第31話
自動販売機で買ったカップの熱々のコーヒーを片手に湊はベンチに腰掛けていた。
視界に入る人々はカップル、親子、友達、老夫婦ひとりぼっちと言った多種多様な人付き合いをし、やれどこに行くのだの何を買うだのと楽しそうに話しながら歩いていた。
カップに口を付け1口飲むも口の中を火傷しそうな熱さだった。冷めるのを待ちつつ再び行き交う人々に視線を向ける。コーヒーを片手にボーッとしているとぼっちの少女が目に付いた。
案内板の横にポツンと佇む少女だった。遠目でも目立つ赤くて長い髪の毛。もうすぐ本番になる冬をイメージしたような真っ白のワンピースを着てその上に寒空のような水色の上着を羽織り、クマのぬいぐるみを両手でギュッと抱きしめていた。
一瞬昨日相対したクウカのように見えたが、昨日の生意気な少女には到底出せない儚げな雰囲気を漂わせていた。
はたして少女は人を待っているのかそれとも迷子になってたたずんでいるのか…どちらにせよ一人でいる少女を見かねた誰かが声をかけるだろうそう思いコーヒーを口にする。まだ熱かった。
少女から目を離し携帯に目をやる。レイメイとのトーク画面を開き「まだ終わらないのですか?」と一言メッセージを送る。既読もつかない。
「湊さんすいません急な用事が入ったため少し席を外します。戻ってくるまで一人でブラブラしておいてください」
「了解」
というやり取りが数分前にありそれ以降このベンチで人の流れを眺めていた。
本来なら円卓と戦う時用の服やら破れた制服を買いに来たのだがそれらを買う為の財布のレイメイが席を外している。せめて席を外す前にいくらか置いて言ってくれれば1人でも買い物をしたが、いかんせん財布の中には野口さんが1人寂しく過ごしているだけだった。まぁその野口さんも今は旅立っていない訳だが…
再び赤い髪の少女に目をやる。誰も声をかけていないのかまだそこに一人いる。もしかしたら見えてはいけない霊的ななにかかもしれないと考えたが、案内板を見るために近寄ってきた人がその娘を避けるようにしており、霊的な物では無いことはわかった。
冷めて冷たくなったコーヒーを一気に飲み干し少女の元へ近付く。
「こんにちはお嬢さん。もしかして迷子?」
その場にしゃがみ目線を少女と同じか少し低めにして声をかける。少女は俯いていたが頷いた事は分かった。
「私は湊、お嬢さんは?」
「……のむか」
少女の声は細く小さかった。人見知りなのか迷子で不安になっているのか、その両方か…
「のむかちゃんだね、誰を探してるの?」
「……お兄ちゃん」
お兄ちゃんという事はこの娘より少し大きいぐらいだろうか、それとも歳の離れた兄妹か。とりあえず今はそんな事よりも、
「のむかちゃん。お姉ちゃんと迷子センターに行こっか」
「……うん」
のむかは小さく返事をしクマを抱いている手を片方湊に差し出した。湊は差し出された手を優しく握った。
パッと見姉妹に見えるのか、それとも1人の少女を誘拐している誘拐犯に見えるのか…せめて前者であってくれと祈りながら2人は迷子センターを目指した。
迷子センターに着くと職員さんは優しく対応してくれた。
アナウンスをしてくださり、あとは迷子センターまでのむかを迎えに来るのを待つだけとなった。
待っている間のむかは左手でクマを抱え右手で湊の左手と繋がっていた。
「その熊ちゃんはお気に入りの子?」
「…この子は友達なの」
「名前はなんて言うの?」
「……グラ」
「グラちゃん。いい名前だね」
のむかは嬉しそうに小さく頷いた。
「あ…お姉ちゃんは何をしてたの?」
「ん?私はね知り合いに待たされてたの」
「待たされてた?」
「そ、用事があるから一人でブラブラしててねって」
そんな他愛も無い話をしていると迷子センターの入口のドアが開いた。
「すいません。のむかを迎えに来た町林です」
入口から聞こえた声を聞きのむかは嬉しそうな顔をした。恐らくはぐれていた人だろう。
お姉さんに連れられて町林さんは2人のいる部屋に入ってきた。
部屋に入ってきた町林さんは変わった髪色をしていた。全体的に薄い緑で一部分灰色に変わっていた。変わった髪色をしているもののパッと見好青年のようだった。のむかちゃんとは大分歳が離れているように見えた。
「あ、あなたが立花さんですかのむかがお世話になりました」
「いえいえお気になさらず」
町林さんは湊の顔を見るなりお辞儀と感謝の言葉を述べた。のむかちゃんの手を離し、
「行っておいで」
のむかは手を離し町林さんの元へとかけていった。迷子の子供を救えて良かったと思いながら湊も席を立った。携帯にレイメイから返事はないがまた適当にブラブラして時間を潰そうと考えたが、
「あの立花さんこの後時間ってありますか?良ければお礼がしたいのですが」
町林さんのお誘いを申し訳ないが断ろうと思ったがレイメイからの連絡もないし、別段なにかするという事もなかったため、
「はい大丈夫ですよ」
と返した。
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