第44話
月曜日の学校は金曜日の学校と比べてまるで異世界に転生したような気分だった。登校する前から予め黎明には言われていたが現状を目の当たりにするとやはり同様は隠せなかった。
教室の紅葉の座席も名簿から紅葉の名前も、あらゆる紅葉に関する情報が存在が全て無かったことになっていた。
いつも紅葉と一緒に居た湊は必然的に1人でいる時間が多くなっていた。そんな1人で居る湊に対して声をかける少女が居た。
「おはよー湊。その眼帯はどうしたの?オシャレ?それとも厨二病?」
いつものテンションの春華だった。目を輝かたいつもと変わらない明るい笑顔が目の前にあるのにいつもより遠くに感じてしまう。
普通を生きる彼女と普通じゃない自分との二度と縮まることの無い距離感なんだと理解するのにそう時間はかからなかった。
いくら距離感を感じようとも実際は目の前に春華は居る、そんな春華を心配してくれてさせないように湊もできる限りの笑顔を作り右目にそっと手を当てて答えた。
「ちょっとね右目貰い物できちゃってさ、どう?似合うでしょ?」
「大丈夫?顔は乙女の武器なのよ」
「次から気をつけるよ」
「それじゃ、あ、たまには昼ごはんみんなで食べない?」
紅葉が居ないという事は私はいつも1人でご飯を食べていた事になるはず。いつも1人で居た私を誘ってくれるなんて春華は本当に優しいな。
「ありがとうせっかくだけど今はほら眼帯してるし気を使わせるのも申し訳ないからさ、治ったらまた誘ってよ」
「ならこんど眼帯してない時に誘うね」
一瞬の悲しそうな顔をしたが直ぐに笑顔になり他の友達の所へ向かっていった。
春華が居なくなってから眼帯の上から目を軽く抑える。貰い物なんかじゃない。友達に嘘を着くのは罪悪感が重かった。
昨日の夜ブルーダが消滅した後湊は少しの間その場に佇んでいた。
別に何処か体に以上がある訳ではないがその場から離れられずにいた。ただただその場で降り続ける雪を眺めていた。
「さっきの爆発は湊の仕業?」
声の聞こえる方を向くとアイスを食べている雪音がそこにいた。
「雪音…」
「何があったの?」
ついさっき起こった出来事を話そうと雪音の方を向いた次の瞬間痛みと共に視界が赤く染まった。咄嗟に右目を手で覆うと生暖かい液体に手が触れた。
その液体がなんなのか視認するよりも先に匂いで理解した。血だった。
「大丈夫!?とりあえず見せて!」
持っていた袋を地面に手放し雪音は湊の元へ駆けつけた。
「とりあえず手をどかして目を見せて!」
言われるがままに手をどかし右目をゆっくりと開く。赤い視界の中に心配している雪音が映る。
その直後様々な情報が脳内に流れ出してきた。
降る雪の速度、肌の色の名前、気温、湿度、雪音の体温など視界に入るもの全ての物の情報がより詳しくより鮮明に見えてしまった。それらは全て本来なら見えないはずのものだった。
情報量の洪水に頭に釘を打ち付けられているような痛みが走る。我慢できずに目を瞑ってしまった。
なんとか呼吸器を整え左目を開く。見える物は視認できるものだけだった。
「湊…その目はどうしたの?」
色々な感情の入り交じった声だった。
「ブルーダとの戦いの最中アウァリティアが右目を貸してくれたの、そのおかげでなんとか勝てたけど」
「ブルーダと?まぁそれは置いといて契約はしてないよね」
「契約はしてないよ」
「なら大丈夫だとは思うけどとりあえず家に帰ろう。人が集まる前にここを去ろう」
黎明の家に帰り玄関で出迎えた黎明は驚い表情筋を見せていた。
見送る前と出迎えた時では菅田があまりに違っていた。着ていたパジャマは泥だらけになり貸していたコートも泥だらけになっていた。その上湊が右目から血を流していた。驚かない方が居ないだろうという姿になっていた。
「とりあえずシャワーで泥と血を流してきてください話はそれからです」
言われるがままシャワー浴びた。
雪の中を歩き芯まで冷えていた体は少し熱いぐらいのお湯で温まってきていた。
恐る恐る右目を開けてみる。自分の姿が映る鏡が見える。いつもと変わらない視界だと思った次の瞬間色々な情報が見え脳内に流れ咄嗟に目を瞑る。
ブルーダとの戦いの時は見えなかったはずのものが見える。長い事使いすぎたのか戦闘に集中力していたのか分からないが唯一分かることは、この右目は普通じゃないって事だけだった。
そのまま右目を閉じシャワーを終え黎明と雪音の待つ部屋に向かった。
暖かい牛乳を飲みながらブルーダとの出会いから別れまでを簡潔に話、その戦闘の中で行われたアウァリティアとの会話も覚えている範囲で話した。話を最後まで聞いた黎明は一言、
「お疲れ様でした湊さん。無事で何よりです」
「無事…とは言い難いけどね」
「とりあえずこれをつけてください」
そういい黎明は眼帯を湊に手渡した。
「これは?」
「眼帯です。内側に影を展開してるので眼帯の仲で目を開いても見ているという事実を陰が飲み込むので何の情報も入らないはずです。片目をずっと瞑るのはしんどいでしょうし」
「ありがとう」
「その目のことですが、円卓との戦い以外では使わないでください。恐らくその目はもう湊さんの目ではありません。本来なら短時間アウァリティアの目を宿して使う程度の物を長時間使ったことにより同化してしまったのでしょう。ブルーダとの戦いの時なんとも無かったのはブルーダのみに集中していた為他のものに対する興味がなかったのでしょう恐らくですが」
「なるほど、何となくわかった気がする」
「ところで湊さん明日の学校はどうしますか?」
「どうするって?」
「登校しますか?」
「もちろん」
聞く意味が分からなかった。祝日や振替休日じゃあないなら月曜日は週の最初の登校のはず。どういう意味で聞いたのかが分からない。
「行かない理由はないよ」
その言葉を聞き黎明は少し前俯いた。
「耐えられますか?」
「何に?」
「今の世界に紅葉さんが存在していたという記憶はありません。紅葉さんと仲の良かった人も紅葉さんのことは1ミリも知りませんし記憶にもありません。紅葉さんと一緒に過ごした記憶自体消えみんな何も無かったように過ごします」
コーヒーを1口すすり言葉を続けた。
「湊さんすら周りからすればいつも1人で居る生徒になります。そんな世界に耐えられますか?辛いようなら円卓との戦いの間休むという選択もありますどうしますか?」
行かないという選択の方が楽なのだろう。戦いに集中できるし、なにより傷付かずにすむ。それでも、
「紅葉が目覚めた時に寝てる間に学校で何があったか話して上げたいしさ私は行くよ」
「そうですか。そういうところ本当に似ていますよ」
「似てる?誰に?」
「いえ忘れてくださいそれよりも寝坊しないようにもう寝た方がいいでしょう」
「そうだね。もう寝るねおやすみ」
湊はそういい寝るために部屋に帰った。
と言って、学校に来たのは良いけど普段紅葉としか過ごしていなかったからものすごく肩身の狭い思いをしていた。
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