第29話
湊とミルカの戦いを監視カメラを使い観戦している姿が森の中のテントにあった。
星の光も届かない真っ暗闇の中佇んでいる、濃い緑のテントの中に2人組は居た。
広くはないテントの中身を寄せ合うようにしてひとつの小さなモニターで2人の戦いを見ていた。
「何秒持つと思う?」
「─────」
「無視…?」
男の質問をさらっと無視しているのは暴食のクウカの姿をした少女だった。膝の上には熊のぬいぐるみを抱え、顔の向きはモニターの方を向いているものの、長い前髪でどこを見ているかは分からなかった。
「冷たいねぇもっとこう楽しく行こうよ」
少女に冷たく無視をされていたのは、円卓の第4席楽のムラキだった。
淡い灰色の髪の毛オカッパのように綺麗にカットされていたが、寝癖なのか所々跳ねておりどこかだらしなく見えた。水色のチェックの服を着て、穴の空いた灰色のジーンズを履いていた。
ムラキが悲しそうな素振りをして嘆いているのを、少女は聞こえないフリをして抱いているクマをぎゅっと抱きしめた。
「動きますよ」
その言葉でモニターに視線が集まる。モニターの中のひとつの影が消えたかと思うと、次の瞬間には血しぶきを上げ両手を切り飛ばされていた。
その光景を見たムラキはくすんだ緑色の目を見開き、
「まさか一瞬とは。想像よりも酷い」
喜びの混ざった声をあげる。同じモニターを見ていた少女は、ミルカの両手が切り飛ばされる瞬間モニターから目を逸らし、怯えるように肩身を狭くしクマをより強く抱きしめた。
モニターの中のミルカは湊に背を向け逃げていた。
「予定よりも早く動く必要がありそうだね、そろそろ行けるかい?クウカ」
「んーめんどくさいけど分かったわ」
少女には先程までの怯えていた様子は見られず、強く抱きしめていたクマも片手で手を繋いでいる状態に変わっていた。
「これ大事に預かっておいてね、私の帰る場所なんだから」
そういうと手を握っていたクマのぬいぐるみをムラキに差し出した。
「傷1つ汚れ1つ付けないよ」
クウカからクマのぬいぐるみを受け取ると自分の座るすぐ横にちょこんと座らせ、軽く頭を撫でていた。
モニターの中ではミルカが片足を切り落とされ崖のすぐそばで倒れ込んでおり絶対絶命のピンチに陥っていた。
「クウカ飲み込みは使っちゃダメだよ?殺しかねないからね」
「ん?硬化は良いでしょ?」
クウカのことばにムラキが頷くの確認するなりクウカは暗闇に消え崖の上を目指した。
クウカが崖の上を目指したの見届けると、ムラキはモニター片手にテントを出た。
何か違和感を感じテントの周りに目をやると切り落とされ、投げ物にされたミルカの鎌に変化した片手が地面に突き刺さっていた。
「危ないなぁもぉ」
そう呟くと左手でミルカの様子を確認しながら、右手はミルカと湊のいる崖の上を指さした。真っ直ぐに立った親指と真っ直ぐ伸びる人差し指は90度の直角を作っていた。
その真っ直ぐ立つ親指の先で狙う先を決めて、
「ばんっ!」
軽快にそう言うと指の先から1本の細い糸が射出されただ真っ直ぐ崖の上を目指して伸びていった。
伸ばされた糸は崖の上に辿り着くとミルカの体に緩く巻きついた。
糸は細くパッと見た感じでは分からず、巻き付かれているミルカはそんな糸が巻き付く所ではなく、巻き付いた糸に気が付かなかった。
クウカは枝から枝え猿のように軽快な身のこなしで移動していた。崖すらもトントン拍子で跳ねていき、ムラキの糸の少し後に崖付近に辿り着いた。
崖のそばの柵のすぐ下にクウカは待機していた。ムラキの提案した作戦では、ミルカがトドメを刺される瞬間に糸で引っ張りミルカを逃がし、残された湊がミルカを追わないように足止めをする。というものだった。
この作戦は昨日の2人の戦いを見終わったあとにムラキが提案をした。あの時点でムラキはこのような結末を迎える事を予測していたようだった。
「気持ち悪いやつ」
クウカ心の声が漏れる。超えが出てから気付かれてないからハッとしたが、何やら叫んでいるようでクウカのボヤきは誰にも聞かれていなかった。
崖の上では戦う音は聞こえないが何やら言い合う声は聞こえる、自分の出るタイミングはムラキが動いた後だが、どうやって登場しようか少し悩んだ。
音もなく現れれば驚くだろうか?能力は使うなと言われたが別に湊に向けて使わなければ良いだろう。よし能力を使って音もなく登場しよう。そうしよう。と心の中で決める。
再び崖の上に意識を集中すると湊の叫び声と共に崖から引きずり落とされるミルカの姿が確認できた。
ミルカの姿を確認するなりクウカは飛び上がり音もなく柵の上に着地した。
柵の上にしゃがみ湊の様子を伺う。ミルカ切った手応えを感じない事に戸惑いを隠せない様子だった。
この状況で私が声をかければ驚くはず、
「ミルカならムラキが崖下に引きずり降ろしたよ」
囁くように声を掛ける。湊の視線が私の方に向けられる。一瞬驚いたような顔をしていたが直ぐに何かを察したような表情をした。
「あなたは?」
尋ねられたら答えるのがマナーってものよね。うんそうだわ。別に答えなくても良いんだけど私は答えてあげるわ、だって優しいもの。でも少しぐらい焦らしてもバチは当たらないよね?
そう考え柵からぴょんと降り、焦らすように数歩歩き湊の目の前まで歩き湊を見上げ、
「私は、罪と感情の十一円卓第8席暴食のクウカ。よろしくねお姉ちゃん」
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