第7話 転移門を目指せ

 ・・7・・

 2037年4月25日

 午前七時過ぎ

 釧路方面上陸部隊輸送艦隊

 旗艦 強襲揚陸艦『若狭』飛行甲板


 遂に運命の一日が始まった。


 午前六時前。

 事前の予定通り釧路市街地方面上陸部隊への支援として、海軍の艦砲射撃・ミサイル攻撃及び空軍戦闘機部隊の爆撃が敢行される。この時点で釧路市街地にあったマジックジャミング装置は破壊され、市街に展開していた虚ろ目のエンザリアなど対空迎撃生命体を撃破。加えて神聖帝国軍の道東方面司令部施設の大部分の破壊に成功する。


 午前六時半。

 海軍と空軍の猛烈な攻撃が行われる中で、釧路方面上陸部隊は釧路市大楽毛から益浦にかけての海岸に奇襲的上陸を開始。

 マジックジャミング装置や司令部施設、通信設備を破壊された神聖帝国軍は混乱に陥っており、これら上陸部隊に対して反撃出来た神聖帝国軍部隊はあまり多くなかった。


 そして午前七時。

 釧路ゲートの破壊に向かう孝弘達は強襲揚陸艦『若狭』の飛行甲板で、離陸の時を迎えようとしていた。


「水帆、最終チェック頼んだ」


「分かったわ。孝弘のが終わったら私のもよろしくね」


「もちろん」


 孝弘と水帆は、フェアルを含めた各装備の最終チェックを行う。

 彼らだけでは無い。世界の命運を分ける作戦を前にしても、いつもと違うのは彼等のいる所が陸上ではなく飛行甲板上であるくらいで、それら以外はこれまでと同じような光景があった。


「賢者の瞳相互点検機能起動。…………オールグリーン。異常なし。孝弘のフェアル、よし。魔力残量九九パーセント、よし。魔力回復薬の携行五本、よし。主装備、よし。背部装備、対物魔法ライフルよし。流石に試製対物ライフルは持っていけないわよね」


「機動力が落ちるからな。――じゃあ俺もチェックするぞ。賢者の瞳相互点検機能。…………オールグリーン。異常なし。水帆のフェアル、よし。魔力残量九九パーセント、よし。魔力回復薬の携行五本、よし。主装備、杖、よし。副装備魔法拳銃、よし。大丈夫だ、問題ない」


「ありがとう、孝弘」


「どういたしまして」


 孝弘と水帆は相互点検を終えると璃佳達のいる方へ向かう。やや遅れて、大輝と知花もやってきた。


 釧路ゲームへ向かう部隊は『北特団第一大隊』と『特務第二大隊』に、璃佳や熊川など本部中隊の中でも本作戦に耐えうる少数の隊員と孝弘達の『本部中隊付特戦分隊』。

 作戦の性質上、揚陸艦から約二個大隊を素早く離陸させないといけないから、小隊単位で次々と離陸していた。


 孝弘達が離陸する番はすぐにまわってきた。


「特戦分の皆さん、お気をつけて」


「ご武運を」


「皆さんならやり遂げると信じて、待ってます」


「阿寒は自分の故郷で……。お願いです。阿寒を奴等から取り返して下さい。お願いします」


「分かった。貴官の故郷を、北海道を取り戻してみせる」


「はい……!!」


「特戦分、離陸よろし!! いつでもどうぞ」


 甲板作業員から声がかかると、孝弘達は強襲揚陸艦の甲板にいた将兵達へ敬礼し、空へと飛び立っていった。


『若狭コントロールよりSA1へ。今後の通信は全て日本語とします。SAはセブンスの本中と合流してください。セブンスは現在、一○時方向距離九○○にて待機中』


「SA1より若狭コントロール了解。セブンスへ合流する」


 孝弘は返答し、璃佳達のいる方へ向かった。


「SA1よりセブンス。特戦分一一名、合流しました」


『セブンスよりSA1。合流確認。もうちょっとしたら集まるから、そしたら向かうよ』


「SA1了解」


 約二分後。転移門へ向かう部隊が集まった。


『若狭コントロールよりセブンスへ。総員離陸、集合を確認。高度制限及び速度制限解除』


『セブンスより若狭コントロールへ。高度制限及び速度制限解除を確認。――セブンスより総員へ。これより釧路ゲートへ向かう。所定の飛行陣形へ移行次第、速度九五○で作戦地域へ向かう』


「了解!」


 孝弘を含め璃佳の命令に答えると、彼らは速やかに飛行陣形を形成していった。


『さぁ、行くよ!!』


『はっ!!』


 釧路ゲート奇襲部隊は一斉に加速。ジェット旅客機並の速度にまで加速して針路を北北西にして向かう。


『若狭コントロールよりセブンスへ。あと七キロで無線封鎖地点に入ります。ゲート付近のマジックジャミング装置を破壊するまでは無線封鎖は続行。ご武運を』


 璃佳は若狭との通信を終えると、送り先を部下達へ変えた。


『言いたいことはこの前までにあらかた伝えたから、これだけ言っておく。私達の手で、この戦争を終わらせよう。以上』


「了解」


 ごくわずかなやり取り。

 それでも彼等には十分伝わった。

 璃佳は二、三呼吸を整えると口を開く。


『まもなく無線封鎖区域に突入。高度三○○まで降下。海岸沿いの根室本線が見えたら、一五○まで降下。釧路空港の右方を突っ切るよ』


 璃佳の指示に孝弘達は素早く従い、一糸乱れぬ動きをみせる。


 孝弘が視線を北東の方へ向けると、空軍に海軍、一○一旅団含む魔法軍が釧路市街地へ徹底的な空爆を行っているのがよく見えた。ヘリには海兵隊員の先遣上陸隊が満載されていて、海上には上陸部隊第一陣にすぐ続く形で上陸部隊第二陣が数多くいた。


 奇襲効果はそう長く続くわけではない。

 彼等が引っ掻き回している間に、自分達がケリをつけなければ。孝弘は拳に力を入れてそう強く思った。


 転移門の奇襲部隊は海外線すぐの根室本線を通過。さらに高度を落としていく。市街地方面への奇襲上陸に人を割いたからなのか、海岸線での迎撃は無かった。


 だが、そのような時間は案の定長くは続かなかった。

 釧路空港の右方に差し掛かった頃だった。

 賢者の瞳からけたたましい警告音が彼等の耳に鳴り響く。


『警告。八時方向から一○時方向にかけて多数の光線系術式を感知。発射まであと五秒』

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