そこは地の底

ちょっと雑なステータス発表


名前¦クロート

性別¦女

身長¦160cm台

体重¦約40~50kg台


(最大値は20とする)

STR ¦12(18) ()内は義腕のステータス

CON ¦15

POW¦13

DEX ¦9

APP ¦8(16)  ()内は傷痕が無い時代

INT ¦14

EDU ¦10


装備

義腕

ランタン

薬品

ナイフ

簡易工具

防毒面


鍬は石突き部分を改造し、発条式のパイルバンカーや、義腕で届かない水底のヘドロを吸い上げる為の、義腕直結のポンプを取り付ける事ができる。

鍬の刃は三ツ又で、刃の反対部分はハンマーになっている。


義腕は出自不明であり、クロートが左の腕と顔を失い、トレヴァーの病院で目を覚ました時には、既にあった。

どうやら、召喚勇者の技術が惜しみ無く使われており、単純な力での破壊は不可能である。

見た目のイメージは、ズゴックEとハイゴッグの腕を掛け合わせた感じのものだが、クロートが好き勝手に装甲やら何やらを貼り付け、括り付けたりしているので、鉤爪の生えた鉄の筒の様な見た目になっている。



迷宮水路都市ヒーホルン下層にて、《トッシャー》として生きる経歴不明の女。


常に分厚いコートと防毒面で身を隠し、その表情を窺うには、唯一露出している右目と声から察する他無い。

左腕の義腕は、クロートの身を守る武器であり防具であり、猛毒の汚水を探る道具でもある。また、鉤爪は度重なる水路探索により、クロート以外の者には、致死性の猛毒を含む様になっており、ヤシリツァが額を弾かれて平気なのは、彼女の持つ硬く厚い鱗と甲殻のお陰であり、クロートもそこを狙って弾いている。

掌部にあるノズル部分は、汚水の汲み上げと排出機構を備えており、簡素なレンガ塀程度なら破砕可能な、水圧で汚水を排出する事ができる。


性格は情に薄く、必要とあらば寝食を共にしている相棒のヤシリツァすら、見捨てる判断を下せる。

しかしその反面、ヤシリツァの押しに弱い面があり、反対するが結局押しきられて、割に合わない仕事を受ける事もある。


そして、何故か毒や呪いの類いを一切受け付けず、最下層区域の更に下層、有りとあらゆる対策を施しても、一時間以上の滞在は不可能と言われる、深淵下層区域に出入りが可能な数少ない人物でもある。



名前¦ヤシリツァ

性別¦女

身長¦180cm台

体重¦80~90kg台 (尻尾、甲殻を含む)


STR ¦19

CON ¦18

POW¦15

DEX ¦17

APP ¦16

INT ¦8

EDU ¦6


装備

防毒面

ダウジングロッド

ランタン

薬品

ナイフ


《ダウザー》必須のダウジングロッドだが、ヤシリツァはそれよりも、自身の竜人族としての感覚で金品を見付ける。なので、本来の用途より別の用途に使われる事が多い。

鋤は、ヤシリツァが力ずくで三ツ又に割っている。その直後にクロートにぶん殴られた。

刀身は普通の鋤より大きく分厚く仕上げられており、槍や斧の様に使う事もできる。

《ダウザー》ヤシリツァ初の戦利品でもあり、召喚勇者由来の品らしい。



まだ幼児の頃に、クロートの気紛れで拾われた 今は滅んだ竜人族の末裔。


両親を知らず、一人で迷宮水路下層にて、獣の様に生きていたところを、クロートが気紛れで拾い、《ダウザー》としての技術を叩き込んだ。

初めは、適当に育ったところを、売り飛ばされる予定だったが、クロートの予想以上に《ダウザー》としての能力が高く、竜人族の高い身体能力もあり、雑用兼護衛兼非常用収入として、側に置く事になった。

