。


 ・・・という知識をたくわえておいたところで、ようやく市バスに足を踏み入れる。西神営業所所属の「西858」。

 バスマニアからの人気が高い車らしい、と以前どこかで聞いたので、どの路線に乗るか決めていなかった私は、車両で選んだ。西体育館ゆきの28系統。子育て世代と思われる若いお客さんが目立ち、沿線の家も、ニュータウンというわりには年数が浅そうに見える。住宅街をゆっくり走るバスで西体育館と駅を往復した。往路は28系統だったが、西体育館からの復路は22系統として西神中央駅まで帰ってきた。通る道が違うらしいが、詳しいことはよくわからなかった。途中におもしろそうなところがあれば降りてみたかったが、ニュータウンを横断する便なので、おもしろそうなところを探す路線ではなかった。ちなみに、西神に一台のみ残る、行先表示が方向幕式の車両「西827」にも途中ですれ違ったが、その後入庫してしまったようで、乗車は叶わなかった。残念。


 さらに、きょうは時間がとれず、垂水区内の路線にはノータッチ。申し訳ない。


 西神中央駅に着いてすぐ、地下鉄に乗りこんだ。谷上ゆきの電車で約10分、名谷駅で下車した。名谷駅も、これまた団地の入口の性格をもつところで、須磨パティオという商業施設があるほか、西神中央駅と同様、りっぱなバスターミナルがある。神戸市バスはもちろんのこと、明石駅などへ向かう神姫バスのほか、垂水駅などへの山陽バスもやってくる。垂水駅ゆきの山陽バス(5系統だったかな?)には10年ほど前に何度か乗ったことがある。


 きょう乗ってみたかった路線の1つめは「70系統」。名谷駅から北のほうへ進み、白川台の団地へ向かう路線だが、名谷駅から白川台までは高低差が激しいため、距離は短いながらもバスが重宝されている。乗客は満員ではないが、座席がそこそこ埋まる程度の乗客を乗せて名谷駅を出発。終点のすぐ手前までずっと坂を駆けあがり、落合団地前・白川台南口・白川台センター前でお客さんを降ろす。途中3つで終点の白川台に到着。

 ここも先ほどの西神同様、団地と駅を結ぶだけなので、途中に観光地があるわけではない・・・のだが、「白川台」は、折り返し場所(回転地)と、その外で2箇所停車する。これを体験するためだけに70系統に乗ったのだ。回転地を発車して数秒、その外にある同じ名前のバス停でもう一度乗客を乗せるまで車内放送はあるのか疑問だったが、「道路を横断します。ご注意ください」との短い放送だけだった。(そりゃそうか。)途中でお客さんをたくさん拾いながら、名谷駅へ向かって坂を下る。

 ただ、乗客の年齢層は、西神より圧倒的に高かった。団地開発が西神よりも先に行われたことが関係しているのだろう。学校で習った、ニュータウンや団地の現状にずいぶん近い。名谷駅までは、白川台から約10分ですぐ着いた。


 名谷駅へ到着したあと、須磨パティオにある人気のファストフード店「トミーズ」に並んでポテトフライをテイクアウト。ホットドッグもあるし、神戸っ子(こべっこ)にはなつかしい、とくれんの「プデナーオレンジ」(みかんゼリー)もあるが、やはりイチオシはポテトフライだ。揚げたてあつあつのポテトが袋いっぱいに詰め込まれて250円という衝撃的な安さを誇る。同級生に教えてもらって以来、一度は行ってみたかったので心が躍る。ポテトはかなり濃い塩味だが、せっかくテイクアウトするのだから、味を変えつつ食べるのも楽しそう。口の中がやけどしそうになる。でもチェーンの店のポテトでやけどしたことは、正直なところあまり(いやほとんど)ないので、それだけでも、いま揚げものを食べているんだという実感がこみあげてくる。しかも量もチェーン店のLサイズの倍はあるのだから、コスパも味も120点だ。

 予想以上のボリュームのポテトに圧倒されて時間をロスしたので、名谷駅から地下鉄で先を急ぐ。2分ほど待ち、やってきた新神戸ゆきに乗り込む。とはいえ次の妙法寺で地下鉄を降りるのだが、その先、妙法寺駅から乗ろうとしていたバスが1時間に1本しかないので焦っていた。乗り継ぐ先は5系統の新長田方面ゆきである。

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