第15話

「私は、罪と感情の十一円卓第6席色欲のレイメイ・メリド、色欲のレイメイです。」


そう言ったレイメイは何事も無かったかのように再び湊の手を洗い始めた。

いやいや、何故レイメイは洗うのをやめない?いや1度は手を止めてはいたが、今はもう再び手を動かしている。何故…?


「円卓の目的は私達の命を奪う事じゃ無いんですか?」


素直に思った事を聞いた。ミルカは円卓の目的は私達の命だと言った。だがレイメイは何か違う目的を持っているように話していた。私達を助けないと叶えられない目的を持っているのだとしたら、今のレイメイの行動には納得ができるが、何故レイメイだけ違う目的を持っている?考えれば考える程分からなくなる。


手を洗い終えたレイメイはガーゼと包帯をバッグから取り出し両手の止血に取り掛かった。その手際は優しくも迅速だった。

止血をし終えると、手早く道具をバッグに片付けていた。


「私の目的については後ほど詳しくお話します」


バッグをクルマに詰め込み、


「色々とお話することがあります。同行願えますか?」


レイメイはトランクをバタンと閉めた後湊の返事を待った。

湊はフラフラしながらもその場に立ち上がった。血を流しすぎたのか立ち上がった時世界がいっしゅん白く変化した。何とか気を持たせながら、


「どこに行くのですか?」


湊は質問をした当然の質問だった。レイメイは車の前まで移動し、


「この白虎丸で私の家までです」


と、だけ答えた。

レイメイの家?え?ちょっとまって、それよりも何?白虎丸?え?なまえ?ちょっと気になりすぎる。いや、そんなことよりもついさっき、円卓の一員に命を狙われている。その後すぐに円卓の一員であるレイメイの家に行くのは危険すぎる。断ろうと口を開いたが、


「え?白虎丸ってなんですか?」


単純に疑問に思ったことが口から出ていた。本当に聞きたいことはこれじゃないのに、レイメイはニヤッと笑いメガネをクイッとかけ直し、


「白虎丸は私の愛車のこの子の名前です。名前に似合う姿じゃありませんか?」


愛娘を自慢するかのようにレイメイはボンネットを撫でながら答えた。


いやいやいやいや、名前負けしてるよ?ねぇ?ちょっとその車に白虎丸は名前負けしてるよ?白の軽じゃん。いや、そんな自信満々に言われても…いや、まあいいと思うけどね?白虎丸。うん。

てか、白虎丸はどうでも良くて。今はレイメイに同行するかどうかの方が大事じゃん。


「白虎丸は一旦置いといて。私達はさっき円卓の一員にいのちを狙われた所。その後に円卓の一員であるメリド先生の家には行けません」


何とか話を本筋に戻す、


「今は怪しさ満点ですが信じてください。私はあなた達2人の敵ではありません」


「手当をしてもらった事とミルカを追い払ってもらった事は感謝していますが。ついて行くことは出来ません」


そう答えながら、湊はその場でフラフラとしていた。少しでも気を緩めれば意識が飛んでしまいそうだった。手当をされた手を握り痛みを感じる事で意識を保つ。握る手も握られる手も巻かれた包帯に血が滲む。


「そんな状態でどうするんですか?」


フラフラし、手からは地面に血が零れ落ちる湊はを見てレイメイは尋ねた。


「何とか…す…」


何とか気を保っていた湊だが、言葉を言い終える前に前方に倒れ込んだ。だが、その体が地面と摂食することはなかった。気を失った勅語前方に倒れ始めた湊の体を、影のようなもの物体が支えていた。


