第42話

「いい表情になりましたねなにか決心でもしましたか」

「笑って紅葉と再開する。それを誓っただけだよ」

「つまり私を殺すということですね」

「そう、何としてでも円卓を全員殺す。紅葉の笑顔を奪う奴は許さない」

「良いですね。貴方のエゴのために命を奪うことにすらも躊躇を無くすと!怒りに任せて行動すると!」


顔を手で多いクックックッとブルーダは笑う。

可笑しくて笑ってるのでは無く、嬉しくて笑っていると感じた。


「ふぅ、湊さん貴方は私だ。あの時怒りに身を任せた私と貴方は同じですよ」


テンションが上がり嬉しそうにブルーダはしているが湊は少し冷めていた。


「この戦いは裏切り者の強欲を殺すための戦いではない。私と貴方どちらの怒りが強いかの勝負ですよ」


言い終えるやブルーダは最高速で距離を詰めてきていた。

ブルーダの怒りの蓄えは満タンにまでなっているようだった。さっきまでの私なら慌てていたのだろう。体の使い方を思い出した今だとそこまで驚異に感じなかった。

右目を開ける。閉じる前よりも深い赤になっていた。

私はこの目の使い方を間違えていた。

何処を狙っていて何処に攻撃がたどり着くかが見えるのならそれを躱す事だけに使うのは間違っている。攻撃の到達点が分かるのなら相手がどんな格好になるかも分かる。それなら隙も分かる。その隙をねらうのが本来の使い方なんだ。

ブルーダの攻撃を躱しすれ違いざまに一撃を食らわせる。

流れ作業のように簡単に決まる。しっかりと手に殴った感触は伝わるが、ダメージはそこまで入っていなさそうだった。

地面に危険を感じる。ブルーダが発散をして目潰しを狙っているのだと理解し距離を置く。構わず地面を殴り鈍い音が響くだけで何も怒らない。

当たらないと思い発散を使わなかったのだろう。

雪は降る量を増やし視界に白が増える。ブルーダの周りを降る雪は近づくだけで触れること無く溶けている。それ程熱を持っているのだろう。ブルーダの呼吸は微かに乱れている。

今さっきの瞬間発散を使っていれば攻撃は私に当たらないかもしれないが、怒りを消費し体温は下げれたはずだ。当たらないと分かっていても撃ち得の筈なのに撃たなかった。その理由はなぜか。一つだけ考えられる応えがあった。


「ブルーダ今発散を使わなかったのはどうして」

「当たらないと判断したからですね」


深呼吸をしてからブルーダは答えた。湊はもう呼吸は安定しているがブルーダはまだ乱れているようだった。怒りのタンクが満タンに近いのだろう。


「当たらなくともその熱は放出出来たんじゃないの?」

「身体能力が落ちてしまいますからね。今のあなたは最高速じゃないと捉えられない。再び怒りが貯まるまで無事に居られるかは分かりませんしね」

「無事に居られるかは分からないって。私の拳特に効いて無いでしょ?嘘はダメだよ」


ブルーダは何も答えない。‪何か答えを探しているのかもしれないがお構い無しに言葉を続ける。


「発散後の隙を突かれるのを嫌ったんじゃないの」

「隙?身体能力が落ちた後の事ですか」


首を横に振る。身体能力が落ちるのも勿論だか発散後ブルーダは直ぐに追撃をしてこなかった。追撃こそしては来ていたがただの攻撃をしていた時のように間髪入れて殴ってくるという事をしてこなかった。フェンスに追い込まれた時も目潰しをされた時もだ。直ぐに近付いて追撃すればいいのをそうしなかった。なぜか答えはひとつだった。


