二節 「受け入れる」

「大丈夫だよ」

 私は彼をそっと抱きしめた。

 彼がずっとこんな思いを一人で抱えていたと思うと、抱きしめずにはいられなかった。

 すごくすごく辛かったと思う。

 誰かを失う辛さは正直あまりピンとこない。だって私は人と深く関わってこなかったから。広く浅くが私の主義だった。 

 そうしているうちにコミュケーション能力ばかりが高くなっていった。  

 祖父や祖母が亡くなったときも、私は涙を流したけど、それは全て演じていただけだった。

 こんなときは泣くべきだと即座にわかった。

 本当は、そんなに感情が乱れるほどではなかった。

 でも、彼が一人でいる辛さはわかった。

 私はいつも一人だから。私自身が誰かに助けを出すこともしなかったから。  

 周りの人も助けてはくれなかった。

 だって私はいつも何でもできて平気そうな人を演じているから。

 本当の私に誰も気づかない。

 私は自分も同じだよと伝えたくて精一杯思いを込めて抱きしめた。

「私でいいなら、これからも話聞くから」

 自然とそんな言葉が口から出ていた。

 彼の話を一緒に考えたいというのは本心だ。

 私はお互いを補い合いたいと思うようになっていた。

 縁とはわからないもので、私達はただ道端で出会っただけなのに、今ではお互いを必要としている。少なくとも私は彼を必要としている。

 人は思ってるよりもずっと弱く、一人では生きていけないのだから。

「うん、ありがとう」

「ううん、こちらこそ話してくれてありがとう」

 彼はボロボロと泣いていた。

 私も少し涙が出てくる。

 いつの間にか太陽は高い位置にきている。

 きっと彼には、まだまだ私には話せていないことがあると思う。

 彼の中で答えが見つかっていないものもあると思う。

 今はそれでもいいと思った。

 ゆっくり彼のペースで並走したいと思った。

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