第12話

「罪と感情の十一円卓?」


聞き慣れない言葉を聞き返した湊に対し「そ」と一言だけミルカは返した。


「その罪と感情の十一円卓が私達に何の用があるのよ」


「んー」


人差し指を顎に付け首を傾け少し考える素振りをミルカは見せ、手のひらをポンと叩き、


「簡単に言うと2人の命を奪うことかな!」


ミルカの顔は春華の顔をしていたが、春華からは決して出ることの無いじゃあくな笑みを浮かべ答えた。


「は?それってどういう…」


「そのまんまの意味だよ」


湊が言い終えるよりも早くミルカは1歩を踏み出し湊との距離を詰め、


「これはさっきの分ね」


ミルカは体を回転させ湊と同じように顔面を蹴りにいき、湊は突然の事にその場から動けずに居た。

鈍い音と共にミルカの足に肉を蹴る感覚が伝わる。

薄気味悪い笑みを浮かべていたミルカから笑みが消える。

湊の体は倒れること無くそこにあった。蹴りも顔を捉えることなく湊の左手に寄って防がれていた。

体制を立て直そうと右足を引こうとしたミルカだが、湊に足を掴まれ何も出来ずにいた。


「今の蹴りを防いだ上に何その握力…ほんとに人間?化け物なんじゃないの?」


足を掴む手に力が尚入る。ミルカが一瞬苦悶の表情を浮かべる。


「2回目…」


湊はただ呟いた。


「は?何が?何が2回目?」


湊は何も答えずただ足を握る手に力を込める。

足を再度引こうとするも足はまるでセメントで固まらせられているかのように動かなかった。


「これ人間がしていい力じゃないよ」


湊は無言でただ何かを憐れむような表情を浮かべていた。

ミルカの顔からは余裕が無くなり、怒りと焦りが混じったような、そんな表情をしていた。


「離せよ!ばけっ」


言葉を言い終える前に、ミルカの体は一瞬に湊の元まで引き寄せられ、次の瞬間には背中に衝撃が走り天を仰いでいた。

一瞬何が起きたか理解が出来ずにいたが、ミルカは直ぐに理解した。自分が地面に叩きつけられた事を。

理解をしたミルカはその場に手を使わず立ち上がった。


「今のを食らってもまだ立ち上がるって、君の方こそ化け物じゃない?」


立ち上がったミルカに向け湊は淡々と言葉を続けた。


「罪と感情の十一円卓だか知らないけど、私達、紅葉に危害を加える奴は誰であろうと許さない。」


そう言い終えると、後ろで気を失って寝ている紅葉に着ていたブレザーを掛け。ミルカの方を睨みつけた。

ミルカはその場から動かずにいたが、今度は湊の方から仕掛けようとしたが、次の瞬間湊の左手の甲に焼けるような痛みがはしる。

薄暗い街頭に照らし手の甲を見てみると、ローマ数字で1から11の数字が時計の文字盤の様に刻まれており、真ん中の少し空いたスペースには他の数字より少し大きく9の数字が刻まれていた。

指で数字を擦ってみるも滲むことも消えることもしなかった。

手の甲をミルかの方に向け、


「これ何?あんたの仕業?」


「そうだよー。それいーじゃんイケてるじゃん」


湊は少しイラッとした表情でミルカとの距離を詰めた、ミルカも距離を詰める様に大地を蹴った。

再びミルカは蹴りを繰り出したが、その蹴りは何も捉えることなく宙を切るだけだった。

蹴りを回避しながら湊は距離をなお詰め、ミルカのみぞおち目掛け拳を放った。

拳は深くめり込みミルカはその場に膝から崩れ落ちた。

地面とお見合いをするミルカを見下ろしながら


「これ消してくれない?タトゥーとかは校則違反なんだよね」


地面とのお見合いをやめ、ミルカは湊の顔を見上げ、


「校則違反なんだ。それは残念。でもそれは消えないよ。円卓を全員倒さないとそれは消えない」


そう言った後、ミルカの体は勢いよく右側に倒れ込んだ。湊に蹴り倒されたのだ。


「そうなんだ。ならあなたで1人目だね」


湊は足を振り上げ倒れ込むミルカの頭目掛け足を振り下ろした。

が、振り下ろした足がミルカの頭を踏み潰す事はなく、ただ地面にヒビを入れるだけだった。

ミルカは既のところでエビのように後ろに下がりなんとか命を繋いでいた。

距離を開けたミルカは口から垂れる血を手で拭い取り、


「私もそろそろ本気出さなきゃね」


「さっきまでのは本気じゃなかったんだ」


「能力…使ってなかったからね」


そう言うと、ミルカの右手の先が尖ったとカマキリの鎌のように変化した。


「右手がカマキリっていよいよ化け物だね、それが見掛け倒しじゃないなら良いけど」


ミルカは何者かに言い返すことなく、そのまま近くに立っていた街灯を撫でるように優しく鎌を振った。

街灯はゆっくりと斜めにずり落ち切り倒された。

切り口は野菜を切れ味の良い包丁で切ったかのように美しかった。


「え、切れ味やばくない?」


ミルカは何も言わず鎌を舌で舐める。血が鎌を伝う。触れただけで切れる切れ味。


「いい切れ味でしょう?貴方の四肢切断して生け花にしてあげる」


そう言いミルカは鎌を構えた。

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