本人も、クロートのその考えに気付いているが、クロート自身によく懐いていて、売られたらまた戻ればいいし、まあ仕方ない事だと理解している。


外見に人間の面が強く出ている事もあり、本人も周囲も、蜥蜴人のハーフだと思っているが、実は神話の時代に滅んだとされる、世界最強種の竜人族の末裔だったりする。

空を知らないせいか、または蜥蜴人の血が混じったせいか、竜人族の誇りとされる翼は無い。だがその代わりに、脅威的な力と尾や鱗に甲殻を、体中に得ている。


まともな学校教育や、両親からの教えを受けてない影響か、語学や数学等に対する理解に乏しく、セーィフや他の同業者に騙されて、割に合わない仕事を受ける事もある。

その度に、クロートに怒鳴られ、鉤爪で額を弾かれている。



〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃




 嫌悪、というものがあるのなら、それはこの感情を指すのだろう。


「これはこれは、我らが憎き《トッシャー》にして、我が麗しのクロートではないか」


 この迷宮水路にて、畏怖と侮蔑の象徴である警邏服を、堂々と着込み勲章で嫌味に飾り付けた男。

 目鼻立ちの整った顔に、威圧を与える獰猛な口元。実に厭らしい笑みで、口の端を吊り上げたその男が、慇懃無礼にクロートに丁寧なお辞儀をする。

 そして、義腕ではない右手を取ろうと、手を伸ばすが、左の義腕の鉤爪の爪先が、己に向いたのを見て、降参と態とらしく両手を挙げる。


「つれない、つれないな。我が麗しの君よ」

「お呼びじゃねえ。用が無いなら、さっさと失せろ」

「用なら、トレヴァー医師にある」

「なら、オレじゃなく、先生に行け」


 不機嫌さを隠さず、クロートはそう言って、防毒面の奥に見える瞳を閉じ、左の義腕を前にして腕を組む。


「では、我が君は後程。……トレヴァー医師、昨今下層にて頻発している行方不明事件について、何か心当たりはありますかな?」

「また、前置きも無しですね。しかし、私は今回の件に関しては、たった今知ったところでして」

「たった今ですかな?」

「ええ、彼女達から聞きまして」


 目を細め、一瞬だけトレヴァーの視線を追うが、すぐにずらし、目を閉じたクロートへ向け直す。


「流石、我が麗しの君だ。今回の件に気付いていたのか」


 男の目に、ヤシリツァやコーシカは写っていなかった。

 否、写っていたが、男には二人は存在しないも同義だった。


「……クラカディール、礼儀というものをご存知で?」

「これはこれは、トレヴァー医師。妙な事を仰いますな。……人に似た獣に礼儀を払う人間が、何処に居ると?」


 男、ヒーホルン警邏隊隊長〝クラカディール〟は、筋金入りの人間主義であり、獣の特徴を持つ亜人を蛇蠍の如く嫌悪している。

 それは何故か、理由は誰も知らないし、誰も知る気はない。人間に似た獣である亜人は、人間より遥か下の存在であり、蔑まれるのが当たり前である。

 それが、この大陸での常識だからだ。


「人は人、獣は獣。線引きは確りとしなければ、秩序は容易く崩れ去る。そうは思いませんか? トレヴァー医師」


 狂った笑みだ。トレヴァーは正直に、そう感じた。

 元の世界でも、この世界でも、差別主義者の笑みは変わらない。

 狂いきって、逆に正常とも思えてくる。


「私に問われても、元はこことは違う出ですので」

「ふむ、それもそうですな。いや、失敬。我輩とした事が、医師の事情を失念しておりました」


 口調や仕草は、人格者を思わせる様に丁寧なものなのに、それらを無視して感じさせる無礼さ。

 だが、このクラカディールはまだまし部類だ。まだ会話が成立し、主義主張を押し付けてくる事は無い。

 そう、他の人間至上主義者達は会話すらままならない。


「……クラカディール、用件は以上ですか?」

「ふむ、そうですな」


 クラカディールは、何か思案し、先程から動かないクロートへ視線を向け、懐から手帳を取り出した。


「我が麗しの君、幾つか聴きたい事があるのだが?」

「……勝手に喋れ」

「ふむ、ではこの最近で、最下層の南へ行った事は?」

「無い。……あんな毒の溜まり場に行く奴は、死にたい奴だけだ」

「確かに、道理だ。では、麗しの君。君の爪は人を斬れるかね?」

「裂けはするが、斬るのは無理だ」


 ふむ、とクラカディールがクロートの義腕の鉤爪に目を向ける。彼女の体をすっぽりと覆い隠してしまう程に、大きく堅牢な装甲の義腕の鉤爪は、確かに切っ先は鋭い。

 しかし、全体的に刃付けはされておらず、斬るというより掴む、摘まむ。もしくは、クロートの言う通りに、引き裂く事に特化している。


「麗しの君。昨今、最下層区に斬殺死体が増えている。それも猟奇的な死体が」

「オレを疑ってるのか」

「否、今ので君の容疑は晴れた。元より、疑ってもいなかったがね」


 そう言うと、クラカディールは制帽の位置を正して、トレヴァーに向き直る。


「それでは、トレヴァー医師。またお伺いする事があるかもしれません」

「その時は、ただの患者としてお越しください」

「おお、それならば、吾が輩の部下の一人が、どうやら酷い水虫に悩まされておりまして、また後日診てやってくれませぬか」

「では、明後日の昼か、それ以外でしたら、明明後日の午前になりますね」

