第11話 世界の命運を決める15分(4)

 ・・11・・

「グオオオオォォォォォ!!!!」


 オーガは大きな咆哮を上げると、地面に刺していた鉄塊のような大太刀を抜いて握り孝弘達へ向ける。


「上等だ。その余裕ヅラ、すぐに歪ませてやるよ」


「然り。大鬼など、恐るるに足らんわ」


「あと六分半だ。大輝、アカネ。とっとと片付けよう」


「おう」


「うむ」


 先に突っ込んだのはゴーレムジェネラルだった。ゴーレムは大太刀を振り下ろすと、オーガロードは大太刀を構えジェネラルの剣戟を受け止めて見せた。


「おいおいマジかよ! アイツ、十メートル近く体格差あるのに余裕で受け止めたぞ!?」


「集団詠唱で極限まで能力を引き出しておるんじゃろ。あの力、名前こそロードじゃが実態は王と同格であろうな」


「ちっ、あまりやりたくはねえが……。ゴーレムジェネラル!! 追加で魔力を突っ込む!! 力負けするんじゃないぞ!!」


 完全解除の状態で魔力をさらに注ぐのは完全解除可能時間を削ることになるから得策ではない。だが、背に腹はかえられなかった。


『警告。完全解除制限時間が三○秒短縮。残り八分三○秒』


「分かってらぁに!!」


「大輝。取り巻きと妨害対処は俺とアカネに任せろ。お前はロードをよろしく」


「おう!! そっちは頼んだぜ!!」


 大輝は孝弘と手短にやり取りを終えると、ゴーレムジェネラルの援護に向かった。


「大輝の邪魔はさせぬぞ」


「かかってこい鬼共。相手になってやる」


 大輝がジェネラルと連携してオーガロードと激闘を始めるなかで、孝弘とアカネはわざと魔力を放出させてオーガやその周りにいる神聖帝国軍将兵を威圧する。


「…………っっ!?!?」


「グ、グ、グォオオオオオォォ!!!!」


 魔力放出の効果はあった。明らかに動揺したオーガ二体がヤケになったのか突撃してきたのだ。


「釣れた。遅延爆発式ディレイタイプ・エクスプロードハイチャージ。ショット」


 孝弘は銃口をオーガではなくオーガがあと数歩でたどり着くであろう地点に向けて撃つ。弾は地面にめり込み、オーガが一歩手前まで迫ったところで土が大きく爆ぜた。


 ハイチャージショットの爆発系魔法は孝弘の実力であれば戦車砲に迫る火力を誇る。

 オーガの目前で生じた爆発は巨体を吹き飛ばすのに十分な威力だった。


「妨害しようなど無駄よ。出でよ狐火。廻れよ、廻れ。大群となり拡散せよ。さぁ、雑兵共を燃やし尽くせぃ!!」


 アカネがくるりと舞うと彼女の頭上には狐火が三重の円陣を作り、手を振り下ろすと周囲に飛んでいった。


 直後に起きたのは、敵にとって阿鼻叫喚の光景。一度に数百の将兵が燃えた。

 オーガロードの近くにいた敵部隊が崩れた瞬間をゴーレム達は見逃さなかった。それぞれが突撃し、神聖帝国軍の二つの大隊は総崩れの予兆をはっきりとみせていた。


「孝弘、アカネ、助かるぜ!! これで思う存分サシでやれる!! いくぜジェネラル!!」


 互いに間をとっていたオーガロードと大輝・ゴーレムジェネラルは、周囲の戦闘が優勢に傾くのを見ると勝負に出た。


 オーガロードに比べ遥かに大きい体躯のゴーレムジェネラルは強く土を踏むと刀を振り上げてから、下ろさずにオーガロードに向けて投擲とうてきした。


「ゴガァ!?!?」


「悪ぃな、お前との打ち合いをやってる余裕はねえんだわ。ジェネラル、吹きとばせ」


 ゴーレムジェネラルは大輝の声に応えオーガロードへ加速して突っ込み、ロードは大きな衝撃を受けてうめき声を上げながら大きく吹き飛んだ。


 巨体のロードが地に倒れると土煙が起こる。

 ロードも自分に何が起きていたかは理解していた。予期しないゴーレムジェネラルの大太刀投擲。刀を振り払った直後には自分を上回るデカブツが突撃してきたのだ。耐えられるわけない。視界が空を向いているのは分かるが、わずかの間で何が起きたか理解が追いついていなかった。


 ただ一つ揺るがない現実があった。

 決定的な隙を与えてしまったことである。


 瞬きをした瞬間、次にロードの視界に写っていたのは、跳躍してから既に下降姿勢に入った大輝の姿だった。


「土属性、超硬化。風属性切断系付与。おしまいだ、オーガロード!」


 大輝の薙刀は、オーガロードの額に突き刺さる。断末魔の声すらなく、召喚生命体のオーガロードは消え去った。


「オーガロード、討ち取ったり!!」


 大輝が薙刀を掲げ、勝利を告げる。

 孝弘や璃佳達の日本軍部隊からは敵との応戦を続けながらも歓声が上がる。

 神聖帝国軍の将兵は絶望し、形勢は決定的に――。

 なるはずだった。


『警告。転移門より高濃度魔力反応を検知。転移門、転移フェーズを開始』


「は?」


「え?」


「なん、で?」


 大輝、孝弘、璃佳の順に思わず声が漏れる。


『警告。転移門より超高濃度魔力反応を検知。転移フェーズ継続中。転移フェーズ終了まで推定二○秒』


 璃佳の勘は過去最大級の警鐘を鳴らす。

 考えたくもないが、このタイミングで転移門からの転移フェーズといったら一つしか考えられなかった。


『総員転移門から一キロ半以上距離を取れ!! 上がれる奴は上空に行け!! 魔法障壁を最大限に展開して地上の雑魚ども今から屠れ!!」 米原中佐、特戦分隊は私やアカネに熊川と一緒に地上で!!』


 璃佳の叫びに近い命令に即応した隊員達は、余裕のある者はフェアルで上空へ向かい地上攻撃と迎撃体制の構築を急ぎ、余力が乏しくなってきた者達は璃佳を中心に集まり始めた。


 孝弘は璃佳の方へ向かいつつも奇妙な光景を目にした。神聖帝国軍の将兵達は困惑するか混乱するか、そうでない者は逃げ始めたのだ。


 ここで孝弘は確信した。最悪の事態が迫りつつあると。


 孝弘達は璃佳のもとへたどり着くと、脂汗をつたわせながら言う。


「七条准将閣下、これは……」


「…………悪いけど、これを乗り切っても私らまとめて死ぬかもしれないよ」


「残り時間は四分です」


「てことは、出てくる頃には三分四○秒ね。私もまあ、あれをやれなくは、ないか……」


「璃佳よ、それは……」


「分かってるよアカネ。けど、そうしないと作戦を成功させられないかもしれないから。熊川も、皆も。それに米原中佐も、ごめん」


「私は最期の最期まで七条閣下のお傍に。ただし、光栄でしたとは言いませんよ。まだ、まだ言いません」


「…………分かりました。水帆、大輝、知花、最期まで付き合ってくれ」


「当たり前じゃない。私はアナタの婚約者だもの」


「当然だろ戦友。死ぬ時も一緒だ」


「うん。最期まで、皆で一緒だもの」


 全員が覚悟を決めた。

 世界の命運が決するまで、あと三分三○秒。


 転移門が開く。


 早すぎるスタンピードが、幕を開けた。

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