第22話

リビングに入ると雪音は既に起きており、ソファに寝転がりながら携帯を触っていた。

起きてきたレイメイに気が付き、


「おはよー」


と気の抜けた声で挨拶をする。


「おはよう雪音。珈琲を入れますけど何か入飲みますか?」


「んー」と少し考えるような声を上げ、携帯から視線をレイメイに移す。


「んーじゃココアで」


そういうと再び視線を携帯に戻した。


「ココアですね。分かりました」


「牛乳も入れてね」


「はいはい」


キッチンに向かうレイメイの背中目掛けて掛けられた言葉に対し適当に返事をする。


ケトルに水を入れスイッチをONにして沸くのをまつ。

沸くまでの間にマグカップを用意しそれぞれのインスタントの粉を入れる。

後はケトルがお湯を沸かせるのを待つだけとなった。

ふと、湊が起きているかどうか気になり、


「雪音さん湊さんが起きてるかどうか確認してきてくれませんか?」


「ん?まだ6時半にもなってないよ7時過ぎてからでも良くない?」


「一応起きてるかどうかだけ確認お願いします。起きていたなら暖かい飲み物でも出しますし」


雪音は「んー」と唸った後寝てる体勢から上半身を勢いよく起こした。そしてあくびと共に大きく伸びをした。


「寝てたら?」


あくびの際に涙が出てきたのかいつもより潤った目をレイメイに向ける。レイメイはマドラーをペン回しのように手で遊ばせながら、


「その時は寝かせておいてあげてください。疲れてるでしょうし、起きてくる気配がなければまた後で起こしに行ってあげてください」


「ん、りょーかい」


ソファから立ち上がり雪音は紅葉と湊の寝る部屋に向かった。




湊は薄暗い部屋の中で目を覚ましていた。

何時ものようにアラームが鳴る前に止めようと携帯を探したが携帯は見つからず、変わりに暖かいものに手が触れた。

其れを握り手繰り寄せる。見慣れた紅葉の手だった。寝ぼけていた頭は直ぐに覚め、寝る前、正確には気を失う前の事を思い出した。

そうだ、自分に用意された部屋に行く前に紅葉の部屋によってそのまま寝たんだ…

薄暗いのに目がなれ物が見えるようになる。

湊の顔のすぐ側、斜め前したに紅葉の寝顔があった。


「紅葉、おきて」


起きないとは分かっていても声をかけずには居られなかった。

紅葉は何も反応をせずに一定のペースで呼吸をしていた。


「起きないよね。でも絶対私が救ってみせる絶対に」


そう言いながら紅葉の手を握る。


ドアをノックする音が聞こえ入口の方を見る。

雪音がゆっくりと音を出さないようにドアを開ける。すでに目を覚まし紅葉の手を握る湊を視界に捉える。


「あら、おはよう起きてたのね」


「おはようございます。寝てても今のノックで起きると思いますよ」


「あら、それはなんか悪いことした気分だわ。そんなことよりよく寝れた?」


「はい、ぐっすりと眠れました」


座ったままだと、なんだと思いその場に立ち上がる際に掛けられていた毛布がずり落ちる。

落ちた毛布を拾い、


「これは雪音さんが?」


雪音は湊に近付き湊の手に持つ毛布を受け取った。


「雪音でいーよ。そ、風邪引いたら可哀想だしね」


「ありがとうございます」


「いいっていいって、さ、レイメイの奴が暖かい飲み物用意してくれるそうだから飲みに行こ」


雪音は毛布を適当にたたみ入口に向かって歩き始めた。

湊もついて行こうと1歩足を踏み出したが、2歩目は出なかった。


「雪音さ…雪音」


「ん?」


雪音は歩く足を止め湊の方に振り向く。

顔に「どうしたの?」と書いてあるように見えた。


「少しお話してもいいですか?」


「いいよ」


雪音は部屋に電気をつけ開きっぱなしのドアを閉めた。

そして部屋の隅から椅子を持ってきて座り、さっきまで湊が使っていた毛布を膝掛けの変わりにした。


「今この場で話したいって事はレイメイには聞かれたくない話でしょ」


湊は黙って頷く。


「さ、話すんなら湊も座って、あまり長すぎるとレイメイが部屋に来るかもだから手短にね」


湊は椅子に座り1度深く呼吸をした。

手短に話したい事を…ほんの数秒目を瞑りできるだけ短くすることだけに集中した。


「雪音…紅葉は処女じゃないんだ」


「うん」


「うん?」


1度相槌を売った直ぐにもう一度雪音は相槌打った。2回目の相槌は?が加わった相槌だった。

紅葉が処女じゃ無いことを真顔で話す湊に対しても色々と突っ込みたいところが多くあり、とりあえず、


「なるほどね、どゆこと?」


湊は後悔に苛まれる顔をしながら、


「私が…紅葉の幸せを奪ったんだ」


胸元を握り締めながら湊は言葉を発する。

その光景を見ながら、「え?湊が紅葉の処女を奪ったってこと?え?生えてるの?」と脳内で出された情報を何とか整理しようとするも脳はパニックを起こすばかりだった。

とりあえず湊の方に視線をやると、予防接種から目をそらす子供のように強く目を瞑り俯き涙を堪えているようだった。

よく分からなくなった雪音は頭に浮かんだ疑問をそのまま口に出した。


「え?湊が紅葉の処女を奪ったって事?」


俯いていた顔を湊はあげる。


「誰がそんなこと言ったんですか?」


怒りに篭っている声だと言うことがわかる。

わかる。が、今雪音の手元にある情報は、紅葉が処女じゃない事、湊が紅葉の幸せを奪った事。

この2つしか無い。この2つから導き出せる答えは、紅葉の処女を湊が奪った事にしか行き着かない。

とりあえず、一旦情報を増やさなければと思い。


「ごめん。今私の手元に来てる情報だとその答えしか導き出せなかったんだ。とりあえず詳しく1から話してくれない?」


「1から話すと少し長くなります」


あーなるほどね長くなるのね。どれぐらい長いかは分からないけど情報をカットしすぎでは!?

一体どんな話から削り出した答えがアレなのか気になる。湊はきっとレイメイが待ってるって事で大幅にカットしたんだね。そうだね。


「とりあえずレイメイには女子トークするから少し時間かかるって伝えとくから長くなっても大丈夫だよ」


そう言いレイメイにLINEを送る。

LINEを送り終え携帯から視線を湊に移す。

湊は落ち着くためか深呼吸を繰り返していた。さっきの様子を見るに今から話す内容は重いのかもしれない。


「どう?行けそう?」


湊は静かに頷く。


「では1から話しますね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る