「それは有難い。では、明後日に休みを取らせて、こちらに伺わせます」


 それを言い切ると、クラカディールはさっさと扉へ向かった。

 背後で、今まで黙っていたヤシリツァが、小声で悪態を吐いていたが、彼にとってはそれすらも耳に入れる価値が無い。

 しかし、クロートの前を通り過ぎる際に、


「麗しの君よ、獣の躾は確りとし給え。躾のなっていない獣は、獣だけでなく飼い主も不幸にする」


 クロートがその言葉に、鼻で笑うと、クラカディールは満足した様に、病院から去っていった。


「相変わらずな奴だ」

「うぎー! なーにが獣の躾だよ! アタシは人だ、亜人だ!」

「喧しい、叫ぶな」


 クラカディールの言葉に、ヤシリツァが憤慨し叫んでいると、クロートが左の鉤爪でヤシリツァの額を弾いた。


「だから、爪はやめてってば。結構、痛いんだから」

「なら、バカみたいに喚くな。……それに、そうして喚くのは、自分を獣と言っている様なもんだ。オレは獣の面倒を見た覚えは無い」

「……ごめん」


 よく響く良い音がした額を押さえ、涙目になるヤシリツァを横に置いて、カルテを見直していたトレヴァーに、防毒面の奥の目を向ける。


「どうしました?」

「……コーシカ話を聞いて、何か思い当たるものがあったんじゃないか?」

「……あまりに荒唐無稽ですから、言いたくないのですがね」


 少し、クロートがトレヴァーを睨み付け、観念した様にトレヴァーが立ち上がり、部屋の奥にある本棚から、一冊の本を持ってきた。


「うわ、こんなツルツルした本あるんだ」


 ヤシリツァが驚いた様に、クロートも内心では驚いていた。

 ヤシリツァやクロート達、この世界の住人が知る本は、革や紙、珍しいもので木板の表紙で、糸や紐、糊で綴られている。

 だが、トレヴァーの持ってきた本は、全て紙で作られ、ページの厚さや大きさに不揃いは無く、全てが均一に作られていた。

 もし仮に、この一冊を売れたらなら、クロートとヤシリツァは表層に住まいを移し、少しはまともな職を得られ、余裕のある生活を送れる様になるだろう。

 内容関係無く、トレヴァーの本にはそれだけの価値があった。 


「あ、一応言っておきますが、この本。私にしか扱えない魔本ですので、盗んで売ろうものなら、盗人とその商人は確実に死にますよ」


 トレヴァーの忠告に、ヤシリツァは降参と両手を上げ、コーシカは怯えたムィーシを少し本から離して、クロートは舌打ちをした。


「……それでですね。荒唐無稽なのですが、このページをご覧ください」

「ゾウキ、イショク?」

「え、ムィーシ、この字読めるの?」

「す、少しだけ、先生の世界の字だ。けど、意味は分からないよ」

「それで、先生。これはどういう意味ですの?」


 情報屋特有の好奇心を隠す事無く、コーシカがトレヴァーに問う。

 すると、彼はページを手繰り、見開きの次のページを開いて見せる。

 そのページには、トレヴァーにしか読めない医学用語と、この世界には存在しない鮮明な写真による、人体の内部が記載されていた。


「例えば、これですが、煙草やお酒で体を壊して亡くなられた方の、胃と肺です」

「く、腐ってる?」

「過度の酒精による度重なる炎症と、煙草の成分により破壊された肺です。皆さんも、酒と煙草は程々に」


 言われずとも、そこまで酒や煙草に注ぎ込める稼ぎは、四人は持ち合わせていない。

 いや、ムィーシとコーシカはひょっとするかもしれないが。


「話が見えん」

「そして、私の世界では、ある医療技術が発達していました。それが臓器移植、他者から他者へ、内臓を移し変えるという技術です」


 何かを想像したのか、ムィーシが吐いた。流石に無理もないと、トレヴァーがバケツを用意し、コーシカに吐き気止めを渡して、奥にあるベッドで彼を休ませる様に頼んだ。

 その間に、ヤシリツァが床を掃除し、クロートは病院に備えてある簡易な着替えを、まだ吐き気の止まないムィーシの背を擦るコーシカに手渡す。


「……申し訳ありません、ムィーシ。配慮が足りませんでした」

「い、いや、先生。こっちこそ、床を……っ!」


 ムィーシの反応が、ある意味でこの世界では正常な反応なのだろう。

 クロートやヤシリツァ、コーシカも含めて、軽い嫌悪感程度で済む方が、どちらかと言えば異常なのだ。


「んで、先生。件の犯人は、そのゾウキイショクの材料集めをしてるってのか?」

「この世界では不可能に近い技術ですが、もしかしたら私の知らない召喚勇者や転生勇者が、可能にする技術を持ち込んだ。とも考えられます」

「しかし、なにがなんでも飛躍し過ぎでは?」

「確かに、そうでしょうね。しかし、気になるのですよ。なら何故、ムィーシが見たというチリパーハの遺体は、内臓が抜き取られていたのか、とね」

「…………」

「クロート?」


 こちらを覗き込んでくるヤシリツァの、額を右の人差し指で弾き、左腕の傷痕に手を添える。

 関係がある訳ではない。あいつは死んだ。クロートの左腕と顔を奪ったあいつは、クロートが確かに殺して、死体は灰となった。

 なのに、何故だろうか。

 左腕と顔、傷痕がやけに疼いた。

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