第46話
店内はそこまで賑わっておらず湊達以外に他校の制服の生徒が何人かいる程度だった。
「ねぇ私を連れてきてどうするの?」
「どうもしないよ。それより何か頼まない?」
メニュー表とにらめっこしながらもうひとつのメニュー表を渡してきた。
「聞き方変えるね。なんで連れてきたの?」
「この姿だと1人でファミレスに入りにくいのよ。ムラキも今日は居ないしあのままだと空腹で死んでたわ」
連れてきた理由を聞いて納得は出来た。クウカの見た目はいくら盛ったとしても小学生高学年がいい所の見た目をしている。そんな子が1人で来たら怪しまれたりするのだろう。そうならない為の私なんだろうな。
「じゃ店内には入れたし私は帰るね」
隣の椅子に置いていたカバンを肩に掛け立ち上がる。
メニュー表にしか向いていなかった目が湊の方を向く。
「なんで?」
「お腹すいてないし。そもそもあんた敵でしょ?馴れ合うつもりないしね」
静かにメニュー表を閉じ、
「帰られると困るから私が食べ終わるまでそこに居て?」
入店で怪しまれるようなような子が会計時1人だとそれもそれで怪しまれる。ここのファミレスはうちの生徒もよく使うお店で店員さんはきっと制服と学校くらい把握しているだろう。そうなると最悪面倒くさそうな事になる。それは避けたい。
じっと見つめてくるクウカを見下ろし短めの溜め息を吐き再び席に座る。
「暇じゃないんだからとっとと食べて解放してね」
「はーい」
そう言うと再びクウカはメニュー表とにらめっこを初めた。
しばらくするとテーブルに置き切れない程の食事が運ばれてきた。運ばれてきた料理に目を輝かせ次から次へと料理はクウカの口の中へ消えていった。
ただひたすらクウカが食べる姿を自分で注文したパフェを食べながら見ていた。
美味しそうに嬉しそうに食事を摂る姿がどこが紅葉に似ていた。よく紅葉ともここに食べに来てたな。懐かしい思い出を思い出ししんみりしている時ふと最近も同じ様な光景を見た事を思い出した。
黎明と買い物に行ったお店で迷子になっていた女の子を案内所まで連れて行ったお礼にとご馳走になった時に見た光景と似ていた。
同じ赤い髪。ひたすらによく食べる。それでも迷子の子とクウカが同一人物ならあの時気が付いていたはず。あきらかに顔付きがあの子とクウカでは違う。それでも…
パフェを食べていた手が長い事止まっていたのか、
「どうしたの?食べないの?アイス溶けるよ?」
クウカは手を止めじっと見つめてくる。
「うん、あ大丈夫。すこし冷たくて止まってただけだから」
「ふーん」
そう言うと再び食事を口に運び始めた。
クウカから目を逸らし怪しまれないようにパフェを口に運び運ぶもさっきまでと違い味がしない。
迷子のノムカに気が付いたのも黎明と別れた後のこと。黎明と連絡がつかない間ノムカはずっと傍にいた。御手洗でいっしゅんクウカの気配だと身構えたらノムカだったと言うこともある。
黒寄りの黒だろう。
「ねぇクウカ」
「なに?」
口の中の物を飲み込んでからの返事なのか1拍置いてからの返事だった。
「ノムカってクウカ?」
「んー違うよ」
するとクウカはクウカの横の何も無い空間から熊のぬいぐるみを取り出した。
今の今まで気が付かなっただけでずっとクウカは手元に置いていたのだろう。
「このクマの名前は今はノムカ」
取り出したクマのぬいぐるみはノムカの持っていた物とそっくりなものだった。違う所があるとすれば、
「ノムカはそれをグラって呼んでたよ」
「グラは私」
「どういうこと?」
「グラは私の名前だよ円卓がそれぞれ持ってる名前。クウカはノムカのお姉さんの名前でそれを私が名乗ってるだけ」
「つまりグラとクウカは同じでノムカは別ってこと?どいうこと?」
お腹が空いたのかお皿に残っていた最後のハンバーグをクウカは平らげると話を続けた。
「大抵円卓は人と契約すると肉体の主導権を奪い合うかどちらかが内側にいてどちらかが外側にいる形を取るんだよ。おねーちゃんは後者にあたるし、レイメイ、雪音、ミルカ、ブルーダ、ムラキは前者」
「そしてその内側にいるはずの物を体外に置いているのが私」
