第26話

紅葉の部屋に帰り、紅葉の傍でただひたすら紅葉を見守る。

起きる気配は無く苦しむ様子もない。

ただ眠る紅葉を眺めていた。

知らない間に眠りまた起きてはただ見守る。


「紅葉」


たまに名を読んでみるも、紅葉は何も反応をしない、発した声は薄暗い部屋のどこかへと消えてしまう。

変わらず紅葉を見守ったまま再び眠りに着いていた。

しばらくして気の扉をノックする音で浅い眠りから引き起こされる。

目を覚ました直後は酷く頭がボーッとしていた。


「湊さん起きていますか?」


扉の向こうから声が聞こえる。

レイメイの声だった。起きてすぐ欠伸をし、ついでに軽く伸びをする。

欠伸をした時涙が一筋頬を流れる。一筋の涙を指で拭う。


椅子から立ち上がり、扉へと向かう。

寝起きであったが足取りはしっかりとしていた。


「起きてますよ」


そう言いながら扉を開けた時、レイメイのノックをしようとする手が目の前に現れる。

湊に当たる直前でレイメイは手を止め、


「おはようございます。そろそろ出ましょうか」


嫌にいい笑顔で出迎えられる。


「出るって…もう夜?」


レイメイはうなずき、


「ええ、夜の10時ですよ」


その言葉を聞き湊は驚いた。

自分が思っていたよりも熟睡出来していたらしい。

レイメイが起こしに来なければ尚長い時間寝ていた所だった。

髪を指で軽くとく。

長いこと寝たからなのか、疲れは殆ど消えていた。


「出る前に水飲んでいい?」


湊の喉は乾いていた。寝起きで喉が乾いてる上に朝食以降何も口にしていないせいで尚口の中がカラカラになっていた。


「構いませんよ、では水を飲んだら行きますか」


レイメイの言葉に頷き、リビングに向かう。




リビングで差し出された水を1杯飲み湊の準備は整った。

レイメイはスーツに着替えてきていて、その上から膝下まである黒く長いコートを羽織っていた。


「では雪音さん留守番頼みますね」


雪音はソファで仰向けになりながら漫画を読み、ソファから飛び出している足を上下にバタバタと動かし、


「はーい気を付けてねー」


と、だけ返事をした。


「では湊さん行きますか」


レイメイからの言葉に静かに頷く。

頷いてから、湊はふとある事に気が付き、その事について質問した。


「ねぇ、私昨日からお風呂入ってないけど、臭くない?」


その言葉に雪音はバタバタしている足の動きを止め、レイメイは軽くうえを向いた。

その2人の行動を見て、え?私臭い?まぁ昨日全速力で走った上に何度か地面転がってますし?なんなら服だって制服のままですし?

それに付け足すなら制服の予備なんて持ってませんから火曜日からどうやって登校すれば…

そんな風に考えていると、レイメイがスっとある物を差し出した。


ファ〇リーズだった。普通の奴では無くストロングの方だった。

え?そんなに臭い?まぁお風呂言ってませんし、仕方ないとも言えますけどね。

差し出されたファブ〇ーズを身体中に吹き散らかす。


こう、なんとも言えない香りが部屋中に広がる。

多少傷付いたココロを癒すためについでに部屋中に吹き散らかす。

尚部屋の匂いがこうなんとも言えない匂いに変わる。


吹き終えたフ〇ブリーズをレイメイに差し出す。


「臭くてごめんね」


差し出されたファブリ〇ズを受け取り所定の位置に戻す。


「臭いと言っても泥臭いくらいなので気にしなくても」


謎のフォローをするレイメイに対し、


「泥臭いは普通に臭いから!帰ったらお風呂入るから沸かしといて」


「だそうです、雪音さんお願いしますね」


そう言われた雪音は、


「えー。まぁやるから帰ってくる前に連絡してね」


とだけ言い了承した。


「では、今度こそ行きますか」


その言葉に頷き2人は家を後にした。




一日ぶりの白虎丸に乗車する。

今回は後部座席では無く助手席に座る。

昨日乗った時は気が付かなかったが、ルームミラーに何かのアニメのストラップのような物がぶら下がって至り、サンバイザーのところには何かのキャラクターの小さいぬいぐるみがぶら下がっていた。

