第13話
ミルカは大地を蹴り湊との距離を詰め構えた鎌を振り下ろした。あまりの大振りに余裕で攻撃を交わすも、さっきまで自分の居た場所を見て湊は背筋を冷やした。
鎌はプリンにスプーンを入れるかのように滑らかに地面を裂いていた。
「逃げた…ね?」
鎌を地面から抜きながら呟き、再び鎌を構えた。
「それ、カマキリの鎌だよね…?なんでそんなに切れるの?」
数秒前までは消えていた笑みを浮かべながらミルカは答えた。
「これが私の能力。生物ならなんにでも変身が出来るわ。勿論…人間もね」
ミルカの顔の前を鎌が下から上に移動する。鎌が顔の前を通り過ぎると春華の顔は見慣れた湊の顔に変化していた。
「どう?すごいでしょ?美しさも力も私は全てを自由に出来る!それが私!嫉妬のミルカよ」
再び鎌を構え大地を蹴り湊との距離を詰めるが、今度は詰める速さが段違いに早かった。
湊の脳天目掛け振り下ろされる鎌をすんでのところで交わす。髪の毛が何本か切られ宙を舞う。
攻撃を交わしバックステップで距離を取った湊をミルカは瞬きの間に追いかけ、今度は鎌を使わずに左手の拳を構えていた。
足が宙にあり、かわせないと考え湊は両腕でガードを固めた。人の拳程度なら耐えられるはずそう考えていたが、湊の両腕に殴られる感覚がした時湊の体は遥か後方に殴り飛ばされていた。
地面で2度ほどバウンドしそこから数メートル地面の上を滑った。立ち上がろうと地面に手を着いた時、手の感覚が麻痺していることに気が付いた。なんとかその場に立ち上がり、ミルカの姿を見て湊は驚いた。
さっきまでは右手だけがカマキリの鎌だったが、今では左手はゴリラ、両足はバッタになっていた。
「その姿やばいね。キメラじゃん」
「キメラにやられる気分はどうですか?」
「かなり最悪だね」
湊は麻痺から回復しかけている両手を構えた。
ミルカは首を鳴らし両足を深く折り曲げ、
「その最悪な気分を終わらせてあげますよ」
バッタの足で大地を蹴った。ミルカの立っていた場所が割れたかと思えば、目の前に拳を振り下ろさんとするミルカが一瞬にして現れた。
迫り来る拳を交わし、ミルカの後ろに回る。
鎌と違い拳は地面とぶつかると地面を割り、ミルカの勢いは消え、一瞬の硬直が生まれた。
背中目掛け渾身の回し蹴りを湊はお見舞し、交わすことなくその蹴りを食らったミルカは前方に1メートルスライドした。
湊の足には肉を蹴ったという感覚ではなく、まるで鉄壁を蹴った様な感覚がしていた。
「ねぇ、君本当は化け物でしょ」
蹴られたミルカがそう呟く、すると何か破片のようなものが地面にこぼれ落ちる。
落し物の主はミルカだった。ミルカの背中は亀の甲羅になっていたが、その甲羅が砕けていた。
ミルカは振り返り、
「足大丈夫?イカれてない?」
湊は頭を傾げその場でピョンピョンと2度跳ねた。
「このとおりなんともないよ。多少ヒリヒリはするけどね」
「化け物が…」
「化け物はそっちでしょ?私は人間だから」
再び足を折り曲げ地面を蹴る。が、ミルカが飛んだ次の瞬間、ミルカは元いた場所より後ろ側に飛ばされていた。
再び天を仰いだミルカは血が止流れる鼻と口を手で覆っていた。
「お前…何故…」
「真っ直ぐにしか飛んでこないとわかったからそれに膝を合わせただけだけど?」
ミルカはその場に立ち上がったが、血はまだ止まっていない様子だった。
「カウンターって知ってる?それ」
「クソが…!」
ミルカは怒りに震えていたが、何かを思いついたのか、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべ始めた。
「いきなりニヤついてどうしたの?私の顔で気持ち悪い顔しないで欲しいんだけど」
「いや、悪いね。戦いの場でする顔ではなかった。そんなことより、テッポウウオってしってる?」
いきなりのテッポウウオに湊は困惑する。
「口から水を飛ばして獲物を捕まえる魚でしょ?それがどうしたの?」
ミルカの笑みがさらに気持ち悪くなる。
「私の、円卓の目的がなんだったか覚えてる?」
「私達2人の命を奪うこと、だったっけ?」
その答えを聞き、ミルカは顔を鎌と左手で隠した。
「あなたは強いけど、もう1人の方はどうかな?自分で身を護れるのかな?」
そう言い終えるとミルカの顔は魚の顔に変わっていた。
「テッポウウオの射程はMAXでも1メートル程度…それを私が打ったらどこまで飛ぶかな?」
湊の体全体に冷や汗が流れる。
「おまえ…まさか」
魚の顔でニタァと気持ちの悪い笑みを浮かべる。魚の顔をしてるためなお気持ち悪い。
「そ・の・ま・さ・か♡」
ミルカは言い終えるなり紅葉に照準を合わせ、水を飛ばす準備をした。
紅葉の元までは到底間に合わないと判断した。湊は、
「やめろォ!」
と、叫びながら射線上に飛び出した。
放たれた血と水の混ざった弾丸は湊のふくらはぎを貫通し、軌道を変え地面を抉った。
足を打たれ地面に倒れ込む湊を見下し、頭の近くでしゃがみ、
「良かったね守れて。でも、次はどうするのかな?どう守るのかな?次は紅葉ちゃんの目の前で発射して可愛い顔をぐちゃぐちゃにしてあげようかな?そうだ。そうしよう。なんならその光景を目の前で見せてあげる。その後で君も殺してあげる」
その場から立ち上がり、紅葉の方へ向かい歩き始めたミルカの足を湊は強く握りしめた。
足を打たれ立ち上がることは難しい。ならこの手だけは離さない。
「紅葉の元へは行かせない」
握る力を尚強くする、バッタの足から液体のような物が流れる。
「なに?最後の抵抗?いいよ!もっと足掻いて!」
足を掴む手を掴まれてない足で何度も何度も踏みつける。
「ほら!ダメだよ!手を離しちゃ!手を離したら紅葉ちゃんが死んじゃうよ!頑張って耐えなきゃ!」
手は地面と足のサンドイッチの中身に何度もなり、手の周りには血の海が出来ようとしていた。
止まる気配のないミルカの踏みつけを止めたのは1台の車の走行音だった。
少し低めの音をマフラーから出しながら1台の車が3人のいる駐車場内に入ってきた。
その車を見るやいなやミルカの顔から余裕の気持ち悪い笑みが消え、何かに怯えるような表情をした。
車は2人の傍で停車しライトをハイビームからロウに切り替え、運転席から1人の男が降りてきた。その男性を湊は知っていた。
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