第24話
レイメイの待つ部屋に入ると卵とソーセージのいい匂いが空腹感を呼び覚ました。
そういえば昨日のカレーうどん以降何も食べていないという事を思い出す。1度目覚めた空腹感は今すぐ何かをよこせと言わんばかりにお腹を鳴らす。
「おはようございます。雪音、湊さん」
湊のお腹がなった事には触れずに挨拶をする。お腹が再びなる気配を感じ、
「レイメイおはよう」
お腹の音が聞こえないように声を出す。お腹の鳴る音は湊の声にかき消されレイメイと雪音の耳に入る事はなかった。
「レイメイお待たせ」
湊の後ろに居た雪音がいつもの席に座る。
「いえいえ、事前に時間がかかる事は聞いていたので大丈夫ですよ。それよりもご飯にしましょう」
昨日居た場所にご飯が配膳されている。スクランブルエッグと軽く焼いたソーセージ、野菜のサラダに美味しそうなスープ。
今すぐ「いただきます」と唱えて御馳走になりたい気持ちを抑え席に座る。
ただ、この配膳されている食事の中に何かが足りないのを湊は感じた。こう、とても大事なものが。
「湊さん、主食はパンかご飯どちらが良いですか?」
着ていたエプロンを脱ぎ軽く畳みながらレイメイが質問をする。そう、それだ。主食が足りなかったのだ。
「私は白米でお願い」
すぐさまそう答える。白米、名前の響からもう美しい。白いお米と書いて白米。新米の炊きたてのご飯はそれはもう白い宝石と言っても過言ではない。レイメイが新米を使っているかは分からないが、白米は白米であると言うだけで良いのだ。
パンも勿論嫌いではない、どちらかと言うと好きな方だ。だがご飯、白米と比べられるとそれはもうやはり白米、ご飯しかないのだ。2段ベッドの上が良いか下が良いか、迷路で右か左かなどの2択で悩む時は必ずある。が、ご飯かパンで悩む事は立花湊の考えにはなかった。
「湊さんはご飯ですね、雪音さんは?」
「んー私はパンで」
雪音はパン派か…いやまあ、パン派かご飯派で意見が別れたから敵対するというような事はしない。キノコかタケノコかなどで争う者達は居るらしいが、相手の好みを尊重しないのは湊は好ましく思わなかった。たとえキノコが好きだろうだがタケノコが好きだろうが両方とも同じ様なお菓子が好きなことには代わりがない。まぁ湊は勿論タケノコ派だ。
「雪音はパン派なんだね」
「ん?ご飯も好きだよ、ただ朝ごはんはパンがいーなーってだけで」
なるほど、パン派やご飯派ではなく朝はパンの気分という一定数居る人種の様だった。
朝からパンというのも勿論素晴らしい。寝る前から漬けたフレンチトーストを朝起きてから卵を纏わせて焼くとそれはもう絶品だ。ただ甘くて美味しくて少々量を多く食べてしまうという点が難点なのだが、やはりデメリットよりもメリット。そうカロリーを超える美味しさがそこにはあるのだ。
「そういえば話変わるけど雪音はタケノコ派?キノコ派?」
先程までのほほんとしていた雪音の表情が線が切れたかのように引き締まる。
暖房の効く暖かい部屋だが急に室温は下がり霜が降り始めた。
「湊…それを聞くのはタブーでは?返答によっては戦争だよ…?」
勝ち残ると言う目的の前に、今日ミルカを倒すよりも前に返答によっては戦いが生じる。円卓の第3席との戦いが。
禁忌の質問をしたと言う事への後悔はあったが、これを聞かねば本当に信用に足る者なのか分からない。
自分の足元にある影に手を伸ばす。
影は湊の手を受け入れ、そして飲み込む。
影から手を引き抜いた時、手には刀が枝垂れ桜が握られていた。
席から立ち居合の構えを取る。雪音の返答によってはクビを断ち切るために。
「やる気なんだね。いいよこの争いは互いが互いを滅ぼすまで終わらないからね」
部屋の温度は段々と低くなり、ついには壁に氷が張り始める。
暖かく湯気を放っていた食事からも湯気は消え、お汁の表面には氷が張り始める。
「雪音…あなたはタケノコ派?それともキノコ派?」
冷えた部屋の中、2人の距離は1.5m1歩で攻撃は届く。雪音の返答が2人の戦いの合図となる。
2人の緊張の糸は張り詰める。極限まで貼り詰められたその時、
「私はね、タケノコ派だよ」
一言雪音が答える。
その瞬間に張り詰めらた緊張は消え、気が付けば湊は構えを解いていた。
部屋にも温もりが戻り、霜も氷も消え去ったが、冷めた食事は冷めたままだった。
「やっぱりタケノコだよね、キノコなんて言ったら雪音の首を落としそうになるとこだったよ」
落としそうになる所か落とす気満々で湊は構えていた。
「よかったぁ、もしも湊がキノコ派で斬りかかって来てたら返り討ちにしてたよ」
雪音は席に座り、それを見た湊も刀を影にしまい再び席に座った。
落ち着いた2人を確認すると、
「それではご飯よそってきますね、あと食事レンジでチンしてきますね」
そう言い食事を1度レンジでチンをし3人で朝食を取った。
レイメイの食事は意外と美味しかった。
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