三節

一節 「広島、混乱」

 僕たちは、広島にたどり着いた。

 厳島神社の鳥居を見ながら、不思議な感じを味わっていた。

 海に浮かぶ赤い大きな鳥居は、厳かな感じを醸し出していて、身が引き締まる。

 潮風が体を冷やす。

 一方で心はぐらぐら揺れている。

 体と心が一致せず、ばらばらだ。

 いくら集中しようとしてもできなかった。

 彼女に瓜二つの人と一緒に旅をし始めて、数日が経つ。 

 それが僕を混乱させた。

 ひーちゃんは一体何者なんだろう。なぜ目の前に現れたのだろう。

 ただの偶然だろうか。  

 そんな偶然起こり得るだろうか。

 これは、僕にとって大きな変化となった。

 こんなに心が揺れ動かされる体験はしたことがない。

 もしかして、罪の償いに近づいているのかもしれない。

 一方で赤の他人のひーちゃんと今まで一緒にいたかのように普通に会話が成り立っている。

 相手のこともよくも知らないのに、なぜか会話に困ることはなかった。

 僕たちは基本的にお互いのペースで好きなように話していた。

 でも、それがなぜか波長が合った。 

 ふとあることを思い出した。

 いろいろな宗教で自分のことを誰かに告白することは償いとしてよくある話だと。

 僕もそんなふうに、罪の告白をひーちゃんにすれば何か変わるだろうか。

 でもそれを僕はできるだろうか。

 重い罪が僕にのしかかる。

 すぐに答えは出なかった。

 ただ、僕には罪の告白が必要なのかもしれないと閃いたことは大きなことだった。

 そして、さらに前向きなこともあった。

 今までの僕なら、ひーちゃんの提案を断っていただろう。

 でも、今回はそれを受け入れた。

 転機とは突然やってくる。

 わからないままそれを拒むのは変わるチャンスを自ら捨てているようなものだ。

 それに、きっとひーちゃんにも僕のように人には言えないような悩みがあるのだろうと感じた。

 そうなら断る理由はないと思った。

 僕が存在することで、誰かの役に立てるならどんなにいいことだろうかと思えたから。

 自分以外の人のことを考えるなんて久しぶりだ。

 こんな僕が誰かの役に立てるとは思わないけど。

 考え事をしているうち無性に甘いものが食べたくなってきた。僕はもみじ饅頭が売ってる場所を探しにいった。

 また、食べ物で何か変わるかと試してみたかったのだ。同じとさえ思われることも意味があるときもある。 

 繰り返しには慣れている。

 僕は何度も何度も彼女のことで自分を責め続けているのだから。

 彼女のことを考え苦しみ続けることも罪の償いになるだろうとずっと行っていたときもあった。

 今回はまた違うシチュエーションだから何か変わるかもしれない。

 僕は決して諦めたりはしない。

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