「雪音さん降りてきてください」


レイメイがそう言うと、後部座席から女性が降りてきた。

降りてきた女性は、


「何をすれば良いの?」


と、その場で伸びをしあくび混じりに聞いた。


「2人を車に乗せて貰えますか?」


「その影でそのまま載せればいいじゃん」


レイメイはメガネをクイッとあげかけ直すと、


「今の世は色々と難しいのですよ。可能ならば許可なく体に触れたくなったですよ」


その言葉を聞き、「はいはい」と雪音は答え、影に支えられている湊をお姫様抱っこし、車まで運んだ。


「後部座席でいいよね?」


「構いません。あとあそこで気を失っている子もお願いします」


雪音は湊を後部座席に座らせシートベルトをつけた。


「歩いて向かうから車持ってきて」


そう言うとドアを閉め、雪音は紅葉の方へと歩いていった。レイメイは「分かりました」とひとこと答え車に乗り雪音の後をおった。


湊と同じように後部座席に紅葉を乗せ、雪音はドアを閉めた。


「そういえば家に行くことの了承は得れたの?」


助手席にすわる雪音が聞く、レイメイは、


「まだですね、話してる最中に気を失われましたから」


そう話しクルマを発進させた。


走行中にレイメイは何度かルームミラーに目をやっていた。

ルームミラーには2人の少女もが眠っているのが映っていた。スヤスヤと何もなかったかのように、まるで遊び疲れ帰路で眠る子供のように寝ていた。


雪音は車に乗るなりスマホをただぼーっと眺めていた。

しばらくして、何かに気が付いた雪音はスマホの画面を切り、声をかけた。


「おはよう、よく眠れた?」


後部座席でモゾモゾと湊が動き、寝ぼけ眼で辺りをキョロキョロと見渡し、数秒の間キョトンとし、


「おはよう…」


と、寝起きの細い声で返した。おはようを返した後異変に気がついたのか、


「え!?ここは何処ですか!?」


血相を変え、寝ぼけ眼はどこかに消え完璧に目覚めていた。


「まーまー落ちついて、そんな大声出すと頭に響くよ」


そう雪音に言われるも、


「落ち着けって、この状況で落ち着けますか!?てかあなたは誰ですか!?」


「はーいはいはい。大丈夫大丈夫私も味方だから」


騒がしい車内の中紅葉は目覚めずに眠り、レイメイは黙って運転をしていた。

車は赤信号に捕まり停車していた。


「味方ってそもそもあなたは誰なんですか?」


「答えは君の左手に記されてるよ」


そう答え、雪音は手をあげ自分の左手を頭上に掲げ右手で指さした。


「え?左手?」


窓から差し込む街灯の光に左手をかざす、左手の甲の模様の数字が2に変わっていた。一瞬理解をしなかったが、すぐに理解をした。理解した時に湊はすぐさま顔を上げた。

雪音はシートから顔を半分だけのぞかせ、


「気がついた?」


と雪音は笑顔で一言放った。信号は青に変わり車は再び進み始めた。

街灯の光が入らなくなったり入ったりし、車内は明るくなったり暗くなったりしていた。


「あなたも円卓の一員?」


雪音は笑顔で頷いた。雪音の笑顔を見たとき湊は何故か少し落ち着くような気がした。


「自己紹介しなきゃだね。私は雪音。円卓の第2席哀しみの雪音。よろしくね」


と、満面の笑みを浮かべながら雪音は言った。


「あなたの名前は?」


「私は立花湊」


「湊だね!よろしく」


雪音は握手をしようと手を差し出した。湊は答えようと手を出したが、出し切ることは無かった。

手を出し切らない湊に対し、


「どうしたの?」


と、雪音は尋ねる。出しかけた手を完全に湊はしまい1度うつむき、顔をあげた。


「あなた達の目的はなんですか?」


その言葉を聞くや、雪音はレイメイの方に顔を向けた。


「え?言ってなかったの?」


「ええ、まだ」


「なんで!?」


「あそこで立ち話は…ねぇ?」


「いやいや、目的も言ってないの?それゃ了承は取れないよ!」


えぇ…この2文字が湊の頭の中に流れていた。


「えーごめんね、私達の目的はね…」


「着きました。続きは中で話しましょう」


雪音の言葉を遮りレイメイは言った。

雪音は「なんで遮るのさ!?」と言ったがシートベルトをはずし降りる準備をしていた。


「湊ちゃん1人で降りられる?」


心配そうに雪音は声をかける。


「大丈夫です。降りられます」


そう答え、シートベルトに手をかけ外す、外す際に手に痛みが走り苦悶の表情を浮かべる。

痛いとは声に出さなかったが、


「ドア開けてあげるね」


と、雪音は先に降り湊の横のドアを開けた。


「ありがとうございます」


お礼を言う湊に対し、「いいよ気にしないで」と雪音は笑顔で答える。

レイメイはトランクから私達のバッグを取り出した。拾って来てくれていたらしい。

そのままバッグを持ったまま玄関の方に向かって歩いていた。


雪音は紅葉の横のドアを開けそのまま紅葉をお姫様抱っこしていた。


「このまま連れていくね?」


今の湊は何とか自力で歩くのがやっとだった。紅葉を抱えるなんて事は出来なかった。


「お願いします」


雪音は湊よりも少し身長が低かったが難なく紅葉を運んでいた。

雪音について行き、レイメイの玄関の前に着く、


「ここが私の家です。どうぞお入りください」


そう言い、レイメイ戸を開け家の中に入っていった。

正直目的も何も分からないまま、家に入るのは危険だと思ったが、今の自分には逃げる体力も力も残っていなかった。あの二人が私達の味方だと言った事を信用し、ただついて行くことしか出来ない自分が弱くて惨めだった。

だが、そんな事を今考えても意味がない。覚悟を決め湊はレイメイの家に入って行った。

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