第32話

ファミレスに着くと窓側の席に案内され町林さんのむかちゃんと、対面するように湊は席に着いた。


「お好きなものを頼んでください」


そう言い町林さんはメニュー表を渡してくれた。

パラパラとメニュー表を適当にめくる。お昼ご飯はまだ食べていなかったが、別段お腹が空いているわけでもなかった。むしろ初対面の人にご馳走になるのは抵抗の方が強かった。


「私はこれをお願いします」


メニュー表のパフェの欄にある、チョコバナナパフェを指さす。


「チョコバナナパフェですね分かりました。のむかは決まりましたか?」


んーと唸り声のような物を上げながらメニュー表を食い入るように見つめ、メニュー表を机に広げたかと思うと、


「これとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれとこ────────」


メニューの写真を片っ端から指を指した。


「ははは、のむかさすがに多いですよ、半分に減らしましょう」


その言葉を聞くとのむかは少しムスッとし小さく頷いた。


「私はコーヒーにしますね。注文は以上で宜しいでしょうか?」


湊は黙って頷き、のむかもどこか不満の様子で頷いた。呼び鈴を鳴らし町林が注文し、注文を受けた店員は驚いてから「残さず食べられますか?」と確認していた。のむかは深く頷いた。

注文した料理が来るまでの間、のむかは用意されていた間違い探しを遊んでおり、町林は窓から景色を眺めているようだった。

携帯にレイメイから通知が無いか時折確認するも何も返信は無く、自分の携帯の方が壊れているのではないかと疑い1度電源を切ったものの、特に何かが変わる事は無かった。


湊は初めての体験をしていた。食べ放題等では机の上がお皿でいっぱいになる事は何度か経験していたが、ファミレスで机の上にお皿が所狭しと並べらたのは初めてだった。それでもなお注文した料理の半分すら置かれておらず、残りの注文した料理は机の上の料理を食べ終えたら追加で作ると店員は言っていた。

湊達のすわる席を横切る人達は華麗な2度目をしたり、一瞬フリーズしたりとまた普段なかなか見られないリアクションを楽しむ事が出来た。


「いただきます」


のむかはそう言うと目の前の料理はから手をつけ始め、口いっぱいに頬張ると咀嚼し飲み込み、幸せそうな顔を浮かべ次々と料理を食べて行った。


「立花さんもどうぞ呼ばれてください」

「ありがとうございます」


そう言い、チョコバナナパフェを目の前にし「いただきます」と唱えチョコバナナパフェにスプーンを入れた。クリームを口にいれ味わっていると、


「立花さん、少しいいですか?食事の時でも左手の手袋は外されないのですか」


口に入れたクリームがのどに詰まりそうになるのを何とか堪え飲み込む。


「あ、すいません行儀が悪いかもしれませんが左手をすこし切りまして保護してるのですが、その保護が取れないようにするための保護の保護代わりに付けてるのです。食事で保護が取れる事は無いので手袋は取りますね」

「なるほどすいません、何も事情を知らずに言ってしまい」

「いえいえこちらこそ配慮が足りず申し訳無いです」


そう言い左手の手袋を外す、手袋を外した左手には包帯が巻かれていた。パッと見怪我をしているようにみえるがそんな事は無く、ただ手の甲にある円卓の紋様を隠しているに過ぎない。

その後は何も無くチョコバナナパフェを食べ終え、町林さんもコーヒーを飲み、のむかはひたすらに料理を完食して行った。尋常じゃない量の食事をした後でものむかはどこか物足りない様子だった。


「ねーデザート食べたい…」

「ん?足りませんでしたか?」

「うん…」

「仕方ないですね。5つまでですよ」


そう言うと、嬉しそうにメニュー表を開き何を頼むか真剣に悩んでいた。


「お姉ちゃん…パフェ美味しかった?」

「え?うん美味しかったよ」

「なら1つはチョコバナナパフェで…」


のむかは再びメニュー表とにらめっこを始めた。


それから少しし、デザートも何を食べるか決まり、あとは届くのを待つのみとなっていた。


「すいません、少し席外しますね」


そう言い湊は御手洗に向かった。


個室に入り一息つきレイメイに電話をかける。返信が流石に無さすぎる。どれぐらいの時間が経った?もしかしたらレイメイの携帯が壊れているという事も考えられるが…

プルルルル、プルルルル…

しばらく待っても出る気配は無く、仕方なく切る。


「そもそもレイメイは近くにいるのか?」


そう思い左手の包帯を解く。レイメイがこの建物の中にいるのなら手の甲に浮かぶ文字は6のはず、この建物に入る前に1度レイメイと距離をとり半径2キロ圏内に他の円卓が居ないことは確認していた。仮に円卓が居たとしてもこんなに大勢の人が居り、人目の着く場所で襲ってくるとは考えられないが…


「え?なんで?嘘でしょ…」


手の甲に浮かび上がった数字をみて湊は絶句した。

手の甲に浮かび上がった数字は4…少なくともこの建物中に円卓の4席が居りなんならレイメイよりも近い場所にいるということになる。


「もしかして4席のやつにやられた?」


一瞬そう考えたが、4席は既に昨日の晩に9席のミルカを殺しているはず。

レイメイが言っていたことが正しいのであれば円卓同士は1人以上殺せないはず。という事は4席にレイメイが殺されたと言うことは無いはず。


「お願い出て」


そう願いレイメイに再度電話をかける。相変わらず帰って来るのは、少し高い電子音のみだった。

とりあえず、人目の多い場所を中心に動いて明るいうちにレイメイの家まで帰ろう。こんな事になるのなら雪音の連絡先も聞いとくんだった。そんな後悔をしていた。


「え?8…」


左手に包帯を巻こうとした時、手の甲の数字は8に変化した。6の見間違えかと思い、しっかりと確認する。そこにある数字はどこからどう見ても8だった。


「クウカが来てるってことだよね。ここに」


昨日あったことを思い出す、8席のクウカと4席は一緒に行動していた。

クウカならレイメイを殺す権利はまだ持っている。頭の中で最悪のシナリオが構成される。

もしもその2人がここに来ていてレイメイを既に始末しているのなら、電話に出ないのも納得だし、クウカには顔が割れているし、今も尚行動を把握されているとしたら絶体絶命どころかもはや詰んでいる。とりあえず今できることをしよう。

足元の自分の影に手を伸ばす。仮にレイメイが死んでいるとした時、レイメイの能力は消えるのか消えないのか。円卓と遭遇した時の為にここで確認をしよう。


「百歩譲って死んでいたとしても、せめて能力は消えずに残っていて…」


そう願い刀の名を呼ぶ。


「しだれ桜」


影の中により一層暗い影が現れ、そこから一振の刀が引き抜かれる。

どうやら刀は呼び出せるらしい。死んだ後も使えるのかまだ死んでないのかも分からないが。とりあえず最悪遭遇したとしても戦闘はできる。

町林さんとのむかと別れたら直ぐに帰宅しよう。

どのルートで帰れば人目によく着くか、建物の中でも人目につかない所だと襲われる可能性が高い。


「人目につかない場所」


そう呟き周りを見渡す。ファミレスのトイレにしては広く作られており、個室が3部屋あり赤ちゃんベッドも備え付けられている。


「流石に円卓でもトイレでは襲ってこないよね」


出入口に向かって歩き始めた時、入口のドアが開き赤い髪色の少女が入ってきた。

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