第17話

その男は気が付けばこの地にいた。

自分と似た姿をした生き物はおらず弱肉強食の掟だけが掲げられる世界が広がっていた。

男はこの世界をひたすら歩いて見て回った。

他の生物が他の生物を喰らい糧にして生きているのに対し、その男は何も喰わずとも生きて行くことが可能だった。

試しに生物を殺し肉を食べてみるものの口には合わなかった。


生物が酸素を必要としても男は酸素を必要とせず、水を求め乾き死ぬ生物がいてもその男は乾きも感じず死ぬことすらなかった。

その男を襲う生物は居たが触れることなく命を落として行った。


やがて地上を支配していた生物は絶滅し、新たな生物が生まれるも、その生物もまた絶滅し消えていった。

そんな事を繰り返し長い年月が経った時、その男に似た生物が産まれてきていた。

その男に似た生物は群れをなし武器を作り他の生物とは違う進化をたどって行った。

男は暇を潰すようにその生物の進化を眺めていた。


ある程度発展しては争い途絶え、またある程度発展しては闘い途絶え。

そんな事の繰り返しに少し飽きて来ては居たが、その生物が新しく作る物は自然界にはなく男は興味をそそられて行った。


やがてその生き物のコミニュティに紛れ込み同じ時間を過ごしていたが、その生物達の寿命は短すぎた。

他の生物の命の時計はしっかりと動くものの男の命の時計は動く事はなく、どのコミニュティも男だけを残し終わって行った。


それから男はひたすらに歩き続けた、時には川を海を渡り山を超え再び世界を見て回ることにした。


世界は多種多様な進化をしており生物もまた違った進化をしていた。

色々な地域のコミニュティに属しては居座ることはなくまた違うコミニュティを探し歩き回った。

ときには争いに巻き込まれ親しくしていた者たちが無くなることも少なからずあった。


軈て男はコミニュティに属さなくなっていった。

1人だけ怪我をしない老いないそういった理由で追放されたり捕らえられたりすることも少なからずあり、そういう事はめんどくさいと思い始めていたのも理由だが、一番の理由は親しくしていた者たちの命の終わりを見るのが辛かった。

自分だけ老いず怪我をせず死ぬことも無い。

親しい物は老い、怪我をしやがては死ぬ。その別れの苦しみからやがて男は1人を選ぶようになって行った。


男は山奥の小さな湖のほとりに家を建て静かに暮らしていた。

誰とも関わらずにただ世界の時間の流れをぼんやりと眺めていた。

たまに山を降り人間の進化を見に行くのを趣味としていた。


ある日その男の家にとある人間が訪れた。

男が家を建ててからだれも訪れた事が無かった場所に綺麗な少年がたどり着いた。

少年はおとこを見つけると少し驚きはしたが、好奇心の方が勝り男に声をかけた。

男はその少年の言葉を理解し適当に話をしていた。


少年はこの場所を気に入ったのか、それから何度か遊びに来るようになった。

遊びに来る度に男の見てきた世界の話をねだり話をしてもらうと嬉しそうに聞いていた。

少年は雪の降る季節以外は顔を出していた。

雪の降る季節を超える度少年は段々と成長して行った。

男は相も変わらずこの世界に生まれた姿のままだった。


何度目かの雪の降る季節を超えた時少年は顔を出さなくなった。

男は少し寂しくなりその少年を探しに山を降りた。

誰かを想うのは懐かしい感覚だった。

小さな村の中で男は少年を見つけた。

少年に再会できた時、少年は病に犯され寝床から動けなくなっていた。

元から体が強いわけではなかったらしい。

子供の頃から体が弱く、あの日男と出会った日は家族に迷惑をかけないと死に場所を探していたようだった。


少年は男がいる事に気が付くとニコリと笑い、全然変わらないねと呟いた。

男は黙って頷いた。

少年はやせ細りもう自力で立ち上がることも叶わない体になっていた。

男は少年を失いたくないと思った。

男は少年に長く生きたくないか?と尋ねた。

少年は長く行きたいと答えた。


男はその少年の願いを聞き入れ少年に自分の命の半分を与えた。

少年はみるみるうちに回復しそしてやがて女性になった。

少年の願いの中に女性になりたいという願いがあったらしい。

女性になり男と一緒に暮らしたいそんな願いを持っていたようだった。


女性になった少年は村を出て男の住んでいる湖のほとりの家で住むことになった。

男は少年に「俺たちの円卓を作ろう」と言った。

少年は少し照れながら「はい」とだけ答えた。

少年の体は男と同じように老いることも、怪我をすることも無くなっていた。

もちろん死ぬこと出来なくなっていた。


やがて2人は体の関係を持つようになった。

冬の終わりの頃少年はお腹に子供を宿した。

もうすぐ冬が訪れようとする時少年は子供達をこの世に産み落とした。

11つ子だった。

子を産んだ時オトコが少年に分けたいのちは子供たちに分け与えられ、少年は段々と弱って行った。

止まっていた命の時計がまたゆっくりと動き始めていた。


子供たちが生まれてから少年から色々なものが抜け落ちて行った。

健康、元気、感情。

少年が持っていたものは子供たちに全て行ったと言わんばかりに少年は弱って行った。

子供たちが大きくなるのに対し少年は弱くそして老いて行った。


男は少年に対し再び命を分けようとしたがそれは上手くいかなかった。

いよいよ少年の命が終わろるとする時、少年は男にお願いをした。


「子供たちをお願い」


そう言い残し少年はこの世を去っていった。

置いていかれた男は1晩涙に明け暮れた。

少年がこの世を去った後も子供たちは成長を続けていた。

あまりにもゆっくりで本人も子供たちも気が付かなかったが、男もまた段々と衰えていた。

やがて子供達は成長し男の元を離れていった。


ある日男はある事を思いついた。

子供達に命を分け少年が死んだのなら、子供達の命を使えば少年を生き返らせる事ができると。

男は成長し世界を自由に見て回っている子供達を家に呼び戻した。

全員が家に集まった時、男は子供達の命を奪おうとしたがそれは上手くは行かず、その時にある異変に気がついた。

男は超能力が使えなくなっていた。

自分達に危害が加えられると思った子供達は、男を殺した。

男にはもう不死の力すら残ってはいなかった。


男がほんらい持っていた超能力も不老不死の力も全て子供達が継承していた。

男の死体は崩壊を始め遂には髪の毛1本も残すことなくこの世から消え果てた。

残ったのは力を受け継いだ11人の子供達だけだった。


子供達は再び世界を見て回ろうとした時、体に異変を感じた。

足先指先、体の末端から消失を始めていた。

ついには子供達は体を失い魂だけとなった。

魂だけとだけになった子供達は体を探し始めた。

自分の魂を入れる器を。

それぞれが自分と相性のいい人間がを探し、その人間の願いを叶えることでその人間の体を借りるようにして行った。

あるものは器の人間と仲良くしあるものは人格も全て消し去る物もいた。

それが今の十一円卓。


レイメイは話を終えると、


「一旦休憩にしますか。コーヒーのおかわり入れてきますね。」


と言いキッチンに向かっていった。

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