第21話
どこまでも青い空とどこまでも青い草原を2人の子供が駆けていた。
息を切らせながらただひたすらに小高い丘の上を目指して。
そんな2人を後押しするかのように、風は2人の背中を押す追い風だった。
頂上付近にたどり着いた時前を走っていた子供が寝るように大の字で地面に倒れた。
後ろの子も直ぐに追いつき、膝に手を当て肩で呼吸をしていた。
「レイメイ。横になったら風が気持ちいいよ」
そう言われレイメイは少女の横に寝転がる。
風が全身を通り過ぎる。
「うわぁ〜」
「何その反応」
レイメイの気の抜けた反応に対して少女は微かに笑う。
「今日も風には勝てなかったね」
「すぐに追い抜かれたね」
「明日こそは勝ちたいね」
少女の言葉に頷く。
少女はその場で上半身だけ起こすと、
「よし、あそこに登ろっか」
と、頂上付近を指さした。
指を指した先には緑1色の草原の中にポツンと仲間はずれのように置いてある灰色の岩があった。
「ミレアは先に行ってて、も少し落ち着いたら行くよ」
レイメイはまだ息があがっており、まだ呼吸が整っていなかった。
その言葉を聞くとミレアは再びその場に横になり、レイメイの方に体ごと向いた。
「一緒じゃないといや」
その言葉を聞き、
「そんなこと言っ──」
続く言葉レイメイから出なかった。
返答しながらミレアの方に視線をやったレイメイだが、視線の先にはじっとこちらを見つめるミレアの目が合った。
目が会った瞬間ほんの一瞬見つめ合いそしてレイメイは直ぐにそっぽを向いた。
「なんでこっち見てるんだよ」
照れと恥ずかしさで赤くなっている顔を隠すようにレイメイはミレアに背を向けた。
そんなレイメイを優しく見つめ微笑みながら、
「一緒じゃないといや」
同じ言葉を送った。
レイメイにはミレアの顔は見えなかったが微笑んでいるのは感じた。
「わかったからちょっとまってて。もう少しで落ち着くから」
レイメイは既に呼吸は落ち着いていたが、鼓動がやけに早くなっていたのと赤くなった顔を落ち着かせたかった。
「わかった」
そうミレアは答えたが、ミレアもまた顔が赤くなっていた。
が、レイメイよりも先に落ち着くと思っていたのもあり、顔を隠すことなくただじっとレイメイの背中を見つめていた。
しばらくして2人は大きな岩を登り始めた。
岩は高さ1mとちょっとぐらいの大きさだったが、2人には自分の身の丈より少し小さいくらいの岩を登るのには少し苦労した。
何とか少しの窪みやでっぱりを駆使し岩の上に登り2人は周りの景色を一望した。
岩の上から見る景色はひたすらに青と青だった。
上を見れば空の青下を見れば草花の青。
まっすぐ見れば2つの青が視界に入った。
レイメイは岩の上に寝転がり日光をひたすら体に受けた。
遮る物は何も無く全身陽の暖かさを感じていた。
ミレアは何かを見つけたのか1度岩を降りて下で何やらゴソゴソしていた。
暖かい陽の光を浴び涼しい風が頬を撫でる。
次第に眠気が訪れレイメイは昼寝に入っていた。
「ーい。おーいレイメーイ」
誰かに呼ばれた気がしてレイメイは目を開けた。
目を開けた時真っ先に目に入ったのはレイメイの顔を覗き込むミレアの顔だった。
覗き込む顔は影になり暗くなっていたがとても輝いて見え、寝ぼけていることもあり、
「ミレア…?可愛いね」
言葉がレイメイの口からこぼれる。
「────────」
言葉にならない言葉をミレアはさっする。
ミレアの顔はみるみるうちに赤くなり、そっぽをむき顔を隠した。
ミレアが移動したことにより光が顔に当たるようになり少し目を細める。
顔を隠すように埋めるミレアを見て、段々とレイメイの頭は起きていく。
起きていくに連れ自分の発言を思い出し、瞬時にパニくる。
「え?え!え!?え!!」
アタマが真っ白になる、
「いや、あの、その、ね!」
焦りながら当たりを見渡す。あるものが視界に入る。
ミレアの頭の上に花の冠があることに気がついた。
「そう!花の冠が可愛いなーってね!」
その言葉を聞きミレアは顔を上げレイメイの方を向く。
「私は?」
赤く染まった顔でミレアが見つめる。
真っ直ぐにレイメイの目をみる。
風が優しくミレアの髪をなびかせる。
「か───」
一瞬躊躇う。もちろんミレアは可愛い。ものすごく可愛い。ずっと一緒に居たいぐらい可愛い。そんなミレアと幼なじみの自分はきっと前世でありえないぐらいの徳を詰んだんだろうと思う。
が、その可愛いと言う言葉を本人に言うにはまだ恥ずかしいという気持ちが強かった。
面と向かって可愛いと言える勇気が…
「か?」
ミレアはレイメイの口からでかかった最初の言葉を復唱する。期待と照れの入り交じる顔をしている。
ミレアはじっとレイメイの目を見つめる。それに耐えられずレイメイは一瞬目を逸らすが、直ぐにミレアを見つめ返し、
「可愛いよ。ミレアは可愛いよ。その花冠も似合ってるよ」
覚悟を決めてレイメイは言葉を放った。
照れと恥ずかしさで悶え死にそうになる。
ミレアは花冠を頭から下ろし、それで目を隠す。
「ありがとう」
花冠の輪っかから除く口元が緩んでいた。
レイメイはミレアが目元を隠したこともあり、空を眺めた。
どこまでも続く青い空を鳥が2羽仲良さそうに飛んでいた。
「レイメイ」
名を呼ばれミレアの方を向く、ミレアは下を向いたまま花冠を頭に再び乗せ、そのまま顔をあげた。薄く赤く染まった笑顔で、
「ありがとう!またここに来ようね!」
太陽は頭上にあったが、そんなものよりもミレアの笑顔は暖かく輝いていた。
「うん、また絶対に来よう」
レイメイはミレアの目を見つめながらそう返した。
風が二人の間を吹き抜けた。
鳥の鳴き声と部屋に響き渡るアラームの音でレイメイは目を覚ました。
枕元の目覚まし時計を止めメガネを掛ける。
時計の針は朝の6時を少し過ぎた所を指していた。
とても懐かしい夢を見ていた気がする。
最愛のミレアとの遠い記憶。
ベッドから起き上がりカーテンを開ける。まだ日は昇りきってはいないようだった。
パジャマを脱ぎスーツに着替える。着替え終わり部屋を出ようとした時、
「レイメイ…」
どこかからミレアに名を呼ばれたような気がした。
ドアノブを握りしめたまま、
「ミレア私は今度こそあなたを救ってみせます」
そう誰もいない部屋に向かって言い部屋を出た。
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