七章

一節 「北海道、旅をしていた理由」

「なぜ旅をしているかというと、彼女を救いたいからだよ」

 僕はひーちゃんの問いに答えた。  

 いつかは聞かれると思ってはいた。言い出すべきだとも思っていた。

 でもそれは自分からできなかった。

 旅を始めてから僕はいろいろな変化を自分に起こしてきた。ひーちゃんと仲を深めたことでさえそれに含まれる。

 それらはすべて彼女のためだ。

 彼女を救うことが僕の罪の償いだ。

 僕たちはようやく北海道にたどり着いた。

 一面の銀世界の中、僕たちは足を止めた。

 僕たちの後ろには足跡がくっきりと残っている。

「救いたい?」

「そう、僕が罪を犯したために彼女はずっと幸せじゃない。きっとあの世で一人で悲しんでいる」

 喋りだすと止まらなくなってくる。

「でも救う方法がわからない。いくら旅をしても見つけられない。どんな変化が起きても、変わらない。変えられない。もうどうしていいかわからないよ」

「救えないよ」

 ひーちゃんはゆっくりとそう言った。

「救えない?」

 何かの聞き間違えだろうか。

 ひーちゃんがそんなこと言うはずがない。

 ひーちゃんは何が起きても僕の味方だと思っていた。

 いつの間にか、そんな風に思っていた。

「詩音くんには、いや生きている私達には亡くなった人を救えないよ」

 ひーちゃんは再び丁寧にそう言った。

 感情が読み取れない。

 僕はひーちゃんの放つ言葉になんと答えていいかわからなかった。

 そうだとすれば僕が今までしてきたことは何だったのだろう。

「亡くなった人を喜ばせることなんて、どんなに頑張ってもできないんだよ。それはただの自己満足なだけ。だって私達には、それが見えないのだから」

「じゃあ僕は一体何を……」

 僕が喋り終える前に、ひーちゃんは言葉を次々と放つ。

「詩音くんに今できることは、心の傷をできるだけ早く治すことだよ」

「僕のことなんてどうでもいい」

 僕はこの辛さをずっと背負っていくつもりだった。

 それに対して何の抵抗もない。むしろそれが責任だと思っている。

「しっかり聞いて。たとえそれで詩音くんが言うように彼女が救えたとしても、詩音くんが救われていなかったら彼女はどう思う? 今度は彼女がきっとそれで悲しむよね。それって永遠とは別の方向性で、ずっと終わりがないよね」

「そんなの屁理屈だろ!」

 僕は声を荒げた。

 そして、ひーちゃんの制止も無視して、僕は一人走り出したのだった。

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