三節 「旅の終わり、罪と向き合う」
「生きている私達が、亡くなった人にできることは、幸せな話をできるだけ多く聞かせてあげることだと私は思う」
ひーちゃんはそう話し始めた。
「確かに亡くなってしまった人の顔は見えない。何を思っているかも伝わってこない。でも、私達の声は聞こえている気がするの」
「聞こえている?」
「そう、だってこの世とあの世はつながっているからこそ、亡くなったらあの世に迷わず行けるわけでしょ? そうであるなら、亡くなった人が行き来できてもおかしくないでしょ?」
「まあ確かにそんな風にも考えられるよね」
死後に対する世界観は様々だ。
それでも、ひーちゃんの思うような世界であればいいなあと僕も思った。
「それに、もし聞こえているなら悲しい話より幸せな話のほうがいいでしょ? 幸せな話を聞けば、亡くなった人も幸せになれるよね」
「それが今の僕にできることか」
幸せな話を聞かせてあげること。
僕は彼女のためにできることの答えを見つけ出すことができた。
それはやはり人の関わりの中で見つかった。
その瞬間、自分自身でも、驚くほど心が軽くなった。
すとんと何が落ちた。
心が晴れやかになった。
人に救われるってこういうことを言うんだなと実感した。
罪の償いはできなかったけど、納得の行く答えが見つかった。
それこそ僕の求めているものだったのだと確信を持てた。
「私もたまには付き合うから、彼女に幸せな話をいっぱい聞かせてあげようよ。そのためにはまず、詩音くんが元気にならなきゃね」
ひーちゃんはそう言って、笑った。
「そうだね。ありがとう、ひーちゃん」
「いいえー」
「うん。まずは、元気になるよ」
僕の罪は償えなかったけど、彼女のために今できることを見つけることができた。
ひーちゃんは求めていた永遠を見つけることができた。
二人の思いは重なり、答えを導き出した。
それはこれから先も二人を繋ぐだろう。
僕のひーちゃんに対する思いもいつか伝えられるだろうか。今はまだ彼女のことだけを考えていたい。でもひーちゃんのことも好きなのは確かだから。
こうして僕たちの旅は、終わりを告げたのだった。
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