第38話
薄暗い公園のブランコに湊は座っていた。
夜風に当たるために家を出たは良いものの帰り道が分からなくなってしまっていた。
「あ、雪…」
空からまばらに降ってくる雪は俯く湊の太ももに触れるなり溶けて染みを残し姿を消した。
左手を顔の前に出し舞い落ちる雪をつかもうとしたが雪は掴むと直ぐに溶け、握った拳の中が冷たいだけだった。
ふと手の甲を見ると数字は3を写していた。いつの間にか家にいるレイメイよりもコンビニにアイスを買いに行った雪音の方が近くなっていた。
「さて、どうやって帰ろう」
このままだと円卓とか関係ない所で死んでしまいそうだ。室内にいても暖房の不調で亡くなる人が居るのに野外に居たら確率はなお上がるだろう。
俯きどうするか考えている湊の耳に近付く足音が届いた。
ゆきが降ってきたから探しにきたレイメイだろうか?それともコンビニにアイスを買いに行った雪音だろうか?それとも知らない人だろうか?
半分期待しもう半分は期待しない気持ちで音のする方に目を向ける。
半分の期待は裏切られ目を向けた先には紺色の髪を腰の辺りまで伸ばした牧師の様な格好をした男が目に入った。
髪が長かった為一瞬女性かとも思ったが体格からして男だろうと判断した。もしかしたらガタイのいい女性かもしれないが。
「こんばんわ」
「…こんばんわ」
牧師の様な男は微笑み挨拶をした。優しい声色だった。
「こんな時間にこんなところで何かあったんですか?」
牧師の様な男はそう言い湊をの近くまで歩いてきた。距離にして2m。そこからは近付かず立ち止まった。
「すこし夜風に当たろうかなって」
「そうですか。ここからお家は近いんですか?」
「まぁ歩いてこれるくらいには」
それを聞くとオトコはふたたびニコッと笑った。
「ゆきも降ってきましたし風邪を引く前にお家に帰ってくださいね」
「もうちょっとゆきを見てから帰ります。牧師?さんも風邪を引く前に帰った方が良いですよ」
「私ももう少し雪を見てから帰りましょうかね。この見た景色を話してあげられるように」
牧師はそう言い次々と雪を落とす宙を見上げていた。
「外国に友達が居るのですか?」
ふとした疑問を尋ねてしまっていた。
この国に住んでいるのならナマで雪を見ることはそうです少なくないはず。南の方なら生で雪を見た事が無いかもしれないが、雪を見た事が会話デッキに採用されるような重大な事では無いだろう。
男はすこし俯きまたすぐに空を見上げた。
「私の故郷は雪が降らないんですよ。その土地でで生まれ雪を見ること亡くこの世を去った子供たちに話してあげようかなと。雪は綺麗でしたよと」
優しく微笑んだままだったがどこか悲しそうな、怒りを噛み締めているような複雑な目をしていた。
「この辺りはそこまで多く雪は降りませんが除雪車が入る程度には振りますから。雪を味わって良い所も悪い所も話してあげてください」
「ええ、そうします」
男はそう言うとふたたび雪を目に焼き付けるように空を見上げていた。
男に対して湊は色んな疑問があったが聞かずにただ同じように宙を見上げていた。鼻の先に落ちた雪が冷たかった。
「そういえば名前はなんと言うのですか?」
宙を見上げたまま男は尋ねてきた。
「立花湊です。この辺の高校生しています」
「私はブルーダ・グダマン。ブルーダと呼んでください。元牧師です」
ブルーダは軽く会釈をし湊も軽く頭を下げた。
「元牧師って…」
「色々ありましてね。辞めたいまでもこの格好をを辞められないです。コスプレですね」
はははと軽くブルーダ笑った。
空から絶え間なく降っていた雪は段々と量を減らし遂には止んでしまった。
「そういえば湊さん。後悔ってした事ありますか?」
急な質問に少し驚いたが、
「あります。何度も、何度もあります」
そう短く答えた。
ブルーダは俯きそのまま湊をの方を向いた。そして胸に手を当て祈るような動作をした。
「私も同じです。幾度となく後悔を積み重ねて来ました。仕方の無いことやどうしようもない事。自分の選択が間違っていて後悔をした事も何度もあります」
ブルーダは俯き祈りの動作をした自分の手を見つめていた。
牧師でも悩むんだなと湊は思った。聖書の教えやらなんやらで人を導く立場にある人でも悩むんだなと。
「湊さん」
「はい」
「感情に任せて道を選びその道が間違っていたと思った時湊さんはどうしますか?歩き続けますか?それとも立ち止まりますか?」
迷子になった時の話をしてるのだろうか、といっしゅん考えたがそんなくだらない事では無いのだと理解した。
「正しい道か間違った道かは辿り着くまでは決まらないとわたしは思います。だから私は自分の選んだ道を歩き続けます」
「後悔することになったとしても?」
「わたしが選んだ道なら後悔も受け入れます」
真っ直ぐにブルーダの方を見る。ブルーダは相変わらず俯き開いたり閉じたりする手を眺めていた。
「私ももうしばらく歩き続けますか」
ブルーダは俯くのを辞め顔を上げるあげた。
優しい表情は変わらなかったが、どこか覚悟を決めた顔をしていた。
「湊さんありがとうございます」
感謝の言葉に驚く。わたしはただ質問に答えただけで感謝をされる様な事は何もしていない、けれども自分の答えで悩みが晴れたのならそれは良かったと思えた。
「悩みが晴れたのなら良かったです」
ブルーダはふたたびぺこりと頭を下げたあと、左脚を前に出し右足を半歩後ろに下げ拳を構えた。
「あなたの言う通り辿り着くまでこの道が正しいかどうかは分かりませんね」
そう言い終えたブルーダから数秒前まで感じなかった殺気を全身で感じる。
この短期間に何度も同じような人間と関われば嫌でも察しは着いた。
咄嗟に左手の甲に目を向ける。ブルーダと出会う前までは3を表していたが今は7を写していた。
「私は罪と感情の十一円卓第7席憤怒のブルーダ。今はこの道を歩みます」
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