もしかしたらレイメイは何かのオタクなのかもしれないと思いながら、その事には触れずにシートベルトを装着する。


「シートベルトつけましたね?」


運転席のレイメイが確認をする。


「つけたよ」


一言返す。レイメイは黙って頷き、


「では、行きますか」


そういうと、白虎丸は静かにエンジンを回し動き出した。



会話のない車内にアニソンが小さく流れている。

レイメイは黙って前を向き運転をし、湊は窓越しに特に代わり映えしない景色を黙って見ていた。

そんな中ふと湊はレイメイに尋ねた。


「ミルカを倒した後次の相手は?」


湊からの質問に少し考えてから、


「まだ分かりませんね。まぁ倒せる可能性のあるメンバーから行くとなると、怠惰、暴食、憤怒、の3人の誰かじゃないですかね」


「その3人は強いの?」


レイメイは少し渋い顔をしながら、


「湊さんに枝垂れ桜を託した人以降この3人の誰かで敗北しています」


「強いんだね」


「ミルカに比べれば段違いに」


それを聞きき、湊は急に窓を全開にした。

冷たい風が車内に吹き荒れる。

せっかくといた髪の毛も風に煽られぐちゃぐちゃになる。休な湊の行動に対し慌てることなくレイメイは運転を続ける。

1分程風を浴びた湊は窓を閉め、ぐちゃぐちゃになった髪の毛を再び指でとく。そしてふと微笑む。


「頑張らなきゃだね」


レイメイは何も言わずにただ真っ直ぐ進行方向を見る。


「レイメイ帰ったら新しい制服用意してね。こんな制服じゃ学校に行けないから」


そう言うと、湊はスカートの左端を破り始めた。

レイメイはその行動をチラチラと横目で見ながら運転をしていた。


「何をしてるんですか?」


さすがに急な湊の行動に質問をする。


「ん?動きやすいようにスリットを作ってるの」


それを聞き納得しつつも、車の中で破くのはやめて欲しいなとレイメイは思っていた。

服の繊維とか糸とかおちるじゃん…


さんな感じでなんやかんやしていると目的地である駐車場にたどり着いた。


白虎丸から降り駐車場内をぶらぶらと散歩する。

昨日ミルカとやり合った形跡がまだ残っており、人の来なささを実感する。

普通誰かが気が付けば行政にでも連絡し多少処置がされるだろうに、そんな形跡は見当たらない。

まぁ人が来ない方が思い切りやれるからいいのだけれど。


ミルカが来るまでの間暇だったため、湊は軽くストレッチをしていた。

レイメイは車から降り街灯のせいで綺麗には見えない夜空を眺め何か考え事をしているようだった。


物思いにふけっているレイメイが夜空から目を下ろし、準備体操をしていた湊は不意にその手を止めた。

その直後空から羽を生やしたミルカが飛び降りてきた。


「やぁやぁこんばんわ。怖気つかずによく来たねぇ」


見慣れた春華の顔をし、春華が言わなそうな言葉を発する。それだけでもイラつくものだと湊は知った。


「それじゃあ早速始めようか?今日はあんたをバラバラにして生け花にして飾るための花瓶を探してたんだ。早く活けてやりたいよね」


「へぇー良い花瓶見つかった?」


ミルカは幸せそうな笑みを浮かべ、


「それはもう良いのが見つかったよ」


「そうなんだ。それは良かったね、でも残念。その花瓶が使われる事は無さそうだね」


ミルカは眉毛を少し八の字に曲げ気に食わなさそうな顔をする。


「どういう意味だ?」


やれやれと言わんばかりに両手をあげ首を左右に振る。


「あなたは私にここで今日倒されるって意味だよ」


その言葉を聞いたミルカは、


「あHAHAHA」


と笑い始めた。ひたすらに笑っている光景を湊は眺め、レイメイは自販機で買ってきた缶コーヒーを飲んでいた。

しばらくして笑い終えたミルカは顔をあげ、


「ぶっ殺す!」


と叫ぶと、両手を人間の手からカマキリの鎌に変化させ、両足をバッタの足に変化させた。

顔だけは相変わらず春華のままだった。


「最初から全力で殺してやる!」


そう言い両足を深く沈みこませ、両手を構える。


「私は罪と感情の十一円卓第9席嫉妬のミルカ」


「ん?知ってるよ?どしたの急に?」


休な挨拶に少し湊は少し驚く。


「挨拶は大事なんだよ。朝起きたらおはよう、寝る前はおやすみ、戦う前は自己紹介するんだよ!」


丁寧にミルカは教えてくれる。

意外と良い奴なのかもしれない。


私は確か強欲なのは知ってるけど何席だったけ?

そう思い、


「ねぇレイメイ私は円卓の第何席?」


急に声をかけられたレイメイは飲んでいた缶コーヒーを一気に飲み干し、近くのゴミ箱に投げ捨てた。

投げ捨てられた缶は綺麗な放物線を描き吸い込まれるようにしてゴミ箱へと入っていった。

ゴミ箱に見事入るのを確認すると小さくガッツポーズをし、


「湊さんは第11席ですよ」


「ありがとう」


教えてくれたレイメイにお礼を言う。

一連の流れを確認すると、


「改めて私は罪と感情の十一円卓第9席嫉妬のミルカ!」


「罪と感情の十一円卓第11席強欲の湊」


2人は名乗りそして構える。

駐車場内は静寂に包まれる。

謎の鳥のホーホーと鳴く声と、風が木々や草花を揺らす音のみが聞こえる。

道路は近くにあるが車の通りが少なく走行音は聞こえない。


そんな静寂を切り裂くように、


「ぶっ殺す!」


そう叫び、ミルカが両の足で地面を踏み込む。

地面がひび割れ、次の瞬間には湊の目の前にミルカが風を切って現れていた。そのままミルカは構えていた両手を振り下ろした。

次の瞬間暗い夜空に紅い血が飛び散った。

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