「つまりノムカとクウカは同一人物では無いってこと?」
「そう言うこと。例えばおねーちゃんの体をアウァリティアが乗っ取った場合体はおねーちゃんの体でもおねーちゃんじゃないじゃない?どちらかと言えばアウァリティアが正解に近いはず。空の容器にお茶が入ればそれはお茶だし水が入ればそれは水だから器が同じってだけで別人っていうのが正解」
気が付けばクマのぬいぐるみは再び認知出来なくなっていた。
「さて食べる物食べたし帰ろっかおねーちゃん」
クウカはそう言うと何人かの諭吉を差し出してきた。言われずともその行動の意味は理解することが出来た。
「私が会計すればいいのね」
クウカはただ頷くだけだった。
会計時ファミレスで見ることな無い数字に驚いたものの自分のお金ではないので何も気にせず会計を済ませた。
外に出るとすっかり暗くなっており街頭と車の光が夜を照らしていた。
「おねーちゃん今日はありがとう。おかげでお腹いっぱいだよ」
あれだけの量を食べたのに入店前より変わらない小さなお腹をクウカはさすっていた。
「こちらこそパフェをありがとう」
「いえいえ、ところでなんだけどおねーちゃんはノムカの事殺せる?」
「それはどういう意味?」
「そのまんまの意味だよ?」
別段クウカから敵意も殺気も感じない本当に単なる質問なのだろう。
「生き残る為に殺す」
「そう、ならいいんだ。殺せないだとか分からないだとか答えてたらおねーちゃんを殺す時に少し躊躇いそうだからね」
「殺すのは変わらないんだね」
「私達が生き残る為におねーちゃんは殺すよ」
寒空の下さらに空気が冷えた気がした。
「まぁそれじゃばいばいおねーちゃん。次会ったら殺すからね」
そう言うとクウカは1人暗闇の中へと姿を消して行った。
クウカと別れた後帰路を歩いていると誰かにつけられている様な気がした。
クウカが姿を隠して着いてきているのかはたまた別の円卓か。
左手の包帯を解き数字を確認する。『10』見たことの無い数字になっていた。
このまま家まで行くかどうするか悩んでいると、
『戦わないのかい?』
脳内のうるさいヤツが語りかけてきた。クウカといる間ずっと黙っていた奴がだ。
「誰と?」
『気が付いて居るんだろ?ボクは君が考えている事は分かるんだ。でもう一度聞くよ戦わないのかい?』
軽く溜め息を零す。
「戦ってどうなるのさ。昨日も危うく死にかけた。レイメイにも雪音にも何も言わずに闘って死んだらどうするのさ」
『弱気だねぇ』
「私たちは生き残りたいの、その可能性をあげるために危ない橋は渡したくないの。わかる?」
『その気持ちは分かるよ。じゃとりあえず攻撃を躱さなきゃね』
アウァリティアの言葉を聞くと同時に背中の方から殺気を感じ取り咄嗟に横に倒れるように移動した。
地面を抉る音と共に1本の槍が湊の居た場所に刺さっていた。
『相手はここでやるつもりみたいだよ?どうするの?』
とりあえず湊は走った。恐らく相手の円卓の武器は槍。だいぶ後ろにいたはずなのに一瞬で届く投擲力。真っ直ぐ家まで帰れるか怪しい。
とりあえず人目の少ない場所に移動するのが先だと判断し土地勘の無い道をひたすらに走った。
走っている間も、
『右の路地に逃げて』
『足元に来るから飛んで避けて』
『左の路地に入って』
などとアウァリティア言われるがまま飛んでくる槍をなんとか避けながら逃げていた。
しばらく走って逃げていると山の中にある廃ホテルにたどり着いた。
5階建ての廃ホテルは今にもお化けば出てきそうな雰囲気をバリバリ醸し出していた。
そういえば少し前に春華が「この辺りに有名な心霊スポットがあるから夏になったら行ってみない?」と言っていたような気がするが恐らくここだろう。
心霊スポットには奇数の人数で行くのはダメだと言われてるから行くとしたら私と紅葉と春華とあと誰を誘おうか?そもそも紅葉は怖いの苦手だから来るだろうか?
そんな事を考えていると湊の来た道から足音が聞こえ、1人の円卓が姿を見せた。
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