第8話

薄暗い道を歩く猫を2人は追いかけていた。

猫はたまに2人が付いて来ているのかを確認するかのように振り返りその度に「ニャー」と鳴いていた。


「ねぇそろそろ引き返さない?だいぶ歩いたよ?」


「もうちょっとだけついてこう。帰り道は一本道なんだし迷うことないと思うから」


紅葉の言う通りこれまでの曲がりくねったりはしていても、みちが別れている事は無く帰り道に迷うことはなさそうではあった。

そうだとしても、今歩いている道では車の走行音が聞こえない。聞こえるのは風が木々を揺らす音、なんか変な動物の鳴き声、そして道を歩く2人の足音のみだった。


「じゃあさ、後5分経ったら引き返そ?」


湊の提案に即答はせずに少し考えてから、


「うん、ならそうしよ。また明日来てみよう」


「ありがと」と言い、湊は携帯のタイマーで5分を設定し開始した。


遂には街灯も無くなり、足元を照らしてくれるのは星の光だけとなった。

携帯のライトで足元を照らして猫を追いかけていると、猫はもう一度振り返った。そして「ニャー」と鳴くと前を向き走り始めた。

「ちょ、待っ」っと紅葉も駆け出し湊もそれを追いかけた。


しばらく間追いかけていると、空き地のような広場に出た。

空き地の真ん中の辺まで歩き猫が居ないか見渡したが猫の姿は見えなかった。携帯に設定した5分後のアラームを解除し、


「猫もいなくなったし帰ろっか?」


「うん、しょうがないけど仕方ないね。でもこんなところがあったんだね」


紅葉は空を見渡して言った。

いつの間にこんなに山を登っていたのだろうか?というぐらい、星を近くに感じられ、星の光が明るいため、街灯がなくても真っ暗という事は無かった。


「星綺麗だね」


「うん」


しばらく2人で星を眺めていた。

すると、何か異変を感じたのか紅葉が口の前で人差し指を立て、「静かに…」と湊に伝えた。

湊はそれを聞き黙って紅葉のほうを見ていた。数秒の間よ沈黙の末、


「ねぇ湊。私達がここに来る時色んな音があったよね」


何を言ってるんだろうと思うも、道中の事を思い出し、


「そうだね、動物の鳴き声やら風で木々の揺れる音、葉っぱの擦れる音とか聞こえてたね」


そう答えていると、今この場所では音が少ないと言うよりも、無いということに気が付いた。


「ここに来る時までは色々聞こえてたよね?あと、この場所って多分結構高いところにあるよね?」


いつもより星を近くに感じるし、恐らくそうなんだろう。


「多分ね。いつの間に登ってたかは分からないけどここは高台なのかな?」


紅葉は唾を飲み込み言葉を続けた。


「高いところってさ普通に風が強いよね?平地に比べれば」


「確かそんなこと子を習ったような習ってないような。それがどうしたの?」


その答えを聞くや紅葉は人差し指を1度口の中に入れ湿らせると、頭上に指を掲げた。

少しの沈黙の後、何かを確信した表情になった紅葉は、


「湊…ここ風が吹いてない…」


その言葉で湊も気が付いた。

ここは何かがおかしい場所だと。

来る道中はずっと平坦な道を歩いていると思っていたが、今は高台にいたり、木々を揺らすほどの風が吹いていたのに今は無風になっていたり、動物の声が聞こえなくなっていたりと、色々と何かがおかしい。


紅葉の手を引き、


「とりあえず来た道を引き返そう」


紅葉は無言で頷いた。

2人で来た道を戻ろうと後ろを振り返ると、ここに来た時にはあった道が木々で塞がれ、分からなくなっていた。


「あれ?道がない」


辺一面を見渡すも樹木の天然の壁ができているみたいに、道という道が無くなっていた。


「どうしよう!?」


慌てる紅葉に「大丈夫だから」と声を掛けながら、携帯で位置情報を確認する。

確認するも圏外と表示され今自分たちのいる場所すら分からない。

「ごめんね、私のせいで変なことになって」と、今にも泣き出しそうな表情の紅葉の頭を撫で「大丈夫だからね?」と宥める。

湊は木をじーっと眺め1つのことを決めた。


「よし、紅葉帰ろう」


「どうやって?」


当たり前の事を紅葉は返す。


「枝を折って道を作ろう山野管理者さんには怒られるかもだけど死体が見つかるよりは良くない?」


と笑って言って見せた。紅葉は湊の顔を見て溜まっていた涙をハンカチで拭き取り、


「怒られる時は一緒に怒られて上げる」


「ありがとう」


2人が環境破壊をしながら帰る事を決めた時、反対側の木々がガサゴソと音をたてた。

2人は音のするほうを振り返ると、人影が中から現れた。

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