三節 「共に」
彼の言葉は意外であった。
もっとぐいぐい来るかきっぱり諦めるかのどちらかと思っていた。
私にも彼といる目的ができた。
そういう意味では、一緒にいてくれることは好都合だった。
永遠について再び思いを巡らせる。
私が求める永遠とは、ある状態が、果てしなく続くことや時間を超越して変わらないことだ。
永遠という言葉の意味はわかるけど、それを見つけられない。
もどかしくて、ざわざわする。
そんな気持ちを消し去るかのように、私は色々と新しいことをしている。
彼と関わることで何かわかるかもしれない。何かの関係性が生まれるかもしれない。
すべてが可能性でしかないけど、私はそれを信じようと思っている。
永遠を見つけるために彼と一緒に行動しようと思ったのだから。
そして、私は彼が言うほど、明るくはない。そう見えるように演じているだけだ。
本当は心はすごく弱い。
そのことを誰も知らない。
誰かに話そうとも思わない。
だから、私は、「いいよ。もう少し付き合うよ」と明るい声で言った。
「ところで、見たところ旅をしている感じだけど、それも莉子さんに関係しているの?」
私はトランクケースをちらっと見た。
「うん。そう」
そこで彼は黙った。
ぴりっと張り詰めた空気が漂う。
明らかに今までと態度が違う。
「そっか。いいよ、訳は聞かないよ。誰にだって言いたくないことはあるよね」
一緒に行動する二人がお互いに目的を知らないのははたから見ればおかしなことだろう。
それぐらいは私にはわかる。
でも、そこに今踏み込むことを彼は望んでいないとすぐにわかった。
それに、私の理由も今は話すことはできないわけだし。
「ありがとう」
彼は素直な人だと思った。
ありがとうの思いを隠さず相手に伝えることができるから。
ありのままの気持ちを伝えることは私はできない。
できないからことで、自分を苦しめているのだ。
わかってはいるけど、それでも誰かに心を許すことは私にはできない。
演じず、ラフな感じに人と話することなんてできない。
「よければなんだけど、その旅私も一緒に行ってもいいかな?」
私は勇気を出して聞いてみた。
演じている普段なら、絶対に言わない言葉だ。
一歩踏み出してみたい。今までの自分から変わりたい。
「うーん。別にいいよ」
彼は特別嫌そうな感じをしなかった。
彼にとって私は『いるはずのない人』だということを思い出した。だからどっちでもいいのだろうか。
でも、そんな気持ちはすぐに隠した。
「じゃあ、決まりね。これからよろしくね」
そうして、私たちは二人で旅を始めることとなった。
人生なんて何が起こるか何てわからない。
ほんの三十分前までの私には、知らない男の人といきなり旅に行くなんて想像もできなかっただろう。
でも、わからないこそ人生は楽しい。
運命に身を任せてみるのも悪くない。
それぐらいしなきゃ見えてこないものもある。
思えば、旅なんてあまりしたことがない。
なんだかワクワクしてきた。こんな気持ち久しぶりだ。
高揚感の先に、私の求める永遠はあるのだろうか。
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