第34話

影から現れた刀は誰にも掴まれず再び影に沈み込んだ。刀を握ろうとした湊の右手は、指が全て切り落とされ切り口から血がとめどなく流れていた。


「今…何をした?」

「刀を握るなーって思ったから、予め切り落としといたんだよね。そんな事より手は痛くないの?」


ムラキは切り落とされた指を宙に浮かべ、心配そうな顔をする。


「痛くないのかって…無茶苦茶痛いよ。今すぐ叫びたい程度には痛いね」

「え、ならなんで少し顔を歪ませただけで済んだの?」

「痛みに慣れてるからね」


そう言い指の落ちた右手でムラキに殴りかかったが再び謎の力で固定されてしまった。


「ちょっと血の気が多すぎない?そんな手で殴ったら湊ちゃんだって痛いでしょ」


そう言いうと湊の右手に切り落とした指を近付け、指と手を縫合し始めた。


「今度は何を?」

「まぁ見ててよ」


まるで魔法のように切り落とされた指は手にくっつき、傷口すらも見えなくなっていた。流れ落ちた血は変わらず床に池を作っていた。


「別に僕は殺しに来たわけじゃ無いんだよね」

「なら何をしに?」

「ただの挨拶だよ。ほら指を動かしてみて?」


右手を握ったり開いたりピースを作ってみたりしたが痛みもなく切り落とされたと事が嘘みたいに治っていた。


「血は流石に戻せないけど切った箇所ならちゃんと治ったでしょ?」

「ちゃんと治ってるね。で、目的は何?」

「ん?挨拶って言ったじゃん」


ヒラヒラと両の手を振り笑みを浮かべる。

正直今すぐ殴り飛ばすか切りつけたい笑顔だが、ムラキとの力の差を考えると何も出来そうになかった。


「挨拶をしに来たのはわかったけど、なぜ殺さない?円卓は私を強欲を殺したいんじゃ無いの?」

「それじゃあ楽しくないよね?」

「楽しくない?」


ムラキは笑みを浮かべたまま言葉を続けた。


「君を殺すのは簡単だけどね、それじゃあ楽しくないでしょ?例えばだけど、卵って生でも食べれるけど料理したら美味しく食べられるでしょ?それと同じだよ」


ムラキの言ってる事がいまいちピン来ない。例え話を湊が余り理解していないと察したのか、


「まー君を殺すにしても今は楽しくないって事。絶対に勝つ試合よりも、勝つか負けるかの試合の方がやってる方も見てる方も楽しいでしょ?」

「それでチャンスを捨てて負けて、殺されても文句は言わないでよ?」


湊の言葉を聞きムラキは一瞬驚き声を上げて笑った。周りから認知されない能力がなければ周りからの視線は確実に釘付けだろうと言うぐらいの笑い声だった。


「僕に勝てる気で居るんだ?君が?僕に?勝つの?勝てるの?手も足も出ないのに?」


笑いすぎたのか「はぁーお腹痛い」と言い涙を拭いお腹をさすっていた。


「勝つよ」


そう一言言い放つ。


「へぇーどーやって?」

「あなた過去に1度強欲に負けてるよね?」


その言葉を聞きムラキからスっと笑みが消える。


「それが?」


あきらかに気配が変わり、ムラキから発さられるオーラに圧倒される。刺してくるような気配。今すぐ後ろに跳んで下がりたい気持ちを堪え1歩前に踏み出す。


「あなたが1度も負けてないのなら勝つ可能性はゼロだったかもしれない、けど1度負けてるなら可能性はゼロじゃない。ゼロじゃないのなら私はあなたを倒せる」

「いいね、最高だよ、楽しみだ、君と本機で殺り合う時が今から既に楽しみだよ」


ムラキも1歩前に踏み出し2人の距離はなお近くなる。目の前のムラキを睨むように見上げる。見上げられるムラキは余裕の表情を浮かべている。

互いが互いを見つめ数秒後ムラキは湊に背を向けた。


「逃げるのか?」

「逃げます。もうすぐレイメイも帰ってきそうですし、今の君とじゃあ楽しめない。強くなってから出直して来てね」


そう言い人混みに紛れ何処かに去っていった。その場には湊と血の池が取り残されていた。



その後直ぐにレイメイが駆け付け、血の池を人目に着く前に影で飲み込みその日はレイメイの家に戻った。

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