第35話
「ムラキが出てくるなんて珍しいね」
家に帰り雪音に今日の事を話すと帰ってきた言葉だった。
「珍しい?」
その言葉に少しオドロキ湊は聞き返した。溶けるようにソファに寝る雪音は「そー珍しー」と何処か眠げな声で返事をしていた。
格好を見るに朝から家に引きこもり一日中この場でぐでーっとしていたのだろう。
まぁ雪音がこの家を離れると紅葉を護る人が居なくなりそれは困るので居てもらわないとこまるのだが。
「ねむい」
そう眠そうに呟く彼女が本当に今日出会ったムラキ並に強いのか疑わしくもあった。
「まぁ眠いのは分かったから、ムラキが出てくるのが珍しいってどういう事?」
「ん?そのまんまの意味だよ。あいつ、というか私以外の円卓の1席から4席はここ最近表舞台には出て来てないね」
「正確には1席は最初の戦い以降は出てきてませんし、2席と4席は300年振りですね。姿を見せたのは」
キッチンから出てきたレイメイが補足の説明をしてくれた。とついでに淹れたてのココアを用意してくれた。
「ココアありがとう。でその姿を見せなかったムラキは何で今回は姿を見せたの?」
「それは本人しか分からない言葉ですが、久しぶりに姿を見せるレベルで才能があるあるという事なんじゃ無いですか?」
「才能がある…」
「普通の人は指を切り落とされたら多少なり叫びますし、そんな手で殴ろうとはしませんよ。それを慣れてるからで済ませるのは正直やばいですよ」
淹れたてで熱いコーヒーを少し顔を冷ましてから飲んだがまだ熱かった。口の中がヒリヒリする。
「で、湊はムラキに勝てるって思った?」
ソファに寝ていた雪音は起き上がりコーヒーを飲む。少し苦かったのか眉間にシワを寄せたがそのまま飲み続けた。
「勝てる気はしなかったけど、最初の強欲は勝ったんでしょ?」
「相討ちに近かったけどね」
「それでも可能性はあるよね」
少し熱いココアを飲み干す。
「ムラキの能力は何なの?何も出来なかったんだけど」
体を動かそうにも動かせず気が付かないうちに指を5本切り落とされた。そして切り落とした指を何も無かったかのように縫い合わせた。それにミルカを一瞬で連れ去ることも出来、周りから任地もされなくなる能力。検討が付かない。
「ムラキの能力は『糸』だよ」
「糸?」
糸?そんな能力に私は何も出来ずに居たのか?
「糸って…え?糸?」
「糸使いは強キャラですよ。学校の図書室の先生。そう田吉先生の好きなゲームに出てくる糸使いは強キャラ出そうですよ」
へー田吉先生と仲良いんだ。あの先生ずっと本を読んでるからゲームとかには興味無いと思ってた。あ、でもそう言えば毎回読んでる本にはカバーがしてあって何を読んでるか分からなかったからもしかするとラノベを読んでたのかな?と、田吉先生は今は置いといて。
「ムラキは糸でなんでも出来るの?」
「糸で出来ることなら何でも出来ますよ。糸を集めて武器を作る事も可能ですし、傷口を縫ったりもできますね」
出来る事を聞くと万能の脳力に思えてきた。じっさいムラキは強かった。あいつが話す気がなく初めから殺す気で来ていたのなら私はあそこで死んでいた。気が付かないあいだに首を落とされて終わりだろう。そう思うとゾッとし背中に鳥肌が立つ。
「その糸は電波をを遮断したり、周りから認知されなくなる事も可能なの?」
ムラキの能力を聞いた時から気になっていた事を尋ねる。概念その物もいじられるのなら正直強すぎる。どうやって最初の強欲が勝ったのか気になる所だ。なんなら本当に勝ったのかすらも怪しい。
「電波を遮断したり周りから認知されなかったのはクウカの能力ですね」
「クウカの?あいつの能力は硬化じゃないの?」
昨日戦った時しだれ桜で切り付けてもダメージが入らなかった。それぐらい硬かった。高い防御力プラスそんな概念すらもいじる能力はちょっとずるい。
「クウカの能力は硬化と何かを食べる能力です」
「食べる?」
「ええ、例えば」
そう言うとレイメイはおもむろに手を叩いて見せた。突然の出来事と少し顔を大きい音に驚く。
「今手を叩く音が出ましたね?」
「うん」
「クウカはその音を食べて消す事ができます」
「音を食べて消す?どゆこと?別に音を出さずに手を叩く事は誰でも出来るでしょ?」
手と手が触れる直前スピードを落とし音を最小限にして手を叩く。
「ほら」
「クウカはスピードを落とさずに手を叩けます。それに昨日クウカが現れたとき何か感じましたか?」
首を横に振る。
「気が付いたらそばにいた」
「恐らくですがその時崖下から上がる時と柵の上に上る時の音を食べて消し、その後は自分の気配を消していたのでしょう」
「そんな事が出来るの?」
「出来るから気が付かずにそばに現れたんじゃないですか」
言われてみれば、ミルカとの戦闘中変な音がすれば気が付いたはずだし、あの距離にひとが居れば気配で気が付いたはず。そして今日は私とムラキに対する認識そのものを食べて消していた?
「恐らくですが電波を消していた間湊がさんの周りでは携帯等が使えない人が居たはずですよ」
そう言われてもあの時は周りを気にかける余裕が無かったが、言われてみれば居たような居なかったような…まぁ確認してないから分からないけれど。
「これでもクウカの能力はかなり弱体化してますけどね」
概念を消す事が可能で弱体化してるは無理がある。それなら弱体化する前はこの世から消す事も出来たのだろうか。
「それだけのことが出来て弱体化してるの?弱体化前はどれだけ強かったの?あと何でも弱体化したの?」
「その辺を話す前にコーヒーのおかわり入れてきますね」
そう言うとレイメイは席を立ちからのコップをお盆に乗せキッチンへと消えていった。
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