二節 「共通点」

 広島で二人でいろいろ食べ歩いた結果、僕の心が完全に晴れることはなかった。

 僕は落ち込んできている。

 本当に僕の罪は償えるのだろうか。

「詩音くん。また旅を再開するの?」

 そんな気持ちときにひーちゃんは話しかけてきた。

 いつもひーちゃんは声をかけてほしいときに言葉をくれる。

 そんな優しさも彼女に似ている。

 『あなたはちゃんと生きてね』と彼女は僕に言ってくれていたのを思い出す。 

 僕は今彼女の思うように生きられているだろうか。

 彼女を救おうとすることを彼女自身は望んでいるだろうか。

 ただ、彼女は本当に優しかったことだけは間違いがないことだ。

 彼女は自分が病気で大変なのに、いつも僕の心配をしてくれていた。

 ひーちゃんと一緒にいるほど、ひーちゃんの中に彼女を見つける。

 共通点を見つけると、複雑な気持ちになる。

 誰かの中に彼女を見つけられるのはいいことだ。でも同時に彼女自身はもういないと改めて知らされるから。

「うん、そうだよ」

 僕はできるだけ平然を装って答えた。

 あまり心配ばかりかけていてはいけないと思ったから。

「次はどこにする? 楽しみだよ」

 彼女は分かりやすく体を振り目をキラキラ輝かせていた。

 一緒にいると、第一印象と違う彼女が見えてきた。

 落ち着いているイメージだった。

 こんな幼い部分があるなんて、全く思っていなかった。

「そうだなー。どこにしようかな」

「いつものキメ顔でお願いします」

 ひーちゃんはニヤニヤしながら言ってきた。

「いや、別にキメ顔でいつも言ってないから」

「うそー。ちょっとかっこつけてるでしょ」

「つけてない」

 僕は少し早足で歩いた。

「ちょっとー、怒らないでよ」 

 ひーちゃんは慌ててバタバタついてくる。

「怒ってない」

「怒ってるでしょ。かわいいなあ」

「そんなこと言うなら、もうひーちゃんには教えてあげないよ」

「やだやだ。私はどこまでもついていきますからお願いしますよ、詩音くん」

 ひーちゃんは大袈裟に手を合わせる。

「わかったよ。とりあえずいくよ」

「うん。って、結局どこ⁉︎」

「博多だよ」

 それと反比例して僕の中のひーちゃんに対する気持ちが変わってきた。

 朝からこんなやり取りを僕たちはしていた。

 最近は朝が楽しみになってきた。

 前まで寝るのが怖かった。

 起きたとき、彼女のことを一切忘れていたらどうしようと考えてしまうからだ。  

 いつの間にか睡眠薬を飲まないと寝れなくなっていた。

 ひーちゃんとはホテルの部屋は別でとっているので、僕たちが会うのはいつも朝だった。

 次の日の朝が来るのを僕は待ち遠しくなっていた。

 前までは業務的にお互いの話をしていただけだった。 

 しかし、最近は話することが楽しくなってきた。  

 人との関係性が変われば、僕自身も変わってくるかもしれない。人と深く関わることで何か生まれるかもしれない。 

 その生まれたものや言葉によって、僕の罪がなくなるかもしれない。

 そうであればいいのにと思う。  

 なにはともあれ僕の心が前より明るくなったのはいいことだ。

 そして、ひーちゃんは、人を明るくする才能があると思う。

 心地よいコミュニケーションをとれる人は実は限られている。

 いつも底抜けに明るくて、コロコロ表情を変えて、僕を楽しい気分にさせてくれる。

 ネガティブな雰囲気を一瞬で変えてくれる。

 今日もこんな冗談を言うひーちゃんのお陰で少し気持ちが楽になった。

 いつも助けられてるなと思う。

 もちろん、彼女のことを忘れたわけではないし、彼女に対する愛情とは別物だとわかっている。

 ただ、ひーちゃんに人として好感を持っているだけだ。

 

 

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