第7話
下駄箱で靴を履き替え湊は玄関にたどり着いた。
部活動を終え帰路に着く生徒達を眺めながら紅葉の到着を待った。空を見ると日はさっきよりも傾き夜が半分顔を出していた。
帰路に着く生徒の中には湊の同級生も居て、たまに「湊ばいばーい」と声をかけられることがあった。その度に「うんばいばーい」と返す。
それから少し時間が経ち、帰る生徒の姿もまばらになっていった。
いつもより紅葉が来るのが遅い。図書委員の仕事を終え、図書室の鍵を職員室に返したとしてもここまで遅くなることは少ない。何かあったのだろうかと少し心配をしていると、
「ごめん湊。おまたせ」
と、小走りで紅葉が駆け寄ってきた。湊の横に並ぶと肩で呼吸をしていた。紅葉の呼吸が落ち着くのを待って、
「紅葉おつかれ。いつもより遅かったけど何かあったの?」
「湊にLINEを送った後に鍵を返しに行ったんだけど、なんか不審者かなんかが出たみたいで気を付けろって言われてた」
走って少し乱れた紅葉の制服を整えながら湊は聞いていた。
「不審者?」
「そーなんかうちの学校の近くで生徒の顔をじっと凝視してたんだって。それを聞いた先生が声を掛けに行くと咄嗟に逃げ出したらしいよ」
「へー」と返事をする。紅葉の呼吸は落ち着き制服の乱れも治っていた。
「それで、帰る時はできるだけ1人で帰るなよーって枯木もしも帰り1人なら家まで送ろうか?って言われたんだけど、湊と帰るので大丈夫ですって返したわ」
と自信満々に紅葉は答えた。
「まぁとりあえず帰ろっか?」と湊は言い紅葉も「うん」と続け2人は帰路に着いた。
帰り道2人はいつものように他愛もない会話をしていた。
今日図書室に誰が来ていたとか、そんななんてことの無い会話だった。
そんな会話の中紅葉はふと湊に尋ねた。
「そういえば湊は教室で何をしてたの?」
少し前かがみになり湊の顔を下から覗き込むような姿に紅葉はなった。
そんな紅葉と目を合わせないように湊は上を向き答えた。
「いつもみたいに本を読んでただけだよ」
湊の答えに少し目を細めニヤッとした笑みを紅葉は浮かべ、
「何かあったんだね?本当に本を読んでただけ?」
紅葉の質問に少し戸惑う。そんな湊を見て紅葉は更に
「なんでわかったの?って?湊いつも話す時は目を見て話してくれるけど、何か誤魔化してる時は目を合わせてくれないんだよね」
そう言うと紅葉はにししと笑い「んで何があったの?」と続けた。
恐らくここからどう言い繕っても紅葉には意味がないと湊は観念しメリド先生と話したことを伝えた。
すると紅葉は「どんな話をしたの?」と食い付いてきた。本当の事を言わなければ良かったと思ったが、どうせ言わなくても言わされるのだから結果は同じだろう。
そんな紅葉に話した内容を端的に伝えた。
紅葉はメリド先生の愛する人の事を聞き。「エモいね」と言った。
そんないつもみたいな帰り道だったが、今日はいつもとは少し違った。
帰り道の途中。朝学校に来る時に猫と出会った同じ場所に朝であったであろう黒猫がいた。
闇夜に潜む黒猫を見つけるやいなや紅葉はゆっくりとそして迅速に猫に近付いた。
そんな紅葉の背中を湊はゆっくりと追いかけた。
猫と紅葉との距離は段々と縮まりついには紅葉の手が猫に届く位置まで近付いた。
紅葉は慌てずにゆっくりと猫に手を伸ばし、猫も起き上がり少し警戒しながら紅葉の手の匂いを嗅いだ。
猫は匂いを覚えていたのか紅葉の手にを頭を擦り付けてゴロゴロと鳴いた。
そんな猫を紅葉は抱き抱え「にゃぁぁぁー癒されるーーー」と囁いた。
湊は癒される紅葉をただ優しそうに眺めていた。
しばらくすると猫は急に紅葉の腕の中から脱出し脇道に向かって行った。そんな猫を見送り帰ろうとした時、脇道に行った猫が振り返り「ニャー」と鳴いた。
紅葉は「ばいばーい」としゃがんだまま手を振り、振り終えると立ち上がり帰り道を歩み始めた。
すると猫は再び「ニャー」と鳴いた。
そんな猫を猫を見て、
「ねぇあの猫ちゃん私達を呼んでるのかな?」
と湊の制服の袖を引きながら紅葉は尋ねた。
「ごめん、猫の気持ちは分からないんだ」
と湊は返した。2人は猫をじっと眺めた。
猫はもう一度「ニャー」と鳴くと街灯の少ない脇道を進んで行った。
「ねぇ、追いかけてみない?」
ワクワクした表情で尋ねる。
「もう暗いよ?それにあの道がどこに続いてるか分からないよ?」
「冒険みたいで楽しいじゃん!子供の頃を思い出さない?」
「まぁ」
「良し決定だね!追いかけよう」
半ば強引に追いかける事が決まり2人は猫を追いかけて薄暗い脇道を進んで行った。
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