第26話 25.ミステリー寺に蘇鉄の多きこと

 ワード25『ミステリー』だが、

これは悪手だったと思う。何かの状況を提示してそれが『ミステリー』だ、としても、ミステリー小説や、ミステリー映画のこととしても、とにかく『ミステリー』と書いてしまうことで、その『ミステリー』感は失われてしまう。しかも、『ミステリー』の五文字のみで機能させるのはなかなか難しく、ミステリー本、と七文字になったり、ミステリー映画と句またがりにせざるをえないうえに、それだけの字数を用いて表せることが、ミステリー映画やミステリー小説だという、ただそれだけのことでしかないという効率の悪さである。

 僕は、待機時間が多い仕事をしているのでいつも本をポケットに入れているが、お気に入りは、一話がなるべく短く、それでいて何べんでも読めるものだ。ミステリー小説に限定すると、何べんも読める、という点をクリアしているものは案外少ない。単なる犯人捜しや、意外なトリックだというだけでは、足りないのである。種がバレたマジックであっても、マギー一門のような見せ方をしていれば何度でも楽しめるのと同じように、短いとはいえ、いや、短いからこそディテールや構成が、より重要になる。創元推理文庫で出ているエラリー・クイーン編のアンソロジーは、そういう点で、繰り返し読めてコストパフォーマンスが高い。分厚いのが難点ではあるが、スマホやキンドルなどを持つ習慣がないので尻ポケットにぎうぎう詰めて、長い夜を明かしているのである。

 さて、俳句だが、凡庸なものが多い。『ミステリー』は好きだが、『ミステリー』を読み込んだ俳句は嫌いだ。

 ちなみに『俳句殺人事件―巻頭句の女 (光文社文庫)』というアンソロジーがあるそうで。


 起こし絵に写しおきたるミステリー

 蛍籠の下小説はミステリー

 夜の秋早川ミステリー文庫

 飯食らひミステリー読み糸瓜蒔く

 ミステリー読むかたはらの母子草

 ミステリー本が表紙のねぢあやめ

 箱庭に持ち込まれたるミステリー

 ミステリー炬燵の上に二三冊

 踏青や尻ポケットにミステリー

 ミステリー本捲りをり青嵐

 犯人の名を隠すかに落花かな

 ミステリーにそぐわぬものに菠薐草

 ミステリー小説タバコ菊遺体

 夏帯へミステリー本差し挟む

 白靴の男と来るミステリー

 蜜豆の伏線ならむミステリー

 ミステリー留め置きたる籠枕

 ミステリー本も濡らして散水車

 ミステリー本贖ひし毒消売

 瓜番に禁じられたるミステリー

 誘蛾灯横溝正史ミステリー

 ミステリー水からくりは表向き

 山女ともミステリー小説ともいはれ

 秋の蝉今読み終えしミステリー


 業務中に読む本は、ほかに『掌の物語』『晩年』『或る阿呆の一生』などである。いつ呼び出しがかかるかわからないため、続きが気になり過ぎないことが肝要である。

 今回はこれで。

 

   

 

    

 

 

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