第6話 本命を騙れ

 ・・6・・

 辺り一面を白い光が支配した。

 直後に凄まじい爆音。あまりの威力にレーダーが一時的に使用不能になり、状況が一切分からなくなった。

 二分半後には少しずつ土埃と煙が晴れてきた。


『地龍01、02、03、沈黙……。魔力反応消失! 討伐完了です!』


 司令部要員のマイクの向こうから歓声が聞こえてくるが、今川達は安堵の方が強かった。良かった。なんとか倒せた。そういった心情の方に。


 男が放った法撃は広範囲の敵を攻撃範囲とする戦術級だったから一時的とはいえ周りに敵性反応は無くなった。安心して着陸出来るようになった今川達は丘の上に降り立った。

 続けて法撃を行った男とその護衛らしき将兵が二十数人降りてきた。

 狼を想起させるような鋭い眼光を持つ容貌。戦闘用の第三種軍装が示す階級章は大将。

『天雷』を発動した男の正体は、魔法軍総長中澤雅紀大将だったのだ。

 彼が今川の方に向かうと、彼女達は直立不動の敬礼をする。


「連戦で疲れているだろ。楽にして構わん」


「はっ! ありがとうございます」


「礼ならこちらが言いたい気分だ。地龍との激戦含め、よくやってくれた」


「我等は己の任務を果たしたまででありますので」


「それでもだ。――空母にいた予備部隊を引き連れてきた。再編成が済んだばかりとはいえ、魔法軍の中即中央即応連隊だ。貴官らの代わりを十分務めてくれるだろう」


「私達にとっては最高の報酬です。正直なところ、閣下が来て下さらなければ半壊覚悟で戦うところでしたので……」


 自分達が戦うのは一旦はここまでで、後方に下がるのが確定したからだろう。あちこちからホッとした声音が聞こえてくる。今川もようやく休めると分かって喜び混じりのため息をついていた。


「ところで中澤大将閣下。助けて頂いて恐縮ではあるのですが、どうしてここまで来られたのでしょうか……。他軍と違い魔法軍ですから高位能力者の司令官クラスが戦うことは比較的あることですが、閣下は最上位指揮官ですから……」


「ああ、そんなことか。理由は二つある。一つは地龍が立て続けに出現したこと。セブンス《璃佳》とスクアッド《孝弘達》がおらず、この場にいるSランクは俺だけ。出るべきだろ」


「仰る通りです。もう一つは?」


「俺の存在自身を本命の囮にした。魔法軍の総大将が道央方面に出た。連中が釣られるには十分な要素だろう?」


「間違いありません」


 道央方面への侵攻は日本軍にとってあくまで陽動だが、神聖帝国軍にはここが本命だと思わせなければならない。


 今までの戦いと比べても多量の火力が投じられ。

 空軍や海軍の戦闘機投入数も過去最大。

 魔法軍も二個師団がおり、特にフェアル部隊の比率は全作戦中最高レベルになっている。


 その上で、魔法軍総指揮官の中澤が現れたのだ。

 神聖帝国軍を欺くにはピッタリな登場人物だった。


「だが、ただ現れるだけじゃつまらん。久しぶりに暴れるつもりだ。札幌を電撃的に奪還されるとヤツらに誤解させるくらいにな」


「どうかお気をつけて。徹底敵に叩きのめしてやってください」


「おう。あとは任せろ」


 今川達は中澤へ敬礼すると、離陸して苫小牧の方へ飛んで行った。


『苫小牧FHQよりMG1へ。一旦停止していた敵軍が再び動き始めました。また、新たにエンザリアCTの出現も多数確認。明らかに警戒されています』


「構わん。それでいい。バケモノ天使がいるということは、虚ろ目も出てくるだろう。まとめて焼き払う」


『了解しました。――伊丹のRG1《香川上級大将》よりMG1へ伝言です。『帰還したら秘蔵の一本を貴官へ譲る。アレだぞ』とのこと』


「おう。おうおう、それはいいな。RG1へお伝え頂けないか。死なない理由には十分です。約束ですよ。とな」


『了解しました。お伝えします』


 中澤は無線を終えると秘蔵の一本と聞いた時に見せていた緩んだ表情から、獲物を狙う狩る者の顔つきに戻る。


「我々は遊撃として各ポイントの支援を行う。東京以来の激戦だ。俺からは何本か持っているヤツを貴官等にやる。総員、生きて帰るぞ」


『はっ!!』


 中澤の参戦でますます攻勢を強める日本軍と、彼の登場で道央方面を本命と勘違いした神聖帝国軍札幌方面司令官。よりいっそう戦いは激しさを増していく。


 その翌々日。

 二〇三七年四月二五日。

 運命の一日が、始まる。

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