「発散後は能力が数秒使えないんじゃないの?さっきの場面なら私は万全に動けた。だから一瞬の硬直を見せたく無かったんじゃないの?」


クククと小さく笑い、


「意外と冷静なんですね。気付いて居ないと思っていました」


ブルーダは答えた。


「発散直後は私の能力は全て無効化されます。ほんの数秒ですが。今の湊さんには十分過ぎる隙になるでしょう」


着ていた牧師の様な服を脱ぎ捨てブルーダの上半身があらわになった。火傷や色んな傷の痕が残っていた。


「コレで熱の問題は多少マシになりますかね。そんなにジロジロ見ないでください恥ずかしじゃないですか」

「別にジロジロは見てない」


ブルーダは少し頬を赤く染める。恥ずかしいからなのか熱がこもっているのか。恐らく後者だろう。後者であって欲しい。


「では行きますよ」


その声と共にブルーダは近付き拳を繰り出す、湊はそれを躱しカウンターを入れる。

湊の手に手応えはしっかりとあるがブルーダのダメージにはなっていないようだった。

ひたすらにブルーダは攻撃を繰り出し湊はそれを躱す。これを繰り返していればいずれブルーダは自滅する。反撃の隙があれば反撃をする。このままの流れを保てば勝てる。そうじゃ湊は確信した。

ブルーダと湊の攻防は5分以上の続いた。


さて湊さんは何処まで耐えますかね。

ブルーダの止まることを知らない攻撃を躱し続ける湊は段々と反撃のの回数が減って行っていた。

このまま攻撃を続ければ私の体は怒りによる体温の上昇で限界が来て壊れるでしょう。ですがその限界まで湊さんの体力が持つかどうか。

目の前の湊はだんだんだか呼吸が荒くなっていた。

いくら攻撃してくる場所が分かるとは言え選択を謝れば直撃してしまう。そんな緊張感の中交わし続けるのは至難の業でしょう。私より先に限界が来てもおかしくはない。この時間がずっと続けばいいのに。湊との攻防の中ブルーダは1人満足していた。


ブルーダの能力は怒りを貯めて身体能力をアップするブースト。溜まった怒りを衝撃、斬撃、爆発の3つのどれかに変換して放出する発散。

円卓に入ってからの戦闘はどれも退屈するものばかりで発散まで使った戦闘は1度もなかった。ましてや戦いに置いて楽しいと思った事は1度もなかった。

感情に任せて憤怒と契約した自分への怒り。こんな運命を作った世界への怒り。それだけを持って戦ってきたが今は違った。湊の戦闘を楽しんでいた。

初めて全力を出せる相手。自分の命すら危ういこの状況。そして初めて見る雪。全てがブルーダを喜ばせるものばかりだった。

これまでのブルーダなら怒りが貯まり発散せずにいると体の限界を迎え終わっていた。5分と持たなかっただろう、が今のブルーダは戦闘を楽しんでおり怒りは溜まっていなかった。怒りの貯金箱は限界をギリギリで止まっていた。

怒りでの限界が迎える事は無かったが動き続ける事での限界は見え始めていた。

このままではお互いの体の限界と言うなんとも締まらない終わりになるだろう。この戦いをそんな事で終わらせる事だけはしたくなかった。

攻撃を辞め後ろに下がり湊との距離を置く。


「湊さん私は次の一撃でこの戦いを終わらせます」


湊からの返事はない。肩で呼吸をしており額に流れる汗を拭っていた。

終わらせる事が悲しい。お気に入りのスナック菓子の最後のひとつを食べる時の様な気持ちになる。

両手を左右に大きく開く。私はこれまで攻撃に名前を付けては来なかった。ブーストして殴るこれだけで良かった。たったこれだけで私はこれまで生きてきた。そんな私だが唯一名前を付けた技がある。契約してからたった一度だけ使った技。自分への怒りを他者への怒り全てを込めた一撃。

円卓としての仕事強欲殺しをする前に使った技。

両手に怒りを込める。ただそれを目の前で発散するだけの簡単な技だった。その技にこう名を着けた。


「怒りの ディエス・イレ


言うと同時に目の前で両手が重なりブルーダの怒りの全てを込めた爆発が湊を襲った。

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