第6話

静かな教室で1人湊は本を読んでいた。

遠くから部活動の掛け声は聴こえたり、廊下を歩く生徒の話し声が聞こえたりする事はあった。

完璧な無音よりもうるさすぎない音がする方が、本を読むのに集中出来た。


しばらくの間本の世界に没頭しふと、今何時かを確認する。時計は4時45分を指し日は傾き落ちかけていた。

本に栞を挟み一息着いた時、廊下にいたメリド先生が、


「おや、立花さんこんな時間まで居残りですか?」


「あ、いえ友達を待ってます」


「そうなんですね友達と仲が良いのですね」


「ありがとうございます」


「今少し時間ありますか?」


「大丈夫ですけど、何かありました?」


「少しお話を聞いてもいいですか?」


何を聞かれるのだろう。そんな事を考えていると、メリド先生は湊の前の席に腰掛けた。


「答えにくかったら無理して答えなくても大丈夫ですよ」


「答えにくい事聞くんですか?」


メリド先生は少し沈黙すると口を開いた、


「立花さんが枯木さんと2人で転校してきたのは何か理由があるのですか?」


メリド先生の質問に呼吸が早くなる、それを気付かれないように、


「なぜそんな質問を?」


質問を質問で返した湊に対しメリド先生は怒ることなく、


「いえ、立花さんと枯木さん2人は何か問題を起こしてそこの地に居られなくなったから引っ越してきたとか、かけ落ちとか、色んなウワサがありましたので、噂を確かめるのなら本人に聞くのが早いかなと。」


気付かれないように呼吸を落ち着かせる、大丈夫メリド先生が何かを知ってるわけじゃないいつものように答えよう。


「答えにくければ答えなくても大丈夫ですよ。ひとは誰でも言いたくないことを持ってますから」


「大丈夫です、どう言えばいいか迷っただけなので」


そういい言葉を続ける、


「私の両親は海外で働いていまして、それで小さい頃から紅葉の家庭に住まわせて貰っていました。ですが紅葉の両親も海外に転勤が決まったため、紅葉の祖父母に預けられ、祖父母の家で住むことになりました。それで2人一緒に引っ越したって訳です」


メリド先生は静かに頷き、


「そういう事だったのですね、謎が解けて嬉しい気分です」


と、笑顔でメリド先生は答えた。そして、


「教えて頂いたお礼です、私も何か質問を答えますよ」


その答えに湊は答えにくい質問をしてやろうと、自己紹介の時深くは聞かれなかった事を尋ねた。


「両思いだった人はどんな人だったんですか?」


メリド先生は一瞬目を大きく開くと直ぐにいつもの大きさに戻し、優しいくも悲しい表情を浮かべ、


「そうですね、とても優しく美しい人でした。」


発せられる声は囁く様だったがしっかりと聞こえた。言葉の1つ1つからカノジョの愛してる事が伝わってきた。


「何かある度に笑い、本人が泣きたい時でも我慢して笑い慰める。誰にでも優しく、そして自分には厳しい方でしたよ」


「そう、だったんですね…すいません」


「謝らなくても大丈夫ですよ、なんでも答えると私は言いましたし」


その後しばらくは静寂が続いた。

部活動の音は聞こえず、廊下を歩く生徒の足音も声も聞こえずにいたが、そんな静寂を湊の携帯がかき消した。

LINEを受診した通知音だった、確認すると紅葉からで、


「図書委員の仕事の終わったよーどうする?玄関で待ち合わせる?それとも教室に迎えに行く?」


紅葉のいつものLINEがすごく嬉しく感じた。


「玄関で待ってるね」と返す。そして、


「友達が委員の仕事の終わったみたいなので帰りますね」


と湊はカバンを肩にかけ席を立った。メリド先生は座ったまま「はい、さようなら」と返事をし、湊は教室を出て玄関に向かった。

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