第19話

「2人は私よりも断然強いだろうから2人で円卓を潰す事はしないの?」


「その質問の答えは出来ないですね」


「なぜ?」


「円卓の破壊を防ぐためのルールだからです」


「kwsk」


「仲間殺しを可能にだった場合既に円卓は1人の勝利者によって解体されています。そうさせないためのルールとして円卓同士は1人が1人としか戦えないようになっているのです」


レイメイが言いたいことは何となく分かるがいまいち理解が出来なかった。


「もっと分かりやすく」


「例えばの話私と雪音さんが戦った場合どちらかが勝ちますね。その後勝ち残った物は他の円卓との戦闘が禁止されます。正確には攻撃が全て無効となります。攻める分にも受ける分にも」


レイメイの答えを聞き頭にひとつの疑問が浮かぶ。


「まって、それだと最後の1人になるのは叶わなくない?」


「そうです、本来ならこのルールがあるおかげで円卓は終わりを迎えませんでしたが、1人だけそのルールをねじ曲げ、未だにルールの適用外にいる者がいます」


そう言ったレイメイの視線が湊をじっと見据える。レイメイからの力強い視線を感じ湊は察した。


「その例外が私…」


「そうです、正確には強欲がそのルールの適用外にいる存在です」


「てことは私は円卓とは誰とでも戦えるってこと?」


レイメイと雪音は深く頷く。


「そうです、故に円卓を破壊するためには湊さんが最後の2人まで勝ち残らないといけません」


レイメイの言葉を聞き背中に冷や汗が流れる。

ミルカのような化け物が目の前にいる2人を含め10人もいる。その中で残り2人まで勝ち残るのは難易度が難しいどころか攻略不可能なのではと思えてくる。


「湊〜」


そんな不安に駆られている湊を察したのか、気の抜けた声で雪音が話しかける。


「難しく考えなくてもいいんだよ。私とレイメイが2名は引き受けるから湊が倒すのは実質6人でいいんだよ。私とレイメイが残ったら戦わずに済むしね」


雪音は笑い最後にウインクをした。練習していたのか綺麗にウインクをした目を閉じた時星がキラッと飛んだような気がした。本当に気がしただけだったがその言葉に少し気持ちが楽になる。


「ありがとう」


「いえいえ」


とは言ったものの最低6人、雪音とレイメイが負けたら8人難易度はそう大差ないように感じる。

無理だと思ったらそれを実現可能させる力があっても発揮出来ずに終わる。そうならないように自分の両頬を叩き喝を入れる。

バチンという音ともに湊は呻いた。

両手から血が滲み出す。自分で頬を叩き痛みを思い出した。痛みと共に自分の両手は使い物にならないことを思い出す。


「この両手じゃまともに戦えない気がするけど、何か策はあるの?」


その言葉を聞いたレイメイは湊に両手をレイメイの方に向けるように言った。

言われるがまま血が滲み出る両手を前に突き出す。

レイメイの影から黒い影の手が生えてくる。

生えてきたそれは湊の両手を蛇が巻き付くかのように包み込んだ。


「一瞬間痛いですが堪えてくださいね?」


「え?」


レイメイから急に痛みの宣言をされ、覚悟も決める時間も与えられずに両手を強く握られ潰される感覚と共に耐え難い痛みが走る。

声にならない声が口からでる。が痛みは次の瞬間には消えていた。

一瞬の痛みで閉じた眼を開き両手を見る。

両手は黒い、指抜き手袋が装着されているような見た目になっていた。


「握って開いてみてください」


そう言われ恐る恐る両手を握る。今度こそ痛みを覚悟していたが痛みは感じなかった。

握った手を開いてみても痛みは無かった。

あまりの出来事にレイメイのほうに目をやる。


「どうなってるの?両手の傷が治った…?」


レイメイはメガネをクイッと上げる。


「正確には治った訳ではありません。折れた骨を影でくっつけ傷口を影で塞ぎ、指の関節を動きやすいように影でサポートしているにすぎません。衝撃なども影がある程度吸収してくれますが、限界を超えるとそれは消えます気をつけてくださいね」


レイメイの話を聞きもう一度指を動かす、思い切り拳を握っても痛みを感じず折れているとは思えないほどスムーズに指は曲がった。


「これなら戦える」


その言葉を聞くとレイメイは手を机の上に置いた。置いた手の周りに半径10センチ程度の影の円が生まれる。


「これもあなたに渡しますね」


そう言うとレイメイの手は影の中に沈んで行った。数秒後レイメイは影の穴からゆっくりと手を引き上げた。

引き揚げられた手には一振の刀が握られていた。


「これをどうぞ」


レイメイは引き上げた刀を湊に差し出す。差し出された刀を湊は恐る恐る手に取る。鍔が桜の花びらの形をしており、鞘はピンクがかった茶色をしていた。


「これは?」


「数百年前の強欲の生まれ変わりが使っていた刀です。名を枝垂れ桜」


「枝垂れ桜…」


刀を抜くと淡い桃色をした刀身があらわになる。

刃の根元に名前になっている枝垂れ桜が掘ってあった。


「何故これを私に?」


レイメイは刀を握る湊をどこか懐かしみながら答えた。


「託されていました。もう一度この国に生まれ変わりをする事があるのなら生まれ変わった子に、これを渡して欲しいと。この国に生まれたのなら刀を好む事はなくとも嫌う事はなかろう。と」


