第20話

「部屋は紅葉さんの寝ている隣の部屋を使ってください」


レイメイにそう言われ湊は指定された部屋に向かった。

暗い廊下を歩く。

紅葉の眠る部屋を通り過ぎる時ふと足が止まる。湊は気が付けば部屋の戸を開けていた。

部屋の中に電気は付いておらず、暗闇がそこにはあった。

ただ廊下から部屋を眺める。次第に目は暗闇になれぼんやりと物の輪郭が分かる程度には見えるようになっていた。

部屋の中に入り紅葉の寝るベッドに近付く。


「くれは…」


名前を読んでみる。返事は帰ってこず静かな部屋の中で聞こえるのは紅葉の寝息のみだった。

布団の中に手を入れ紅葉の手を握る。

紅葉の温もりを感じる。


「くれは…」


両手で手を強く握りながら名を呼ぶ。

返事は帰ってこない。

紅葉は名を呼ばれているなんて知らずにただ気持ち良さそうに眠っている。

起きることの無い眠り。湊は手を握ったまま俯く。


もしも私が負ければ紅葉は二度と目を覚まさない。自分の運命だけではなく紅葉の運命も背負っている。今更プレッシャーが重くのしかかる。


「紅葉…絶対に謝るから」


自分の逃れられない運命のせいで色んなことに巻き込んでしまったこと、ちゃんと謝ろう。怒られるかもしれない、前の時みたいに泣いて、笑って許してくれるかもしれない、まだどうなるかは分からないけど、絶対に勝って紅葉の笑顔がもう一度見たい。

その為には化け物を相手にしたって構わない。

覚悟を決める。絶対に生きるという覚悟を。

湊は覚悟を決めたあと、その場で意識を失うように眠った。紅葉の手を握ったまま。



「湊部屋に辿りつけたかな?」


「紅葉さんの部屋の戸を開けてから以降音が何も聞こえませんから寝落ちしてそうですね。紅葉さんの部屋で。雪音さん見てきてくれませんか?」


「私が?そんなことしなくても影で見れるんじゃないの?」


レイメイは首を振る。


「乙女の部屋の中を覗くなんて事私には出来ません」


「なるほど」


雪音はそう言うと立ち上がり紅葉の部屋に向かった。


部屋の中では紅葉のベッドのそばに眠る湊の姿があった。掛け布団を眠る湊に掛け雪音は静かに部屋を出た。


「どうでした?」


「寝てたよ」


「やはりですかまぁ、相当おつかれのようでしたからね。それじゃあ私達も休みますか」


レイメイは席をたち部屋から出ていこうとしたが、その足を雪音の言葉が止めた。


「今回はどこまで勝てると思う?」


ドアノブに掛けた手が止まる。


「何百回と見てきましたが私にも分かりません。1人目で死ぬかもしれませんし、勝ち続けるかも分かりません」


「そうだね。まぁ先のことよりも今は明日のミルカとの戦いだね」


「ええ、健闘を祈るばかりです。それでは雪音さんおやすなさい。また明日」


ドアノブを回しトビラを開けレイメイは扉の奥へと消える。


「おやすみー」


と消えるレイメイの背中に返し、雪音も部屋を後にした。

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