二節 「ドッペルゲンガー」

「改めて、自己紹介しますね。私の名前は、水野 陽葵」

 私たちは統一感の白色のお店に入った。

 お店には、若い子がたくさんいてがちゃがちゃしている。

 こういう、一見普通そうだけど、メニューとかがカラフルなお店が今流行っている。

 私は流行りものには敏感で、アクティブだ。

 店員が来たので、タピオカ入りの甘い飲み物を注文した。

 彼はコーヒーをくださいと言っていた。

「本当に?? 莉子じゃ、ないの?」

 彼はまだ本当に疑っているようだ。

 私はその莉子さんにそんなに似ているのだろうかと少し興味を持ち始めてきている。

「だから、違います。ところで、あなたの名前は?」

 相手に合わせて演じるとはいえ、こういうことははっきり言っておいたほうがいい。

「僕は中村 詩音」

 彼はゆっくりとそうと言った。

 そこではっと気づいた。

 私たちは回りからどうみられているのだろうか。

 年齢はたぶん二十代前半で、私とそれほど変わらない。

 カップルのように見えているのか?それとも

姉弟のようにみられているのか?となぜかドキッとした。

「詩音くんね。ところで、その莉子さんってそんなに私に似てるの?」

 そんな一瞬のときめきを気づかれないように、気軽に下の名前で呼んでみた。

 イケメンな店員が注文したものを運んでくる。

 お客は若い子が多いわけだと心の中で思っていた。

「うん、見た目は、全く同じ」

 私の呼び方に対する彼の反応は薄かった。

 そして、莉子さんについて改めてどんな姿か聞いてみたけど、本当に私に似ていた。 

 自分と似ている人がいると言う話を聞くことは少し怖い。

 『ドッペルゲンガー』という言葉が頭に浮かんだ。

 ドッペルゲンガーをみると、どうなるんだったかなあと思い出してみた。確か本人が自分のドッペルゲンガーをみたら死んでまうんだったかな。

 あっ、じゃあ自分が直接みてないから大丈夫なのかと思った。

 そう思うと、急に安心した。

 落ち着いているように見えて、私は本当は怖がりで、そういった怖い話は苦手なのだ。

 これは誰も知らない私の秘密だ。

 でも一つ気になった。

「見た目は? 他は違うの??」

「中身は少し違う。莉子はそんなに明るくない」

「そうなのね」

 私はにこっと笑ってみせた。

 彼は天然なんだろう。普通そんな言い方しない。

「いや、ただ莉子と違うと言いたいだけで……」

 私の空気を感じ取ったのか少し慌てていた。

「そっか。ところで、莉子さんは行方不明か何か?」

 私は話の本題にはいることにした。

 確かに聞きづらい話だけど、それを聞かないときっと彼は納得してくれない。

「ううん。もうこの世にはいない。死んでしまったんだ」

 彼は胸を苦しそうに押さえていた。

 私はどう答えていいか迷った。

 やはり、闇深いよねと心の中で思う。

 どう受け答えしようか考える。

「それは辛いね。そして、いきなり莉子さんと同じ姿の私に会ったわけね。それは驚くよね」

 結局当たり障りなく答えた。

 私はやっと話が見えてきた。

 そんな話って身近に起こるだろうか。

 起こるべくして起こることなのだろうか。

 そして、私は落胆した。

 つまり私は彼にとって『いるはずのない人』だったのだ。

 そんなものになんの価値もない。

 永遠とはほど遠い存在。

 胸がチクリと痛くなる。

「うん。でもやっぱり莉子っぽいから、もう少し一緒にいる」

 そんな私の気持ちなど当然伝わらず、彼はそう言ったのだった。

 

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