第9話

ガサゴソと音を立てる木々から距離を取るように2人は後ろに下がる。

何かヤバいやつとかではなく普通に動物とかその辺の物が出てくる事を祈る。

2人が息を止めて見ていると、初めに手が見え足が現れ茂みから人影が現れ、その人影は2人に気が付くとゆっくりと近付いて来た。

暗く顔が視認出来なかったが2人は声でこの人影の正体を理解した。


「あれ?2人共こんな所で何をしてるの?」


と、聞き馴染みのある声が2人に対して投げられた。

声の主はそのまま歩いて近付いてき、星の光が当たるようになり顔も確認できた。


「春華こそこんな所で何してるの?今日用事があるって」


制服の姿のままの春華は右手を頭の後ろにまわし「いやぁー」と恥ずかしそうに、


「帰り道キュートな猫にナンパされてね。少しだけならと戯れてたら、こんなことに」


「二へへ」と照れ笑いをした。


「湊たちこそこんな所で何してるの?」


「これは本当に偶然なんだけど、私達も猫に着いてきたの。そしたらこんな所に着いたって訳」


「なるほどぉ」と春華は考えるポーズをとる。

そして何かを閃いたのか手をポンと叩いた。


「3人で猫を探さない?2人の見た猫はどんな猫だった?うちの見た猫はThe!クロネコ!って感じの黒猫だったよ」


ナイスな閃に褒めてと言わんばかりの表情で春華は言ったが、それに対し春華が現れてから口を開かなかった紅葉が口を開いた。


「それは別に良いけど、春華の用事はいいの?帰って直ぐにしなきゃって言ってたけど」


それを聞き今日春華は大事な用事がある事を思い出した。春華にとって自分の誕生日よりも大事にしている推しの誕生日だ。放課後もすぐに帰って準備をしなきゃと言っていたし、今ここで道草を食ってる場合では無いはず。

背筋が冷えていく感じが分かる。

確証はないけれどいまこの何かがおかしい場所に現れたのこの春華が本当の春華かどうかが分からなくなる。


「紅葉も言う様に春華の用事は大丈夫なの?猫なら2人でも探せるし」


「大丈夫だよ!そんな用事より猫の方が大事だから」


その一言でなお不信感を覚える。がまだこの春華が偽物かどうかは分からない。

春華は紅葉と同じ様に動物が好きで、春華のTwitterから回ってるく物はアニメやゲームと同じ数、猫や犬動物園の可愛い動物やらなんやらの、癒しの画像動画が流れてくる。

それぐらい動物が好きなのも知ってはいるが、推しの誕生日をそんな事と言うだろうか?


「さ!早く猫を探そ!そしてあの愛しい肉球に踏んずけられようよ!」


猫と戯れたい!というオーラを春華は醸し出しながら2人に近付いて来ようとしていたが、春華は数歩歩いた所で歩みを止め、


「湊何してるの?」


湊は無言で右手拳を宙に構え、パンチを2回宙に放ち、


「えいえい、怒った?」


と言った。紅葉と繋ぐ左手に汗をかく。

3人のいる空間に沈黙が起こる。

普段では起こらない現象だった。その沈黙を破るように、


「え?湊何してるの?」


その一言で疑心は確証にかわる。湊の手を握る紅葉の手から震えを感じる。春華が2人に近付く為の歩みを始めるよりも先に、


「紅葉!逃げるよ!」


紅葉の手を引きながら走る。

あの春華は春華ではない。本当の春華なら湊があのポーズをした時点で何かを察していたはず、そしてパンチをした後に「怒ってないよ」と続けられていたはず。

転校してきてから春華と話すきっかけとなったアニメのとあるシーンの再現。

それをあいつは、あの春華は出来なかった。

やはりこの空間は何かがおかしい。見た目だけだと本物と見分けがつかなかった。


そんなことより今はあれから逃げることを優先しよう。

春華が現れるまで木々によって塞がれていた道が今はもう塞がれておらずこのまま突き進もうとしていた時、紅葉の足がもつれ紅葉は盛大に転んだ。


靴は脱げ膝は擦りむき血が滲み、後ろからは春華がゆっくりと近付いて来た。


「紅葉立てる?」


紅葉に手を差し出し、紅葉は手を握りたとうとするも片足を捻ったのか「うっ」と言いその場から立てずにいた。


「2人とも大丈夫?紅葉足怪我したの?急に走るからだよ」


春華は駆け足になり2人の傍によってきた。あと数歩で2人に手が触れる距離になった時、


「それ以上私たちに近づくな!近付けば蹴り飛ばす!」


春華に対して普段なら言わない事を言い紅葉の前に湊は立った。2人の距離は1歩で手紙届く距離だった。


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?紅葉が怪我してるんだよ?」


と1歩足を進めようとした春華に対し「近付くと蹴り飛ばすと言ったよね!」と春華の顔面めがけ回し蹴りをした。

春華の顔面に直撃し右側に倒れ込んだ。

春華が倒れ込んでいるうちにその場を離れようと紅葉の方を振り向くと、紅葉は胸を抑え過呼吸気味になっていた。


「大丈夫!」と言う声掛けに対しコクコクと無言で頷いていたが、明らかに様子がおかしかった。

転けた時点で足を捻っているということもあり、自力で走れないと判断した湊は、紅葉の膝裏と背中に手を回しお姫様抱っこをした。


「紅葉揺れて気持ち悪いとおもうけど我慢してね出来れば私の首に手を回して欲しい」


紅葉は無言で頷き湊の首に手を回した。そのまま湊は木々の間を縫うように山を降りて行った。

春華の姿が視界から消える前に一瞬後ろを振り返ると、春華と目が合った。既にその場に立ち上がり、逃げる2人を目で追っていた。


「紅葉舌噛むから口開けないでね」


そう言い更に山を降りるスピードを上げた。

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