湊は刀を握ったのは今日が初めてだったがそれはとても良く手に馴染んだ。


「懐かしの再会を堪能するのもいいですが、今のこの国では刀を持つことは許されていません。最悪通報されますね」


レイメイの言う通りだった。今のこの国では刀を持つ事は許されていない、なんなら今みたいな教師が生徒を家に連れ込んでいるのも通報されかねない。

武器を貰ったのはいいがこれをどう持ち運ぶか…

剣道部みたいに竹刀を入れるバッグに隠すか?などと考えていると、


「湊さんその刀をあなたの影に置いてみてください」


と言われ、言われた通りに影に刀を置く。すると刀は自分の影に沈んで行き姿を消した。


「え?刀は?」


「影の中です」


「どうやって取り出すの?」


「影に手を入れてみてください刀があります」


言われた通り自分の影に手を入れる。これまで影の上をなぞる事はあっても触れる事はなかったが、湊は今初めて影を触りその上影の中に手を入れていた。

入れた先で手に触れるものがあった。それを握り影から手を引き上げる。


「はぇーすっごい便利」


手には枝垂れ桜が握られていた。その枝垂れ桜を再び自分の影に置くと枝垂れ桜は影に吸い込まれるように沈んで行った。


「便利でしょう?買い物袋を忘れても平気ですよ」


「一家に1人欲しいね」


「さて、少しここから真面目な話をしますね」


さっきまでのおちゃらけた雰囲気からひりつく様な空気に変わる。

刀と影に変にテンションをあげていた湊だったがそのテンションは消え、テスト数分前のような真剣な気持ちに切り替わっていた。


「円卓を破壊するには制限時間があります」


「制限時間?」


「ええ」


レイメイは短く答える。


「制限時間はどれぐらい?」


「湊さんの左手に円卓の紋章が現れてから11日間です」


「11日…?一日に1人ずつ倒さなきゃならないのか…」


レイメイは首を左右に振る。


「正確には最初は11日ですが1人倒す度に一日に増えます。ので最大20日以上はありますね」


20日以上ある。そうは言った所でひと月も無いじゃないか。その短い時間の中で傷を治しながら円卓と戦うのは正直不可能なのではと思えてくる。そんな考えを見越した上か、


「円卓との戦闘で出来た傷はその傷を与えた円卓を倒すことで完治します」


レイメイが言った言葉で可能性が見えてくる。


「なら、ミルカを倒せば両手とふくらはぎ。それと意識を失ってる紅葉も目覚めるって事?」


「傷は治りますが紅葉さんは目覚めません」


「え!?じゃあどうやったら紅葉は…」


レイメイの言葉に湊は動揺していた。そんな湊に追い打ちをかけるようにレイメイは言葉を続けた。


「紅葉さんはこの戦いが、円卓が崩壊するまで目を覚ますことはありません。それに、湊さんが敗北したり、制限時間を超えた時点で紅葉さんは命を落とします」


レイメイの言葉で意識を失いそうになる。紅葉は強欲の妹の生まれ変わりって言うだけで巻き込まれ、挙句の果てに自分の知らないところで命がかかっている。


「そんな、じゃあ私が負けたら、私が紅葉を殺すような物…」


「まぁ、殺すのは円卓のルールですから湊さんが殺すわけではないですが、その引き金を引くという事だけは事実ですね」


追い討ちのようにレイメイは言葉を続ける。


「簡単な話です紅葉さんを救いたいのなら勝てばいい。不治の病でも救えない怪我とかではありません。ただ円卓に勝つ。それだけで紅葉さんを救えます」


ただ勝てばいいそれだけだった。難しい事を考えずとも良い。ただ勝てばいい。


「そうだね。レイメイの言う通りだ。勝てばいいんだ。自分の為ではなく。紅葉の為に」


自分の為に勝つのではなく紅葉を守るために勝つ。紅葉を救うために私は戦う。

湊の目的がはっきりと定まった。


「私は紅葉を救う。そのために円卓に勝ち円卓を破壊する」


覚悟を決めていた。絶対に負けられない。例え死ぬ事があっても死んではならない。その事を深く心に刻みつける。


「人は愛する者の為に強くなれます。湊さんその心意気です。覚悟が決まったところで言いますね」


レイメイの方に視線を向ける。


「今日の夜ミルカとの再戦があります勝てそうですか?」


「勝たなきゃだめなんだよ。私は紅葉を守るために」


「その心意気素晴らしいです。それでは明日に備えもう寝ますか」


時計は寄るの1時をすぎていた。

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