第12話 世界の命運を決める15分(5)
・・12・・
転移門が不気味な音を立てて開くと、暗黒の向こう側から現れたのはモンスターの大群だった。ゴブリン系やハウンド系のような比較的小さいサイズのモンスターから、オーガやゴーレムのような体長数メートルの巨体にドラゴンなどの飛行生物まで、多種多様な異形が続々とこちらの世界へやってくる。
まるでゾンビ映画の終盤でみられるような地を埋め尽くす勢いで、異界のモンスター達は孝弘達に迫ろうとしていた。
「……これは流路を限定しないとキツイね」
「オレの出番っすね。ただ、これからすることをやるともうほとんど戦えなくなるんであとは頼みましたよ」
「私がいるから。大丈夫」
「おう。頼んだ、知花。じゃあいくぜ。――術式広域指定」
大輝がしようとしていたのは、高さ二メートル程度の壁を東西約二キロに渡って構築する土属性の戦術級魔法だった。彼がこの術式を発動しようとするのに気づいた土属性に長ける隊員数名は補助に入る。
「悪い! 助かる!」
「なあに。自分は手負いなんでもうあんまり派手な立ち回りは出来ないんでこれくらいはさせてください」
「終わったら結婚式をするお人が死んじゃいけませんから」
「ほんとほんと。私らもいいカッコさせてください」
大輝は彼らの助けを得て術式を組んでいく。時間が惜しいからと防御力が劣る短縮詠唱でやらざるを得なかったが、サポートがあったことによって今出来る最善の硬度で発現させられそうだった。
「――異界の異形共を防ぎ、我らが勝利を掴むための壁を今ここに。『不壊の
大輝が術式を紡ぎ終えると、地面から土壁が扇状に現れた。見た目こそ土の壁だが、その強度はダムのそれと遜色ないほどに頑丈だった。壁には横幅数メートルほどの隙間が数カ所あったが、これは敵をわざと誘導するためのものだった。
彼は詠唱が上手くいったのをみて口角を僅かに上げると、膝から崩れ落ちた。倒れる寸前、知花が抱き止める。
「わりい。やっぱきついわ。立ってるのがやっとだ」
「お疲れさま、大輝くん。ここからはわたし達に任せて」
知花は大輝を強く抱きしめる。彼は脂汗を出して意識が朦朧としながらも頷いて微笑んでみせた。
大輝が知花の肩を借りてなんとか立位の姿勢を保ってすぐ、知花の両サイドにある二人が立った。
「ここから私と」
「わたしが固定砲台になります」
「俺はデカいのを対物ライフルで潰す」
「管制はわたしでするから、水帆さんと孝弘くんは撃滅に集中してくれて大丈夫」
「分かった」
「よろしくね、知花」
「うんっ」
三人が十秒足らずで役割分担を終える。璃佳はその姿をみてあっちは大丈夫だと判断し、自分は部下への指示と闇属性魔法の詠唱と発動に集中することにした。
残り一五◯秒。上空で、地上で戦う隊員達の必死の攻撃も膨大なモンスターの数には勝てず、ついに壁を越えてモンスター達がやってきた。
孝弘達がいる地点から壁までは約五〇〇メートル。それは水帆と知花にとっては十分すぎる距離だった。
「――火の円舞。炎の祭典を今ここに!! 『
「――無数の光弾から逃げる術はあらず。全てを屠り、死へ送る。塵さえも残さずに。『
二人が行使した魔法の威力は戦術級のそれで、文字通り固定砲台の役目を果たすことになる。
水帆の放った青い焔の槍は直撃すればゴーレムすら溶かし、ドラゴンは断末魔を上げる間もなく絶命した。知花が顕現させた二つの魔法陣から飛び出したのは、空をまだら模様にさせるほどの光子弾。光の弾が命中したモンスターは等しく命の灯火を消し、死へと送られていった。
たった二人の、たった一撃で、異界の化け物の反応は数千消失する。
だが代償が無いわけがなかった。
『警告。戦闘継続限界、三◯秒減少』
「ぐ、ぅ!! ――けどね、そんなの知ったこっちゃないっての!!」
『警告。戦闘継続限界、三五秒減少』
「あぐぁあぁぁ?!?! ――でも、だからって、止めるわけないでしょ!!」
水帆は脳が弾け飛びそうなほど激しい頭痛に襲われ視界が歪み、知花は耳と鼻から多量ではないが出血する。急激に大量の魔力を消耗して魔力回路が耐えられなくなったからだ。
それでも、二人は詠唱を続ける。面制圧可能な魔法をもう一度撃った。生死を問わない魔力の使い方だった。
孝弘も二人の負担を減らすべく法撃箇所の指定など法撃管制を行いつつ、自身も魔法対物ライフルで一発に込められる最大量の魔力を注いで大型個体やロードクラスの超大型個体を倒していく。彼も水帆のように気を失いそうな頭痛に襲われるが、鎮痛術式で無理やり抑え込んだ。
しかし無情にもモンスターの数は減らない。むしろ増加の一途をたどっていた。
(これ以上は、
残り一〇五秒。璃佳は、この戦場に命を捧げる決意をした。
「ごめん、熊川。これで勝っても私はビタイチ動けなくなる。だからお父様に伝えて。娘は立派に世界救ったって」
「っ……!! 了解……!!」
「それとね――」
璃佳は傍らにいる熊川の方を振り向かなかった。
かわりに彼女は、後悔を残さないために彼に向けてこう言った。
彰。お前のことが、好きだったよ。と。
「アカネ。『二の鍵』を、使うよ!!」
「あいわかった!!」
璃佳はアカネに、自分の魔力のほとんどを注ぐ。魔力回路が、身体が、心が、彼女の全てが悲鳴を上げる。口からは血の塊を吐き、鼻と耳だけでなく瞳からも血が垂れる。
「うぐぁああぁぁぁぁぁっぁあぁあぁあ!!!! ん、ぐ、がああああ!! か、か、鍵を、アカネにっっっっ!!!!」
アカネの後ろで璃佳が膝から崩れる音がした。地に伏さなかったのは熊川が抱き止めたからだろう。
「璃佳め。必要以上に注ぎおって……。じゃが、主の覚悟は確かに受け取った。なれば、儂はそれに答えるまで」
彼女は一度、目を閉じる。
「一柱としての全てを救国の為に。『二の鍵』、解錠」
再び開けたその時、彼女の瞳は真紅ではなく金色に輝いていた。
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