三節 「胸騒ぎ」
本州と九州をつなぐ開門海峡は、歩いても移動できるとわかったので、僕たちは変わらず歩いていくことにした。
トンネルを通るのだけど、事実上海の上を歩いているので、少し不思議な感じがしそうだ。
足にくる負担は、どこか気持ちよかった。
その痛みが、何かを吹っ切れるようで、また僕を生かしている気がするから。
決して無理して急いで行ったりはしていない。女性の同行人もいることだし。
それでも少しは疲労は貯まってくる。
休もうかと僕は声をかけた。
「今日はここまでにしようか」
「えぇー、なんで? 私だったら大丈夫だよ」
「そんなことないでしょちょっと疲れてるよ」
最近ひーちゃんの顔色が少し悪い日がある。
これが続くようだったらひーちゃんを旅に付き合わせるのは考えるべきだと心配している。
胸がザワザワした。
彼女の最期の顔を思い出す。
それは悲しいぐらい美しかった。
もしかしてひーちゃんも僕のいる世界とは違う世界に行ってしまうのだろうか。
「まだ昼間だよ?」
ひーちゃんは空を見上げた。
まだ太陽は高いところにある。
「うん、わかってるよ。僕もちょっと疲れたし、考えたいこともあるんだ」
「そっか。わかったよ。じゃあ今日は休もう」
快く返事をしてくれた。
僕たちはお互いを詳しく知らないからこそ自然と相手のことを思いやっている。
それぞれのホテルの部屋に別れて行った。
僕はホテルの部屋で一人考えていた。
ひーちゃんに僕の犯した罪の話をしてもいいかなと思えてきた。
やはり話してみようと思った。
親しいと呼べるほど僕たちは月日を共にしていない。
相手が何者なのか全然わからない。
ただ突然、ひーちゃんになら話してもいいかなと思えた。
難しい理屈なんてなしにそう思えた。
相手に心を許す瞬間は、日々の積み重ねにもよるし、ふとしたことで訪れることもある。
僕はそれから必要最低限のことをして、早めに寝たのだった。
「ねぇ、ひーちゃん」
次の日の朝。
僕はあまり深刻にならないように話しかけた。
「何?」
ひーちゃんはいつもどおり元気に返事してくれる。
「ひーちゃんは優しいよね」
「突然どうしたのー」
そう言いながらも、少し嬉しそうだ。
和むなあとつくづく思う。
「ふとそう思っただけ」
「そっか」
心地よい空気が流れる。
ひーちゃんは優しい目で僕の次の言葉を待ってくれている。
「僕のことについて、聞いてほしいことがあるんだけどいいかな?」
僕は意を決して話すことにした。
「うん、いいよ」
僕は自分の罪の告白を始めたのだった。
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