第37話
ホットミルクを飲みコップを机に置く。一息ついてから雪音の姿が見えない事に気が付いた。何時もソファでぐでっとしている 雪音が居ない。
「ねぇ、レイメイ雪音はどこに行ったの?」
カバーの着いている小説に目線を向けたまま、
「アイスが食べたいと言い出し近くのコンビニに買いに行きました。新作のアイスが出ていて迷わない限りそろそろ帰ってくる頃でしょう」
「この寒い時期にアイスね。まぁ無性に食べたくなる時はあるから分かるけど…外寒くない?」
室内は暖房が効いているおかげで暖かいが、外は厚手のコートを着ないと寒いだろう。携帯のホーム画面に表示される外気温を確認する。
9度。こんなに寒い時に外に出るなんてまっぴらごめんだ。お風呂から上がったばかりでポカポカしているのに尚更だ。湯冷めなんてしたくない。
フーフーしなくても飲めるまで冷めたホットミルクを飲み干す。さぁ歯を磨いて明日の登校の準備をしよう。
椅子から立ち上がった時ふとした考えが脳裏を過ぎる。
「ねぇ、レイメイ」
「どうかしましたか?」
相変わらずレイメイの視線は本に向けられている。湊が言葉を続ける前に部屋にはページをめくる静かな音が響く。
「明日の学校だけどさ。紅葉の事はなんて説明すればいい?風邪?」
ごく当たり前の質問だった。紅葉は今長い眠りに着いている。携帯の通知にも既読も何もつけていない。恐らく、嫌確実に何があったかと問われるだろう。どうやって切り抜ければいい?風邪とでも答えるか?それとも事故にあったから入院しているとでも答えるか?レイメイの返事を待つ。
レイメイは何かのアニメのキャラクターの描かれた栞を挟みそっと本を閉じた。
「ほら、紅葉は金曜日から眠ってて休みのあいだ携帯なんか触れない。恐らく通知も溜まってるかもしれないし学校に行ったら何かあったんじゃないかって聞かれるかもしれないからさ」
「それは明日言うつもりでしたが、聞かれたので今答えますね。結論から言うと何もしなくて言いです」
「え…?」
何もしなくてもいい?普通おかしいと思うんじゃないの?少なくとも私なら友達が金曜から連絡が付かなくなれば気にする。もしかしたら形態が壊れてたり何か急な事があったんじゃないかって。
それでも月曜日になれば何かは分かるはずって。休んでたら休んでる理由が、学校に来てたのなら連絡のなかった理由が。
それを何もしなくていいって、まるで紅葉は周りから興味を持たれてないみたいじゃないか。
「それってどういう意味?」
怒りと戸惑いの混じった声で聞く。するとレイメイは影から紅葉の携帯を取り出し机に置いた。
「なんでそれをレイメイが持ってるの?」
「今紅葉さんのカバンから持ってきました」
「なんで今携帯を?」
「金曜夜から電源は切ってあります。充電はまだ残ってるはずです」
「それが?」
「電源をつけてみてください。そこに答えはあります」
言われるがまま紅葉の携帯に電源を入れる。暗い画面が明るくなり携帯のメーカーの文字が表示される。注意書きの後にロック画面に切り替わる。
紅葉の携帯のロック画面は昔紅葉と一緒に桜を見に行った時に2人で撮った写真に設定してあったはず。
三脚にカメラをセットし撮ったツーショットだ。2人で笑顔で取ろうとしたが急な風で少し変な風になってしまったがそれはそれで味があるとして紅葉はロック画面に使っていた。
その思い出の写真画使われたロック画面には満開の桜と湊1人だけが映っていた。紅葉の映っていた場所には桜のはなびらがちっているだけでだれも写って居なかった。
「分かりましたか?」
「これは…どういう事?」
「そのままの意味です」
咄嗟に自分の携帯を開き紅葉の写っている写真を探す。1番古い写真から1番新しい写真まで隅々まで探したが紅葉の写っている写真は1枚たりとも見つからなかった。
集合写真にしろ紅葉の不意をついて撮った写真にしろ、まるでこの世に紅葉は存在していなかったかのように綺麗さっぱり写っていない。風景の写真を撮ったんじゃないかと自分を疑いたくなるほど綺麗に消えていた。
「これって…」
震える声でレイメイに尋ねる。レイメイはいつもと変わらない顔で淡々と、
「分かりましたか?」
ただそう一言発した。
「分からない。いや分かりたくない。どういう事?レイメイ今の私に分かるように説明して」
馬鹿みたいに駄々をこねる子供みたいに頭を左右に振る。もしかしたらこれは夢なのかもしれない。
お風呂から上がったあと寝落ちをして悪夢を見ているのかもしれない。そう思い頬を痛くなる程抓る。
痛い。
あぁこれは現実なんだ。狐に化かされたようなこれは現実なんだと思い知らされる。
頬を抓って多少冷静さを取り戻したと判断したのか、
「湊さん今の紅葉さんはこの世界に存在していません」
そう一言述べた。
理由は分かっている。恐らく円卓のせいなんだろう。なんだこれはなんでもありか。何でもかんでも円卓の仕業か?ふざけるな今の仕打ちだけでもおなかいっぱいなのになんだ?過去すらも奪うのか?
今の紅葉がこの世界に存在していないとしてなぜ写真からも消える。意味がわからない。
「ねぇレイメイ…紅葉は本当に生きてるの?」
「ええ生きてますよ」
直ぐにレイメイから答えが帰ってくる。
「なら何故今世界に存在していないの?」
椅子に持たれ天井を見上げる。ココが外なら真っ暗の空が見えただろうか?
「今の紅葉さんは存在するかどうかのラインにいます」
「レイメイ難しい。今の私にも分かるように説明して」
天井を見上げているからレイメイが何処を見ているかなんてのは分からないが恐らく私の方を見ているのだろう。私は今現実から目を逸らしているがレイメイは現実から目を逸らさずに居るのだろう。
「簡単に言いますと湊さんが死ねば紅葉さんも死にます。そうなると2人がこの世界から退場するわけですがそうすると現実世界に不都合が起きます。行方不明になっただとか、何が起こったのだとかその辺のめんどくさい事が起こります」
一息付きレイメイは続ける。
「だからそのめんどくさい事が起こらないように、湊さんが敗北した時はこの世に2人は存在しなかったと言う事になります」
レイメイの話を天井を見上げながら湊は聞いていた。現実から目も耳も背けたかったがこの距離だいくら天井に集中しても超えは耳に届く。塞がない限りは届く。
「ねぇ、それってつまり私が生き残れば紅葉は世界に認識されるんだよね?」
「ええ」
「写真も元通り?」
「はい」
「そっか…」
やる事は変わらないんだ。ただ勝ち残ればいい。この腐ったルールも何もかも私が勝てばいい。それだけだ。
天井から視線を下ろし前を向く。レイメイはただ真っ直ぐに自分の方を見ている。目線を合わせないようにし席を立つ。
「ねぇ、レイメイ少し夜風に当たってくるよ」
「構いませんが、体を冷しては困りますそこのコートを使ってください」
指さした先にはレイメイの羽織っていた長いコートがかけてあった。
いくら冬用のパジャマとはいえこの格好で野外に出ることは考えられてないだろう。
こんな格好で出れば風邪ひきRTA不可避だ。お言葉に甘えて借りていこう。
長いコートに袖を通す。丈が全く合わないがまぁタダ夜風に当たるだけだ。激しい運動をする訳じゃ無いから構わないだろう。
「ぶらぶら歩いてから帰ってくる」
そう言いレイメイの家を出た。
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