その19 『たねっけプレス』
「ジオド様。勇者を捕えてまいりました」
「コポポポポ! よくやったぞモマエら! 褒美に一匹女をやろう。好きなのを持ってけ」
「ハッ。ありがたき幸せ……へへっ」
倫が連れてこられた町長の屋敷。その一室には、一山いくらとでもいうように所狭しと女性が放り込まれていた。
倫を発見した10人は、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべてそれを物色していく。
(操っているなら褒美なんていらないだろうに……これも俺に気取られまいという演技の一つか?)
相手が知られまいとしていることを、自分は知っている。その一点において倫は優位に立っている――少なくとも彼はそう信じている。蜘蛛の糸のようなわずかな頼みだが、それによって辛うじて精神状態は保たれていた。
「それでは勇者クン。モマエをモレの寝室に招待しよう」
「ハハ……男の寝室に招待されても嬉しかないね……」
「あンもう。そう言うなぁ! せっかく最高の舞台を整えて待っていたというのに! のにィン!!」
クネクネと体を左右に振る。
ひとしきりそのパフォーマンスが終わると、側近の男たちがやってきて倫を引きずり、ジオドの寝室へと連れていった。
――
寝室。
「――ウェスタ」
少女は、天蓋付きの大きなベッドの中央に横たわっていた。見たところ、外傷も見当たらない。何かされた形跡もない。
とりあえずはその無事に安堵の吐息を漏らす。
ジオドが戻ったのかと、恐る恐る顔を上げるウェスタ。その表情がみるみる彩を取り戻した。
「……リン、くん……リンくんっ!!」
「ウェスタ……無事でよかった」
「リンくんこそ……うっ、うっ……ごめんなさい、私が捕まったせいで……」
「謝るのは俺の方だ。俺――」
――と。その背後からにゅるりとジオドが顔を出し、倫の肩に顎を置きながら彼女を指さす。
「安堵したな? 安堵したろ? そのとおり。あの子は無事だ。"まだ"」
「…………」
「言ったろぉ? メインディッシュはモマエの目の前で食ってやるって。来たらすでに終わってましたじゃダメージが少なすぎるからなァ……モマエの目の前でじっくり貫いてやるさ。特等席でとくとご覧あれ、だ!」
「貫かれるのはお前のどてっ腹なんだよなぁ……」
「!?」
気力も萎え、もはや戦う意思など微塵もないはずの勇者の予想外の反応。
「この密着状態。昨日みたいな貫手のヒマもねぇよなぁ?」
言うが早いか、ジオドの横っ腹にズブリと押し込んだ左手人差し指から、全身全霊を込めた聖弾をブッ放した。
「うぉらぁァァァァアッ!!! くたばれ、クソ魚類がァァァァアアアアッ!!!!」
地響きがするほどの極大の一発。
「ぐっ…………おァァァァァァァアアアアアア!!!!!!!!」
ジオドは盛大にブッ飛んで大の字で壁に激突した。
「まだ……まだァ!!」
間髪入れずに二発目。
三発目。
四発目――!!
「ハァ、ハァ、ハァ……ゴハッ。ゲホッ、ゲホッ……」
息も絶え絶え。
ハナから瀕死なのだ。1日を経過したとはいえ、聖力以前に体力、気力が0を振り切ってマイナスに突入しようとしている。
(頼む、これで死んでいてくれ……!)
――が。
祈りも空しく、ジオドの両足はドシン、と地面を踏みしめた。
「…………ブフゥ~~~~ッ……」
「クッソが……!」
「コポポポポポポ! なんだ、つまらん。"やったか!?"くらい言ってくれヨン! ま、数発射聖されたくらいでくたばるような雑魚が四天王をやってるはずがねェよなァ!?」
――希望、潰える。
倫はペタリとその場にへたり込んだ。
「しかしさすがになかなか痛かったゾ。酷いよなァ、あんな危険なモノをヒトに向けるなんてッ! プンプンッ!」
ドスドスと地団駄を踏む。
ひとしきりふざけた調子で怒りを表現したかと思うと、突如その眼光が鋭くなった。
「――ヒトの痛みがわからないヤロウには、痛みを教えてやんねーとなァ!?」
「――え」
巨体に似つかわしくない俊敏さで、ジオドが大ジャンプする。
しだいにその陰が近づいてくるが倫には反応する余力も残されていない。
「これがモレの! 魔王様の! HHの! この世界に住むみんなの痛みだァァァァッ!!」
ドズン、と巨体が倫の両足を踏み潰した。
「多 熱 気 プ レ ス ッ !!!!!!!!」
「ッッッッッ…………」
「があああああああああああッ!!!!!!!!」
もはや死に両足を突っ込んで、あとは体重を預けるだけというところまで来ていた倫。トドメの一撃が下った。
「リ…………リンくんーーーーーッ!!」
「コォポポポポポポポ! コーッポッポッポッポッポ!! コポォ!!!」
ウェスタの悲鳴とジオドの笑い声が混じって屋敷内に轟く。
「――おっと、いかんいかん。今殺してしまってはとっておきのショータイムが台無しだ。オイ、タルペ! タルペ、おるかァ? 勇者クンを治療して差し上げろ!」
パンパンと手を鳴らすジオド。
「……オイ! タルペ! おらんのかァ? 誰かタルペを――」
「――呼んでも誰もこねーよ」
「!?」
もはや勝利を疑う余地などどこにもなかったジオド。
その両目が初めて、驚愕に見開いた。
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